アーバンエックステクノロジーズ代表取締役の前田紘弥氏
アーバンエックステクノロジーズ代表取締役の前田紘弥氏
  • スマホで撮影した画像をAI解析、道路点検の手法をアップデート
  • 東京都や神奈川県でも本格導入へ
  • 4億円調達、道路に付属するインフラ検知への拡張目指す

データとAIの力を用いて“道路メンテナンス”の方法を変革することによって、持続的な都市のインフラ管理を支えていく——。そのような挑戦に取り組んでいるのが、2020年創業の東大発スタートアップ・アーバンエックステクノロジーズ(UrbanX)だ。

従来、自治体が実施する道路の点検方法としては、高額な専用点検車両を用いた調査(路面性状調査)や専門職員による目視検査が用いられてきた。

前者は効率がいい反面、1キロメートルあたり数万円かかるとも言われるコストがネックになる。そのため多くの場合は職員が実際に道路を走行しながら損傷状況などを確かめているが、目視ではどうしても作業が非効率になりやすく、損傷の見落としも発生しうるといった課題があった。

この解決策としてUrbanXが開発したのが、AIを活用した道路点検サービス「RoadManager」だ。

スマホで撮影した画像をAI解析、道路点検の手法をアップデート

RoadManagerの特徴はスマホやドラレコから取得したデータをAI分析することにより、低コストながら目視検査よりも効率良く道路の点検を進められる点にある。

高価なデバイスなどは必要なく、専用アプリをインストールしたスマホを車に設置した状態で道路を走るだけ。収集された画像データをAIが解析し、損傷箇所などを検出する仕組みだ。

スマホやドラレコを積んで道路を走行するだけでデータを収集することが可能
スマホやドラレコを積んで道路を走行するだけでデータを収集することが可能

道路の状況はウェブ上のダッシュボードにて可視化される。UrbanX代表取締役の前田紘弥氏が「街中のデータが時間と場所でインデックスされるソフトウェア」と話すように損傷の種類や時期、対応状況などがデータとして蓄積されていくため、「台風の前後でこの道路にどのような変化があったのか」といったことを確認する用途で活用している自治体もあるという。

料金は細かい機能や利用方法などによっても変わってくるが、ミニマムでは年額100万円ほどからが目安になる。

ダッシュボードの画面イメージ。道路の状況がウェブ上で確認できる
ダッシュボードの画面イメージ。道路の状況がウェブ上で確認できる

UrbanXの事業は前田氏が東京大学工学系研究科に在籍していた際の研究内容を軸にしたものだ。研究を社会課題の解決につなげるべく、大学から知財やソフトウェアのライセンスを受けるかたちで2020年4月に会社を立ち上げた。

もともと自治体ともタッグを組みながら数年間かけて研究に取り組んできたため、すでに500万枚を超える道路損傷データセットを保有していることも強みだ。

東京都や神奈川県でも本格導入へ

前田氏によるとこの1〜2年ほどで自治体との連携も広がっており、実証実験段階のものもふくめるとすでに30以上の自治体と取り組みを進めてきた。

自治体が顧客となるため、企業向けのシステムなどと比べると正式導入までに時間を要することも多いが、4月からは東京都や神奈川県など関東の主要都道府県でも本格導入が始まった。

たとえばRoadManagerを活用している尼崎市では、もともと年間100件ほどの異常箇所を修復していた。RoadManager導入後は損傷の発見をソフトウェアに任せられるようになったことから、職員がより多くの時間を修復作業に使えるようになり、300件以上の箇所を修復できたという。

ソフトウェアで事前に損傷を検知できるようになれば大きな事故を未然に防ぐことにもつながるだけでなく、住民からの連絡を受けて緊急対応する件数を減らせる効果も生まれたそうだ。

また他の自治体では目視検査では回りきれない道路なども細かく点検できるようになった。そもそもRoadManagerを活用する場合は、職員が別の目的で外出する際に“ついでに”道路の情報を収集できる。「点検のための点検」が減ることで、より効率よくデータを集められるわけだ。

スマホやドラレコを使って道路のデータを集められる
データ収集の負担が少ないのがRoadManagerの特徴。他の用途で外出する際にもスマホを積んでおけばデータが集められる

2021年12月からは三井住友海上火災保険と共同で、同社の専用ドラレコにUrbanXの画像分析技術を搭載した「ドラレコ・ロードマネージャー」の提供も始めた。

このサービスでは許諾を得た上で“ドラレコを設置している小売事業者や物流事業者”などの車両の走行データを収集し、道路損傷箇所の検出などに役立てる。街中を走っている車両をリソースとして有効活用することで「そもそも職員が車に乗って街を走らなくても」道路のデータを取得できるようにするというアイデアだ。

実証実験の段階では、この仕組みを活用することで職員が発見するよりも1ヶ月以上早く異常に気付けたり、そもそも職員の点検では見つけられなかったような損傷を検知できた例もあるという。

4億円調達、道路に付属するインフラ検知への拡張目指す

このような取り組みが加速する中で、UrbanXではさらなる事業拡大に向けてANRI、東京大学協創プラットフォーム開発、三井住友海上キャピタルを引受先とした第三者割当増資により4億円の資金を調達した。

今後はインフラ管理が細かい案件ごとに別々の会社へ個別で委託されるのではなく、1つの事業者に包括的に委託されるようになっていくことも見越して、新たな事業にも取り組む計画だ。

修復工事を受注している建設会社向けのソフトウェアも開発することで異常検知から修復までを一気通貫でサポートする体制を整えるほか、電線や電柱、標識といった道路に付属するインフラの検知にも領域を広げていくという。

「自分たちが目指しているのは街の課題をテクノロジーを用いて解決すること。そのためにハードウェアとしての街を、ソフトウェア的に管理できるようにしていきたいと考えています。デジタルツインの実現もその1つの手段として位置付けていますが、まずは道路やそれに付属するインフラの管理をデジタル化することから始めて、街全体へと広げていく構想です」(前田氏)