画像提供:NReal
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  • 日本に世界先行投入、「一般の人が使う製品」を目指したNreal Air
  • 6DoFには課題も──Nreal Airで示す「一般向けARアプリ」
  • 大手より早いスピードでARグラスを続々提供

「ARグラスが次にヒットする」と言われて久しい。だが、良い製品はなかなか出てこない。そんな中、Nreal社の「Nreal Air」が注目されている。4万円以下と比較的低価格ながら映画も問題なく視聴可能な良好な画質であり、さらに、対応スマートフォンと接続すると、実景の上に3D映像を重ねて表示するAR的な使い方もできる。

NTTドコモおよびKDDIとパートナーシップを組み、両社から販売されているNreal Airは、3月の発売後、人気で一時的に品薄となった。

Nrealはこの製品をどのような狙いで開発したのだろうか。また、デベロッパーの側から見ると、Nreal Airのような製品はどのような価値を持っているのだろうか。Nreal VP兼日本nrealの代表Joshua Yeo(呂正民)氏と、Nreal向けアプリケーション開発も手がけるMESON COOの小林佑樹氏に聞いた。

日本に世界先行投入、「一般の人が使う製品」を目指したNreal Air

まず、Nreal Airがどんな製品か確認しておこう。Nreal Airは、外見的には「ゴツめのサングラス」という感じだ。ケーブルがメガネのツルの後ろから伸びるような構造になっていて、そこにDisplayPort対応の製品をつなぐことで「ディスプレイ」として使える。

Nreal社が開発するARグラス「Nreal Air」 画像提供:Nreal
Nreal社が開発するARグラス「Nreal Air」 画像提供:Nreal

解像度は1920×1080ドットで、視野角は約46度(対角)。ドットの隙間はほとんど感じられず、発色も、色温度が多少低めだが、かなり良好である。そのままPCにつないで使っても、ちゃんと文字も読めるし仕事もできる。

Nrealは「Nebula」というARのための環境も用意している。このアプリを対応するAndroidスマートフォンに入れてNreal Airを接続すると、ウェブやアプリを「空間に配置」して楽しめる。

ただ、Nreal Airが発売される以前の2020年から、同社は「NrealLight」という製品を発売している。デザインは似ているが、Lightは6DofセンサーとSLAMカメラを搭載していて、手の認識や自分の位置の認識(いわゆる6DoF、前後左右に動けて向いている方向も認識する自由度)に対応している。

一方でAirはよりコンシューマー向け製品に最適化されており、カメラセンサーは搭載されていない。認識できるのは自分の向いている方向(いわゆる3DoF)だけだ。では、なぜNrealLightの次にAirを開発したのだろうか。Yeo氏は次のように説明する。

「NrealLightを出してわかったことがあります。ARグラスを求めている人は多いのですが、全ての人がハイエンドなものを求めているわけではない。簡単で、軽く、薄いものを求めている人もいます。市場調査をすると、80%の人がARグラスで映像を見たい、と考えていました。一方、6DoFなどの機能を使う人はそこまで多くはない。もっと軽くして、日常生活に使えるようにする必要がありました」

「また値段的にも、Lightは高い(auオンラインショップでの販売価格は6万9799 円)。一般の方がもっと手軽に買えるように、Airは価格を下げています。とはいえ、AirはLightの後継機種というわけではなく、LightがB2Bなど、より機能を求める用途向けに併存する、という形です。市場にはたくさんのARグラスがありますが、どれも多機能で高価です。誰もが100%全ての機能を使うわけでもない。Lightでは、企業にも開発者にもARを使えるように、98%の人が満足できる機能を入れています。しかし一般の方はAirを使うのがファーストステップとしてもいいでしょう」(Yeo氏)

Nreal VP兼日本nreal株式会社の代表Joshua Yeo(呂正民)氏 画像提供:Nreal
Nreal VP兼日本nrealの代表Joshua Yeo(呂正民)氏 画像提供:Nreal

Nreal Airの発売と同時に、「Streaming Box」という周辺機器も用意された。理由は「利用者を増やすため」(Yeo氏)だ。

「Nreal Airを直接接続して使えるスマートフォンは、一部のAndroidスマホに限られます。Androidスマホ以外の多くの製品、特にiPhoneとつなげ、映像を楽しんでもらうために開発しました。スマートフォンから映像をミラーリングして、Nreal Airに接続できます。ただ、中国がコロナ禍でロックダウンしている影響を受けており、物流が鈍化しています。早くお届けしたいとは思っているのですが」(Yeo氏)

実はNreal Air自体、日本以外の国へはまだ発売されていない。日本で先行して発売されたのには、もちろん理由がある。

「日本にはVRやARの開発者が多く、実力も世界的に先端です。Airを先行して発売することで、高いレベルのユースケースとアプリケーションを開発していただけるものと考えています。ですから、まず日本で発売し、その後に世界へ……ということになったのです」(Yeo氏)

