メルカリ創業者で代表取締役社長 CEOの山田進太郎氏
メルカリ創業者で代表取締役社長 CEOの山田進太郎氏
  • 世界への挑戦はまだ始まったばかり
  • 失敗してもいろいろなチャレンジを続けるしかない
  • 海外事業に挑戦して実感したD&Iの重要性
  • 個人的に今注目しているのは「Web3」
  • ここ15年、20年で起業環境はとても良くなっている
  • 「自分の好きなものを追求せよ」次の“挑戦者”へのメッセージ

この10年間、日本のIT・スタートアップエコシステムにおいて、もっとも飛躍した企業の1つ、メルカリ。2013年に誕生したフリマアプリは後発ながら躍進し、2018年には東証マザーズ市場への上場を果たした。4月4日にスタートした新市場区分ではグロース市場から最上位のプライム市場へ変更を申請。循環型社会のプラットフォームを目指して事業領域を拡大しながら成長を続けている。

4月26日にDIAMOND SIGNALが開催した「SIGNAL AWARD 2022」では、そのメルカリの創業者であり、代表取締役社長 CEOを務める山田進太郎氏がキーノートセッションに登壇。自身の挑戦者としての軌跡、次に挑戦する人々へのヒントをたっぷり語ってくれた(聞き手はDIAMOND SIGNAL編集長 岩本有平)。

世界への挑戦はまだ始まったばかり

──メルカリ創業からまもなく9年。当初は競合サービスが先行する中でプロダクトを生み出し、そこから大きく成長して、今は循環型社会をうたうプラットフォームになったメルカリですが、振り返ってみて今は「山の何合目」にあたりますか。

山にたとえるのは結構難しいですが、感覚的には「本当にまだまだだ」という思いが強いです。メルカリのミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というものです。今、日本ではそこそこ使っていただいていて、USでは知る人ぞ知るぐらいの存在ですが、もっともっといろいろな国で使われていないと「世界的」とは言えません。それがスケールするようになってきたら、(描いていた)道筋の上に乗っているなと思えるかもしれないんですが、まだまだヨーロッパやアジアも含めれば、全然手付かずなので、そういう意味では本当に始まったばかりという感覚です。

──世界を向いてビジネスに挑戦することは、創業時から考えていたのでしょうか。

そうですね。もともと僕は前の会社(創業したソーシャルゲーム開発のウノウ。2010年に米Zyngaへ売却)のときから、グローバルでインターネットサービスを作って、その中で「楽しい」「便利」「役に立つ」など、よりたくさんの人にインパクトを感じてもらいたいという思いがありました。前は「モバイル×ゲーム」という領域でチャレンジしたし、今回はCtoCマーケットプレイスという分野でチャレンジしているといったところです。そのときどきで、海外でもいけそうなアイデアという点で選んだテーマでした。

──(Zyngaを離れた後に)世界一周の旅行をして、選んだのがこのサービスだったということですか。

正確に言うと世界一周して帰ってきたら、ちょっと浦島太郎状態だったんですけれども。2012年の終わりぐらいで、スマートフォンが一気に普及して「LINE」などをみんなが使うようになっていたときです。スマートフォン向けに僕が回ってきたような国でも使われるようなものを作りたいというのが、1つのきっかけではありました。帰国していろいろ見ているうちに、この(メルカリの)アイデアがいいんじゃないかと思ったという経緯です。

山田進太郎氏

失敗してもいろいろなチャレンジを続けるしかない

──道半ばでまだまだという話でしたが、今までの9年間で「これはしなくてもよかった」という失敗はありますか。

今思えば未熟だったから、しなくてよかった失敗はもちろんあります。でも、その失敗があって気づいたこと、そこから学ぶこともあったし、そういういろいろなチャレンジの中から成功も生まれてきたと思うので、「こうしなければよかった」とか「こうしておけば」とは、あまり思いません。

──今の起業家や起業志向の若い方に、経験上、注意しておくべきことや、「転ばぬ先の杖」のようなアドバイスはありますか。

アドバイスがあったらそれを防げたか、回避できたかという意味では、結局やっぱり自分でやって、その中から学んでいかないと、なかなか実感がないし、学んでいくのがすごく難しいと思うんですよね。だから、とにかくいろいろなチャレンジをしてみることです。

