
- 過去のニュースから、将来の企業業績を予測
- ダウ・ジョーンズのデータ基盤連携はアジア初
- 注目を集める「Forecast Tech(予測テック)」
AIによるニュース分析で市場変化を予測するSaaSサービス「xenoBrain(ゼノ・ブレイン)」を開発するスタートアップのxenodata lab.(ゼノデータ・ラボ)。同社は6月20日、ゼノ・ブレインの正式提供を発表した。正式提供の発表にあわせてダウ・ジョーンズ・ジャパン(以下、ダウ・ジョーンズ)との提携も強化する。(編集・ライター 野口直希)
過去のニュースから、将来の企業業績を予測
ゼノ・ブレインは、最新のニュースや対象企業に関する各媒体の記事を閲覧できるビジネスオンラインデータサービス。ゼノデータ・ラボ代表取締役社長の関洋二郎氏は、公認会計士の資格を持ち、過去にはユーザベースでビジネスオンラインデータサービス「SPEEDA(スピーダ)」を開発していた人物。「事実情報の拡充よりも、『集めた情報をもとにした将来への示唆』が重要」という思いから、2016年2月にゼノデータ・ラボを立ち上げた。
関氏の言葉のどおり、ゼノ・ブレインはさまざまなニュースをもとに、これから起きる事象や企業の業績変動を予測する。ニュース記事の自然言語を解析し、過去のニュースを参照したり、因果関係の高い出来事をリサーチしたりすることで、今後起こりうる出来事を抽出する。
たとえば、海面温度が上昇する「エルニーニョ現象」発生のニュースが発表されたとしよう。過去のデータによれば、この現象が報じられた年は暖冬になり、電力需要が減る確率が高い。コーヒー豆の生産量が減り、価格の上昇要因になる。結果としてコーヒー豆を扱う食品メーカーの企業の減益が予測できる。まさに「風が吹けば桶屋(ここでは食品メーカーだが)がもうかる」を探るのだ。ゼノ・ブレインでは、こうした出来事の連鎖がツリー状のチャートで表示される。

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企業ごとに、関連するニュース記事の検索も可能だ。企業ごとに影響を及ぼすニュースを抽出して想定されるリスクを提示するほか、国内上場企業であれば、決算情報の分析機能なども提供する。
ベータ版を公開したのは2018年11月。すでにみずほ銀行や「ひふみ投信」を運営するレオス・キャピタルワークスなど、金融機関を中心に約50社が導入。株価や企業業績の分析に利用するだけでなく、営業職が新規提案のための情報収集に使うケースもあるという。
ダウ・ジョーンズのデータ基盤連携はアジア初
ダウ・ジョーンズは、「The Wall Street Journal(ウォール・ストリート・ジャーナル)」などを発行する経済・ビジネスに特化した米国のメディア企業。2018年7月にゼノ・ブレインと業務提携契約を結んで記事データの提供を行っていた。今回の提携にともない、提供する記事データを拡張。ダウ・ジョーンズが運営するデータプラットフォーム「ダウ・ジョーンズDNA」が扱う国内外の主要新聞、業界紙、雑誌、通信社など8000以上のメディアの記事をゼノデータ・ラボに提供する。膨大なコンテンツを解析することで、ゼノ・ブレインのニュース解析精度をより高めることを狙う。ちなみに、アジア企業でダウ・ジョーンズDNAと提携するのは、ゼノデータ・ラボがはじめて。
今回の提携について、ダウ・ジョーンズ パートナーシップ・アンド・アライアンス アジア・パシフィック責任者のクリストファー・エリス氏は、「私たちは130年以上に渡って信頼できる情報を蓄積し、提供してきた。ダウ・ジョーンズのニュースデータとゼノデータ・ラボの持つマーケットをリードする洞察力や分析力を組み合わせて、画期的な情報を日本企業に提供する」とコメントした。
注目を集める「Forecast Tech(予測テック)」
世界的な影響力を持つダウ・ジョーンズと密な連携を進めるゼノデータ・ラボ。三菱UFJ銀行などメガバンクからの資金調達や時事通信との業務提携も実施するなど、2016年創業のベンチャー企業にもかかわらず、名だたる企業から注目を集めるのはなぜなのか。
一因として考えられるのが、世界的な「予測業界」の盛り上がりだ。金融に限らず、未来を示唆する企業はあらゆる業界に現れており、関氏はそれらを「Forecast Tech(Forecast Technology)」と呼ぶ。
例えば、時系列データに基づいて製品需要を予測するAmazonや2014年にGoogle(現Alphabet)の買収で話題になったDeepMind、国内企業では飲食店向けの需要を予測するトレタや、犯罪予測システムを開発する日立製作所などがForecast Techの代表例だと関氏は語る。
「近年、AIは著しい技術的発展が続いており、開発に欠かせない解析用のデータ量も爆発的に増加しています。こうした背景からForecast Techへの開発資金流入は盛んになっており、特にスタートアップは国内外ともに大きな資金調達も目立ちます。今後もこの流れは拡大し、プレイヤーはさらに増加するでしょう」(関氏)
今後は解析精度の向上と同時に、サービス内容の拡充を目指す。まずは分析対象を海外の上場企業や国内の未上場企業に拡大。また、将来の出来事がどの程度先の未来に起こるのかを予測する「時間軸」の導入や、より重要になりそうな出来事を強調する「予測の重み付け」などを予定している。
さらに、データ解析を用いた新たなサービスの開発も計画中。その一つが、新たな企業評価モデルの構築だ。
「現在はアナリストやリサーチファームが企業価値を判断していますが、その際に参照するのは財務諸表などの過去の数値ばかり。ゼノデータ・ラボではニュースを分析し、企業への影響を計測することで、新たな評価軸を取り入れたスコアリングのモデルを提案していく。今後は与信や投資などのシーンでの実用化を目指す」(関氏)