
「建設業界は世界の市場規模が1300兆円と言われるほど、とても大きな産業です。一方で労働生産性の上昇率という観点では年に1%ずつしか成長しておらず、他の産業と比較しても著しく停滞しています。この状況を(部材の)調達という領域から変えていきたいと考えています」
そう話すのは、建設業に特化した部材調達サービス「BALLAS」運営元のBALLASで代表取締役を務める木村将之氏だ。
新卒で総合商社の双日に入社し、金属・資源分野の輸出入や事業投資、金属3Dプリンター事業の海外展開などを経験。約7年間勤務する中で「テクノロジーを活用して建設業界をアップデートしていくことには社会的にも大きな意義がある」と考え、スタートアップを経て2022年2月にBALLASを立ち上げた。
同社が現在運営しているのが“建設部材の調達”の構造を変える新しいサービスだ。施工会社にとって負担の大きかった調達業務をウェブ上でまとめて依頼できる仕組みを作ることで、生産性の向上を後押ししたいという。
通常、建設業では複数の図面を作成しながら取引が進む。まず元請会社が施主の要望に基づいて設計図を作成し、それを基に施工業者が施工図を作る。そしてその施工図を参考にして、今度は工場が製作図を完成させていく。製作図の作成は「図面バラシ」とも呼ばれる。


木村氏によると、この図面バラシこそが事業者の生産性向上を妨げるネックになっているという。施工業者は建設部材の専門家ではなく、一方の工場も施工の専門家ではないため、コミュニケーションに多くの時間がかかってしまう。この課題を解決するのがBALLASの役割だ。
同社のサービスを使えば施工主は図形バラシから特注建設部材の制作までを“丸投げ”できる。施工主がやることは施工図の図面をアップロードし、フォームに必要事項を記載するだけ。BALLASが図面バラシを代行した上で、加工内容や納品場所を加味して最適な向上を選定し、製作の依頼をする仕組みだ。
「調達業務はとても煩雑で、関連するコミュニケーションなども含めるとざっくり1ケ月以上の時間がかかっていました。BALLASがこの業務を担うことで、施工業者の方は1日程度の時間で依頼ができるようになる。結果として本来の施工に集中できるのが最大のメリットです。工場の人たちも同様の課題を抱えているので、(BALLASを介することで)製作に集中できるようになります」(木村氏)

木村氏は父親が建築士だったこともあり、幼少期から施工現場を訪れるなど業界に馴染みがあった。父親と全く同じことをするだけでは面白くはないので、別のかたちでこの業界に関わりたい──。そのような思いから就職活動の際には建設や素材関係の企業を中心に検討し、最終的には総合商社で金属資源分野の事業に携わる道を選んだ。
双日を経て入社したCatallaxyは、金属加工の商取引プラットフォーム「Mitsuri」を手掛ける。言わば現在BALLASが運営しているような仕組みを製造業の領域で展開しているスタートアップだ。
製造業においては商取引をテクノロジーで効率化していくサービスがすでに複数出てきており、2021年に約80億円を調達したキャディなどがその代表格。木村氏もまずはCatallaxyで製造業の課題解決から始め、ゆくゆくは建設業にも拡張していきたいという考えを持っていたそうだ。
ただ実際にやってみると「見立てが甘いところもあった」(木村氏)。上述した図面バラシという特殊な業務を踏まえると、建設業に最適化した仕組みが必要だと判断した。結果的にはCatallaxyの経営陣とも相談した上で、別会社としてゼロから事業を始めることを決め、2022年2月にBALLASを立ち上げた。
現時点では図面の作成は部材製作の知見のあるメンバーを中心に人力で進めている部分が多く、それ以外の領域をITを活用しながら効率化している状況だ。ただ「本丸はあくまで図面バラシの領域」(木村氏)であり、データを蓄積した先では機械学習などのテクノロジーも駆使しながら、さらに進化した部材調達体験の実現を見据えている。
BALLASではそれに向けてANOBAKA、mint、SBIインベストメントなどから約1億円の資金調達も実施した。今後は体制強化をしながら、プロダクトの機能開発を進めていくという。