「こういうプロダクトが世の中で求められてるんじゃないか」と思って作って、それを提供してみて、「思ったように使われない」みたいなところから学んでいく方がいい。もちろん大枠の戦略は必要だと思いますが、ディティールのところで失敗しないで行くというのは本当に難しいというか、不可能だと思います。そういう意味では、チャレンジし続けるしかないかなと思います。

──これまでの取材で伺った話や他メディアでの取材話でも「小さい変更・仮説・検証のようなことを繰り返す、その最初の地道な変更こそが、ユーザーの心を掴んでいった」という話の印象が強いですが、まさにその通りといった感じでしょうか。

そうですね。「こういうものが求められてるんじゃないか」と思って作ってみて、「そうじゃない」と気づいて、「なぜそうなのか」をもう本当に何十回、何百回と繰り返していく。そうすると、同じような何かを新しく始めるときにも、「過去にこういうことあったから、こういうのは多分うまくいかなくて、こういうふうにやったらうまくいくんじゃないか」といった精度が上がってくるイメージはあります。ただ(そういう経験があっても)精度が著しく上がるというものでもありません。というのも、(外部)条件もどんどん変わっていくからです。

プロ野球に例えると、2割打者って「ギリギリプロ」みたいな感じですよね。ところがイチローでも打率は4割で、その2倍ぐらいしか打ってない。結局「5回打席に立って2回しか打てない」という話ではあるわけです。でもその繰り返しが積み重なると、ものすごく大きな変化になってくる。だから、「失敗しないようにすることはできないし、あのイチローでも三振するし」というような世界だなとは思います。

──「イチローでも三振する」で言えば、山田さんでも、いまだに仮説が外れたりするんですか。

いや、それはそうです。もうメルカリにおいても、あらゆる失敗をしてきましたし。でも、そこから学んで、すぐに修正する、ということをするようにして、失敗の数よりもちょっと成功の数が多いといったイメージだと思います。

──本当にそのサイクルを積み重ねていくっていうことなんですね。

海外事業に挑戦して実感したD&Iの重要性

──当初から海外進出は視野に入れていたと最初に伺いました。ご自身のプロダクトで海外に出ることで、心境の変化もあったのではないかと思います。日本と海外、同時にプロダクトを展開していく中で、開発チームを分けたり、ブランディングも変えたりといった試行錯誤をされてきたと思いますが、海外に出たからこそ、気づいたことはありますか。

日本ではそれなりに早く成長しても、やはりUSでやってみるとそうはならない。成長して受け入れられている感覚はあったんですが、そこはやはりアダプト(適応)するのがすごく難しかった。

そこでいろんな現地のエキスパートたちにジョインしてもらうわけですが、プロダクトを作っていく過程で、自分たちではこうだろうと思っていたことが、あっさり「いや、それはないでしょう」と言われたこともありました。で、今度はそれを鵜呑みにしたら、うまくいかなかったこともありましたし。だから「自分自身の判断がだいたい合っている」という状態から、「自分の判断で本当に合ってるんだろうか」と常に疑心暗鬼になりながら、やらなきゃいけないという感覚でした。

これはもしかしたら、起業直後とかでもそうかもしれないんですが、そういう中で、多様な人の意見を聞いて、その中で意見を集約するというか、インクルージョンしてやっていくという、まさに「D&I」(ダイバーシティー・アンド・インクルージョン、多様性と受容)みたいなことが、自分にとってはすごく学びになりました。

日本でも今、エンジニアの半分ぐらいが外国人になってきて、その中ではいろんな衝突やコンフリクトもあります。でも、それを乗り越えていくことで、より多様なお客様に対してサービスが開かれていくような感覚もあります。

──外国人エンジニアの採用を積極的に打ち出したのも、かなり早いタイミングだったように思います。

そうですね。といっても5、6年前のことだと思いますが。

──ちなみに、アメリカ進出にはかなり早期に動かれていたと思いますが、それ以外でも山田さんのSNSなどを拝見していると、海外リサーチのためにヨーロッパなどに行かれているようです。マーケットの選定には何か基準や狙いがありますか。

あらゆる可能性を探っています。国によっても全然状況が違うので、そこで、はやっているものを見たり使ったりすると、すごく学びになります。僕はユーザーインタビューをするのが好きで、もちろんインターネットでのサービスなので(どこでも)使えることは使えるんですが、現地の人がどういうその思いで使っているかを知って学べる、肌感のようなものが、最終的に勝ち筋をつくるときには、すごく重要になると思っています。だから、いろいろなところへ行って、いろんな人の話を聞くといったことは、割とコツコツやっていますね。とはいえ、ある意味、世界一周したほどの旅行好きなので、趣味も半分あるかもしれませんが(笑)。

