
- ライドシェア、次世代バイク便からの2度のピボット
- 全国1万台以上の配達パートナーと配送管理システムを提供
- 大手百貨店の「松屋」とも提携、フードデリバリー以外にも拡大
コロナ禍を機に大きく成長したフードデリバリー市場。ICT総研が実施した「2021年 フードデリバリーサービス利用動向調査」によれば、2018年時点で3631億円だったフードデリバリーサービスの市場規模は2021年に5678億円へと成長。2022年には6303億円、2023年には6821億円へと拡大することが見込まれている。ここ数年、街中でUber Eatsや出前館といったフードデリバリーの配達員を見かける機会も多くなったのではないだろうか。
外出自粛などの影響で落ち込んだ売り上げを回復させるべく、新たにフードデリバリーを開始した飲食店も多いが、ネックとなっているのが「手数料」だ。フードデリバリーサービス大手のUber Eatsは売上の35%が手数料としてかかり、出前館は10%のサービス利用料、配達代行を依頼する場合は25%の手数料がかかる仕組みとなっている。
であれば、「自前でフードデリバリーを」と思うかもしれないが、配送網の構築や配送の管理などフードデリバリーを始めるにあたっての飲食店側の負担も大きい。

こうした配送にまつわる負担を解消するサービスとして、需要が増えつつあるのがラストワンマイル配送プラットフォーム「CREW Express(クルーエクスプレス)」だ。CREW Expressは配達パートナーの獲得から稼働管理までを一括で構築するほか、既存配送網の配送管理コストの削減や配送効率の改善も図れる、というサービスである。
運営元のAzit代表取締役CEOの吉兼周優氏は「この半年で売上が10倍に拡大している」と言い、「この調子で成長が続いていけば年商も一桁億円になる見込み」だという。
ライドシェア、次世代バイク便からの2度のピボット
Azitの設立は2013年11月。もともとは、自家用車の運転手と移動したい乗客をマッチングさせるライドシェアサービス「CREW(クルー)」を2015年から提供していた。
CREWは乗車を希望するユーザーがアプリを使って配車を依頼すると、近くを走行する「CREWパートナー」とマッチングされ、目的地まで送迎されるという仕組み。日本では自家用車による有償運送は、いわゆる「白タク」行為として禁じられている。そのため、「運賃」を「任意の感謝料」に置き換えることで、サービスを成立させていたが、「運転手の仕事が奪われる」としてタクシー業界から反発を受けていた。
こういった背景から、資金調達が難航。2019年には資金繰りが悪化し、40人ほどの社員、そしてほぼ全員のアルバイトを対象に、整理解雇を実施した。
そうした状況下でも「CREWは続けていこうと思っていた」(吉兼氏)そうだが、コロナ禍で利用者が激減。2020年1〜3月ごろには利用者が100分の1になってしまったこともあり、サービスをピボット(方向転換)することを決めたという(編集部注:現在CREWは長期の運営休止中。事実上、サービス終了の状態にある)。
CREWの運営で培ってきた、運転手と乗客のマッチングを最適化する技術やアルゴリズムを活用した効率的な配車の仕組みを活用するかたちで、2020年8月にスタートさせたのが前述のCREW Expressだ。リリース当初は“次世代バイク便サービス”をうたい、既存のバイク便と比べてコストを最大50%削減できる点を強みに大手企業からの導入を狙っていた。しかし、サービスを運営していく中でバイク便のリプレイスは難しいことに気づく。
「市場規模も200億円ほどと大きくなく、大手企業も月次で数千万円ほどしかバイク便にコストをかけていない。経費の中で占める割合は大きくなく、年に一度見直しの会議があるかないかだったので、スピード感を持って進めるのは難しいと思いました」(吉兼氏)
全国1万台以上の配達パートナーと配送管理システムを提供
そこから、さらに事業内容をピボット。「(コロナ禍で需要が増えていた)フードデリバリーのように、今すぐに商品を届けたい配送、オフィスや店舗間の企業内配送などの当日配送にフォーカスすることにしました」(吉兼氏)という。
それらの必要とされる配達パートナーの獲得から稼働管理までを一括で構築するほか、既存配送網の配送管理コストの削減や配送効率の改善も図れる現在のかたちに行き着いた。
CREW Expressは、まずクライアント企業各社に専属のコンサルティングチームをアサインし、需要予想や配達パートナー供給の設計、適切な商圏や配送距離の設定、調理時間と到着予測時間の管理など、ラストワンマイル配送の仕組みを構築する。
そこから、自転車・バイク・カーゴ(軽四輪)といったラストワンマイル配送に必要な配達パートナーの全国1万台以上のネットワークを活用し、配達パートナーを提供するほか、リアルタイムの位置情報をもとにしたAIによる配送管理システムを提供している。

「従来のフードデリバリーサービスは販促キャンペーンと収⼊が連動しているほか、ピークタイム・オフタイムがあるため、収入が不安定な側面があります。一方、CREW Expressはシフト制(1時間ごとの⽀払い)でオフタイムにも収⼊が発⽣するほか、(販促キャンペーンなどもなく)稼働スケジュールが安定しています」(吉兼氏)
そのため、配達パートナーのCAC(顧客獲得単価)相場は従来のフードデリバリーサービスで3万円程度かかることが多いが、CREW Expressは1万円以下となっているという。
大手百貨店の「松屋」とも提携、フードデリバリー以外にも拡大
全国1万台以上の配達パートナーのネットワークを活用することで、当初クライアントの多くはフードデリバリーが中心だったが、最近は大手百貨店の「松屋」の当日配送、モバイルバッテリーシェアリングサービス「ChargeSPOT(チャージスポット)」のモバイルバッテリーの郊外での回収から都市部への配送などにも活用が進んでいる。
5月11日には、プロダクト開発と組織体制の強化を目的にAzitはLogistics Innovation Fund、coconala Skill Partners、90sを引受先とした第三者割当増資により、3.5億円の資金調達を実施した。今後、事業拡大にアクセルを踏んでいくという。
「CREW Expressは都内⼀部エリアから開始し、東京全域、全国規模といったように規模を広げていくことができる。エンタープライズ向けにすることで、高ARPU(1ユーザーあたりの平均的売り上げ)を実現できています。今後はクライアントをたくさん増やすというよりは1社あたりの規模を広げていき、着実に売上をあげていければと思います」(吉兼氏)