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  • デット?エクイティ? スタートアップの主な資金調達手段
  • スタートアップの資金調達で活用したい「種類株式」とは
  • 日本でも活用進むJ-KISSなどのコンバーティブルエクイティ
  • シード、シリーズA、シリーズB……資金調達ラウンドによる違い

起業家が自らのアイデアをかたちにし、世の中を変えるプロダクトやサービスを生み出すためのブースターとして機能するのが、外部からの資金調達だ。だがシリアルアントレプレナーや自己資金を十分に持つ起業ならともかく、初めての起業ではファイナンス(金融)の用語を把握するのにも苦労するかもしれない。

今回はスタートアップの資金調達にまつわる用語の基本をあらためて解説する。

デット?エクイティ? スタートアップの主な資金調達手段

スタートアップの資金調達の手段は主に2つある。「デット(Debt)ファイナンス」と「エクイティ(Equity)ファイナンス」だ。

  • デットファイナンス:融資や借入、社債発行などによる資金調達
  • エクイティファイナンス:新株や新株予約権付社債の発行による資金調達

貸借対照表(B/S)上では、デットファイナンスでは負債が増加するのに対し、エクイティファイナンスでは資本が増加する。デットファイナンスでは負債を資金の借入先に返済する必要があるが、エクイティファイナンスで調達した資金は原則として出資者(株主)に返還する義務を負わない。株主は投資先の将来の株価上昇による利益か、配当金を得ることを目的として投資を行う。

スタートアップの主な資金調達手段

エクイティファイナンスは、定期的な償還が不要で時間のかかる取り組みへの投資が可能なことから、創業時や新規事業立ち上げ、R&Dなど、今後の収益化を目指す事業や取り組みを進めるための資金を調達する際に活用されている。ここからは、エクイティファイナンスに関連するさまざまな用語について、詳しく見ていこう。

スタートアップの資金調達で活用したい「種類株式」とは

増資による資金調達においては、「普通株式」のほかに、さまざまな権利を付与(制限)した「種類株式」を発行することができる。エクイティファイナンスを成功させるためには、種類株式の活用が有効な手段とされている。

  • 普通株式:株主の権利に制限なし。株式市場で売買される株式は原則として普通株式
  • 種類株式:一定の事項に関する株主の権利を優先、または制限した株式

会社法上の規定で種類株式に設定できる事項は以下の9種類だ。

種類株式に設定できる事項

会社の定款に定めることのできる種類株式の権利は会社法の規定で決まっているが、それ以外にも投資契約や株主間契約で権利を直接、または間接的に制限・優遇することも可能だ。

特にスタートアップの資金調達においては、剰余金配当や残余財産分配の優先株式設定を用いることが多い。種類株式は普通株式と区別するために「A種株式(A種優先株式)」「B種株式(B種優先株式)」……などと呼ばれ、それぞれにどのような権利が付与され、制限されているかは、定款や投資契約書で規定される。

種類株式を活用することで、スタートアップは経営への関与度を維持したり、意図しない株主へ対応したりすることが可能となる。また逆に、出資者に経済的利益やガバナンスに対する権利を与えることで株式の魅力を高めたり、株式の流動性を高めることで投資家の出資に対するハードルを下げたりすることもできる。

日本でも活用進むJ-KISSなどのコンバーティブルエクイティ

エクイティファイナンスの一種(エクイティファイナンスとデットファイナンスの中間的な資金調達の手段)として、新株予約権や新株予約権付債権といった「コンバーティブル投資手段(コンバーティブルエクイティ)」が活用されるケースも増えている。

コンバーティブル投資手段では、スタートアップが新株予約権等を発行し、投資家がこれを有償で引き受けることで投資が実行される。投資家は将来、企業価値評価の正確性が高まったタイミングで株式転換を行う。資金供給時には株式への転換価額を決めず、価額決定の計算式のみを事前に定めるスタイルが一般的だ。コンバーティブル投資手段の長所は、企業価値評価の先延ばしができ、簡素な調達手続きにより迅速なファイナンスが可能な点、株式転換の条件を自由に設計でき、柔軟なインセンティブ設計ができる点が挙げられる。

コンバーティブル投資手段は、米国シリコンバレーでは立ち上げ初期のスタートアップの資金調達方法として以前から活用されており、日本でもVCやエンジェル投資家からスタートアップへの投資で活用され始めている。投資契約書のひな形として「J-KISS(日本版KISS(Keep It Simple Security))」が無償公開されているため、「J-KISS型新株予約権」による調達などと呼ばれることもある。

コンバーティブル投資手段の特徴

シード、シリーズA、シリーズB……資金調達ラウンドによる違い

資金調達ラウンド(投資家から見れば投資ラウンド)とは、投資家がスタートアップに対して投資を行うフェーズを表す。

スタートアップから各ラウンドで発行される株式は、ラウンドごとの種類株式になっているのが通常だ。たとえばシリーズAラウンドで発行される株式はA種優先株式、シリーズBラウンドではB種優先株式といった具合である。

以下は、各ラウンドの名称と、対応するスタートアップの事業成長フェーズの目安である。

資金調達(投資)ラウンドとスタートアップの事業フェーズ

また、各ラウンドの資金調達の目的や金額、投資家の特徴を以下に簡単にまとめた。

シード期

  • 資金調達の目的:プロダクトの初期開発やPMF(プロダクトマーケットフィット、製品が市場に価値をもたらす状況)が達成できるどうかを仮説検証するための資金
  • 調達額:エンジェルラウンドで数百万円〜数千万円、シードラウンドで数千万円〜数億円
  • 投資家:エンジェル投資家やシード特化型ベンチャーキャピタル(VC)

アーリー期

  • 資金調達の目的:プロダクトの売り上げ拡大のための人件費や設備投資、マーケティング費用など
  • 調達額:数億円〜十数億円
  • 投資家:VC、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)

ミドル期

  • 資金調達の目的:プロダクトの機能拡張のための開発や、さらなる売り上げ拡大のためのマーケティングへの積極投資、人材確保など
  • 調達額:十数億円〜数十億円
  • 投資家:VC

レイター期

  • 資金調達の目的:企業規模の拡大や海外展開、関連事業の開発、上場に向けたスタッフ増強など
  • 調達額:数十億円〜
  • 投資家:VC、PEファンド(プライベートエクイティファンド)

一般には、A種優先株式よりもB種、B種よりもC種……と、ラウンドが進むごとに種類株式の優先度は高くなる傾向がある。これは、後のラウンドほど投資家のリスク許容度が低く、取得価額と比較したイグジット価額の倍率が低い分、優先して配当や分配が行われる想定となっているためだ。

初めて起業するスタートアップにとっては特に、投資家との投資契約締結にはわかりにくいことも多いだろう。しかし、エクイティファイナンスにおいては、スタートアップは投資家に会社の株式の一部を渡すことになる。やり方を誤れば、経営権を渡しすぎて重要な意思決定ができなくなったり、イグジットの際に創業者利益を受けられなくなったりするおそれもあることを、肝に銘じておくべきだろう。


参考資料:
中小企業者のためのエクイティ・ファイナンスの基礎情報(中小企業庁)
「コンバーティブル投資手段」活用ガイドライン(経済産業省)