6DoFには課題も──Nreal Airで示す「一般向けARアプリ」

MESONはNrealLightとNreal Airの両方にアプリケーションを作ってきた。NrealのARグラスと対応Androidスマートフォン、そしてNrealが提供するAR動作環境のNebulaを組み合わせ、今回、Nreal Airの発売に合わせて、NTTドコモに企画・開発協力する形で2つの製品デモ体験用ARアプリを発表している。1つは地域観光向けアプリ「ARガイド」、もう1つはリモートワーク向けアプリ「ARルーム」だ。これらは全国のドコモショップ約100店舗にあるNreal Airの体験ブースで試せる。

MESON COOの小林氏は、2つのモデルが用意されたことについて次のように話す。

「弊社はARアプリについて、『未来にはこういうものが広がる』ということを想像してもらえるものを開発しています。NrealLight向けには『3年から5年先にこういう未来が来る』というイメージを描けるものを作ってきました。それに対し、Nreal Air向けのアプリは『今すぐにでも使えるもの』を目指しています。2つのポートフォリオがあるのは、弊社にとってもありがたい戦略です」(小林氏)

では、Nreal Airではどんな体験を目指すのだろうか? やはりそこは、ハードウエアの特性にあったものがいい、と考えているようだ。

「Nreal Air向けには、“ユーザーが動かない”体験がメインになると思います。Nreal Airは、ユーザーから見た時、ARを体験するためのハードルが低いのが利点です。さっとかけて、すぐ視聴できる。ARのためにアプリを作るのでなく、すでに市場にあるもの、例えば動画などを活用したアプリがキラーコンテンツになりそうです。例えば、球場で試合を見ている最中にかけると、目の前にスコアなどの情報が出るようなものです」(小林氏)

そこには、これまでNrealLightでいろいろなアプリを開発してきて得られた体験から学んだものもあるようだ。

「Nreal Lightなどで体験できる6DoFは、体験するまでのハードルが高いんです。どこに立ってどう操作すればいいのか、といったことを理解してもらうために、体験する人を導くアテンド係が必要になります。体験に慣れるために費やす回数や手間などは無視できません。一方で、Nreal Airの3DoFは1人でもできるARになります。現状、6DoFで一般消費者向けのARコンテンツを提供するのは難しいかもしれません。一方、エンタープライズ向けのように、体験までのプロセスをコントロールできる場合であれば、今でも6DoFでのアプリケーションは実用的かと思います」(小林氏)

MESON COOの小林佑樹氏
MESON COOの小林佑樹氏

MESONではNreal Air向けに、複数の開発案件が進んでいるという。そこからは、「ポストスマホ」の世界も見えてくる。

「ARグラスはポストスマートフォンと言われます。iPhone初登場の時にどういうアプリが最初に出たかを考えると、まずはツール系が出て、徐々にコミュニケーションやオンラインショッピング体験に広がっていきました」

「ARグラスも同じだと思っています。今ならば、リモートワークのコミュニケーション・サポートが有用なのではないか、と考えています。Zoomでは同じように対話していても、コミュニケーションしている感じがしない部分があります。そこに(ARグラスを)掛け合わせることで、キラーコンテンツになるのではないでしょうか。弊社でドコモショップでのデモ向けに提供したアプリの中に、リモートワークコミュニケーションを想定したものを入れたのはそのためです」(小林氏)

大手より早いスピードでARグラスを続々提供

一方で、Nreal Airにも課題はいくつかある。アプリがまだ増えていないこともそうだが、Nreal Airにつないで利用するスマートフォンは、かなり性能の高いものでないといけない。映像を見る、単純なディスプレイとして使うなら、スマホだけでなくPCでもMacでもiPadでもいいのだが、Nrealの提供するNebula環境を使ってARアプリを使うには、やはりCGの処理ができる、高性能なスマホが必要になる。

「確かにその点はハードルかと思います。 3DCGやセンサーを多用するため、スマートフォンの性能が高くないといけません。そこは多分、ゲームに使うPCと同じかと思います。ハイエンドな用途になるとハイエンドなPCが必要になります」(Yeo氏)

「ARグラスは小型化し、ゆくゆくは、スマートフォンをつながずに使う『スタンドアローン』なものになっていくでしょう。現状は黎明期です。映像が出るだけでいい、という人もいるでしょう。その上で今後、ARに求めるリッチ度も選択肢が変わってくると考えています。我々は、Nreal Air向けのアプリで、その時代に向けたキラーコンテンツのヒントを提示できたと考えています」(小林氏)

おそらく今後、ARグラスには大手がさらに参入してくる。Appleの参入も噂されているし、MetaやMicrosoftなどが新モデルを投入する可能性もある。大手がやってくることを、Nrealはどう考えているのだろうか。

「大手の参入は、AR業界全体にはいいことです。現状では選択肢がありません。iPhoneが出る前にもMicrosoftなどがスマートフォンのようなものを出していましたが、その段階ではまだソフトの開発スピードが遅かった。Appleなど他の企業が市場に参加することで、いろいろなアプリが登場するようになり、みんながスマートフォンを使う時代になりました」

「ARについてもさまざまな大手が参入し、普及のスピードが速くなると、アプリの開発スピードも上がります。そんな中で、Nrealとしてはスピードを重視します。今後も次々と新しい製品を計画しています。大手よりもっと高い性能で、もっと薄いARグラスを作っていきます」(Yeo氏)