──前職ではゲームやウェブサービスを扱っていましたが、メルカリはインフラなど、リアルにもかなり繋ぎ込まれたサービスです。国によって戦い方が変わる部分もあると思いますが、そういうインフラやリアルを含めた事情を見に行くのが大事なのか、それとも、その国の方々がどういうプロダクトをどう使っているかという部分が大事なのか。何が市場選定で一番大事だと考えていますか。

それはプロダクトによって全然違うと思います。インターネットで完全に完結するバーチャルドリブンなもの、例えばゲームなどは、言語は訳す必要がありますが、App Storeなどで百数十カ国、一度にリリースしたりもできるわけです。しかしマーケットプレイスなど、今はよりリアルが絡むようなサービスにインターネット(全体)が振れてきています。UberやAirbnbもそうですが、そうなればなるほど、法規制なども含めた現地のいろいろな対応をしていく必要が出てきます。

ただ、人間の本質は変わらないと僕は思っています。例えば今、いわゆるGAFAMと言われるような企業が提供するショッピング、検索、ソーシャルネットワークといったサービスも、基本的にはどこの国の人も熱狂的に使っています。マーケットプレイスも、アメリカならeBay、日本ではヤフオクと、それぞれの国で強いサービスはありますが、基本的にはどこでも存在しうるサービスです。そういう意味で、CtoCサービスに関しては、僕自身はどこでも通用するものだと思います。ただ、エントリーの方法については、プロダクトの形もマーケティングの形も、その現地にアダプトする必要があるというイメージです。

キーノートセッションの様子

個人的に今注目しているのは「Web3」

──少しメルカリの話から離れて、“起業家”山田進太郎さんの話を伺いたいと思います。今、興味を持ったり、注目していたりするサービスやトレンドは何かありますか。

メルカリ自体、「マーケットプレイス」ですごく幅広いものです。だから、例えばブロックチェーンなんかは、大きな意味でマーケットプレイスという見方もできるし、そこに役に立つ技術という見方もできると思っています。まずは暗号資産取引所からスタートしたメルコインや研究開発組織の「mercari R4D」ではずっと関わってきました。

メタバースなども人が集う場という意味においては、マーケットプレイスだと考えられます。そういったいわゆる今あるトレンドは、結構(メルカリの事業に)関わってくる部分が大きいと思っています。ですから、そういった研究開発部門などではかなり幅広く(トレンドを)見ている感じです。

個人的に面白いと思っているのは、バズワードかもしれませんが「Web3」でしょうか。とにかくいろんなことが試行錯誤されていて、ほとんどはうまくいかないと思うんですけれども、やはりこういう中から新しいトレンドというのは出てくると思っています。ビットコインなんかもそれで出てきた、ひとつの最高傑作のようなものでしょう。お金がそうやって、新しく再発明できるんだったら、もっともっと、いろいろなものが再発明できんじゃないかという感じはしているので、そこはすごく丁寧に追うようにはしていますね。

──山田さんはリバタリアン(自由主義)を公言されてもいますし、Web3でうたわれるDecentralize(ディセントラライズ、非中央集権化)という考え方には個人的にも興味が強いのではないかと思います。もし、山田さんが今、学生や20代前半ぐらいで起業するとしたら、やはりWeb3関連なのでしょうか。

個人的にはやはり、そういうものが好きというのもあるので、僕自身という意味だとそうかもしれません。ただ、別にそれだけ(が正しい)ということではなく、いろいろなトレンドがあるので、(起業を)やるなら自分のやりたいことをやるべきかと思います。

──今の若い起業家の方が自分の戦う領域を選ぶとしたら、何を指標にして、どういうことを考えてマーケット選定などをすべきでしょうか。

とにかく、まずは好きかどうかということだと思います。やっぱり好きじゃないと続けていけないっていうのがまずあります。人より詳しくなり、それを続けていろんな失敗もしながら、自分の思うものを作っていくのはすごく難しいので。ただその好きっていうのも、人間、別に何か1つのことが好きというわけじゃなくて、いろいろな側面がある。だから自分が好きだと思うものを、いろいろやってみて、その中でもっと好きになりそうなものを突き詰めていくのがいいんじゃないかなと思います。

ここ15年、20年で起業環境はとても良くなっている

──今、岸田政権もスタートアップの背中を押しましょうという姿勢ですし、経済団体もいろいろな提言をしています。スタートアップ庁を作るといった話もあります。山田さんがもし、そういう提言ができる立場になったときに提言したいこと、伝えたいことはありますか。

僕自身、自分を起業家だと思っているので、今はメルカリがグローバルで成功するということがやはり一番重要で、それが(社会に)波及する効果はすごく大きいと思っています。だから、あまり諸条件を考えて提言しても、もしかしたらそれが別のことに波及するのではないかなど、いろいろ考えて、あまり政治的な発言はしないようにはしてきています。

その前提で、いわゆる“イコールフィッティング”というか、競争環境を整えるということは、もしかしたら政府などができることではないかという気はしています。いろいろな規制があって日本ではできないことは、やはりたくさんあると思いますし、足かせになっている部分がいろいろなところにあるとも思います。その1つ1つをどうすればいいのかは正直、僕自身もわからないこともあります。でも「これって本当に必要なんだっけ」ということを1つ1つ、前提から考えるというか、見直すということはしてほしい。

昔々に制定された、インターネットがない時代の法律によって、例えばUberのようなライドシェアや民泊ができないなど、いろいろな例があると思います。そこはやはり、ちゃんと実情に合った形で考えて、「本当に今の時代にこれって必要なんでしたっけ」というようなことは議論してもらいたいとは思います。

──これまでの起業家人生を振り返って、その辺りはだいぶ良くはなっていますか。起業しやすい環境に。

うん、それは良くなっていますね。資金とかは特に顕著だと思います。僕が2000年代前半ごろに起業したときっていうのは、本当にVCもエンジェル投資家も数えるぐらいしかいなかったのが、今や、ものすごい数のVCもエンジェルもいて、そこが改善したのはすごく大きいですよね。

エンジェルには、かつて、いろんなビジネスで成功された方も多いです。そういう方のノウハウがまたスタートアップの方に注入されるとエコシステムのようなものができるんですが、やはりそんなにすぐにはできないわけです。それが15年、20年という時間をかけてすごく成長していることは実感としてあります。もちろんシリコンバレーはさらに大きくなっているんで、全然追いついてはいないんですが、でもすごく良くなってきているなという感覚はありますね。

山田進太郎氏

「自分の好きなものを追求せよ」次の“挑戦者”へのメッセージ

──「ノウハウをその次の世代に注入する起業家出身の投資家が現れて、スタートアップのエコシステムが回っている」という話でしたが、山田さんご自身から注入いただくとしたら、どういうメッセージがいただけるでしょうか。

やはり、自分が「こういうものがあったらいいんじゃないか」という、自分が欲しいものをプロダクトとして作ってみることを勧めたいと思います。作ってみたら、ものすごく使われるかもしれないし、全然使われないかもしれない。でも、どちらであっても、すごく学びがあると思うんですよね。そういうことをやっているうちに「これが本当に好きなことだったのか」「自分がやりたいことなのか」ということがわかってくると思います。

今はAWS(Amazon Web Service)とかGCP(Google Cloud Platform)とか、本当にいろいろな(クラウド上の)インフラがあるので、インターネットスタートアップならいろいろなものを自分で作れる時代です。だから、とにかくプロダクトを作って、小さくてもクローズドでも、友達限定でもいいので、何か試してみることが、世の中を大きく変える、何か1つのきっかけになっていくんじゃないでしょうか。

──欲しいものを作る、トライアンドエラーを繰り返して、それを磨いていくことを、極めて愚直に続けて、好きなものを突き詰めて作っていく、やり続けるといったことが大事ということでしょうか。

そうですね。愚直っていうのもそうなんですが、例えば僕だったら、旅行が好きだから、旅行に行けば毎日楽しいじゃないですか。あるいは漫画とかでもいいんですが、漫画を読んでる時間って、別に時間を感じずに読んでいると思うんですよね。

確かに「人が辞めちゃう」とか「プロダクトが全然受けない」とか「お金がどんどんなくなっていく」とか、いろいろな苦しいことはあるんだけど、でもそれも含めて楽しめるぐらい好きなことであれば、そんなに気にならないかなと思うんです。自分の好きなことで自分の好きなものを作るという状態を、いかに作れるか、そこに持っていけるか。スタートアップもそうですが、スタートアップ以外でも、楽しく、生きがいのある人生を送るって、そういうことなんじゃないかなと思います。