
- ルーツは2000年から始めたベンチャー育成事業
- 自身の経験活かし、MBOやスピンアウトの支援を強化へ
ドリームインキュベータの100%子会社として、2019年10月より国内スタートアップへの出資を手がけてきたDIMENSION(ディメンション)。みずほ銀行や秋元康氏など外部の投資家からも資金を集めて始動した1号ファンドでは、2年半で20社を超える企業を支援してきた。
2021年9月には代表取締役社長の宮宗孝光氏が株式を買い取るかたちで、親会社のドリームインキュベータから独立(MBO)。社外取締役として元SHIFT取締役の鈴木修氏や元スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏が加わり、新たなスタートを切っている。
そのDIMENSIONがスタートアップ投資を加速させるべく、2号ファンドを立ち上げた。
同ファンドには産業革新投資機構(JIC)のほか複数の事業会社や11名の上場企業創業者、個人投資家らが出資しており、最終的には総額100億円規模を予定している。上場起業家が多く参加しており、彼ら彼女らが後輩起業家の経営をアシストするような体制を作っているのが1つの特徴だ。

投資対象は1号ファンドと同じくシード・アーリーステージとIPO前のグロースステージのスタートアップ。追加出資なども含めて1社あたり数千万円から数億円を投資する。
2号ファンドではデジタル、インフラ、ヘルスケア、エンタメといった領域に加えて、「ディープテック」や「大企業やメガベンチャーからのMBO・スピンアウト企業」への投資も強化する方針だ。前者に関してはシャープ子会社で知財サービスを提供しているScienBiziP Japanと連携し、技術戦略や知財面からも投資先をサポートしていくという。
ルーツは2000年から始めたベンチャー育成事業
冒頭でも触れた通り、DIMENSIONは国内スタートアップへの出資を行うベンチャーキャピタルファンドの運営会社として設立された。
もともと親会社のドリームインキュベータでは2000年の創業時から“ベンチャー育成事業”としてスタートアップへの出資や支援に力を入れてきた。約20年間にわたって積み上げてきたハンズオン型の出資支援が強み。2019年2月までの間に約150社に出資しており、マイネットやアライドアーキテクツ、DLEなど30社近くの上場企業が生まれている。
この事業をさらに強化する目的で、外部の投資家からも資金を集めて運営していたのがDIMENSIONの1号ファンドだ。
同ファンドでは年間10社前後のペースで新規投資を実施し、五常・アンド・カンパニーやLegalForce 、ナイル、Antwayなど2年半で24社に出資をした。2021年12月に東証マザーズに上場したサスメドは、1号ファンドの投資先では最初のIPO事例だ。
「(ドリームインキュベータとして2000年からベンチャー投資に取り組んできた中で)より規模を拡大していきたいと考え、取締役会で起案してDIMENSIONを立ち上げました。当初から大きな取り組みができる形態を取るために、ドリームインキュベータが100%のLPとなるのではなく、社外のLPにも加わっていただきながら運営しています。1号ファンドを通じて自分たちが培ってきたハンズオン支援の機能は有効だと改めて感じることもできました。今回のファンドではさらに規模を広げるとともに、機関投資家や上場起業家の方など『外の輪』を強化することで、起業家の支援や社会的に意義のある事業の創出に貢献していきたいという強い思いを持っています」(宮宗氏)
DIMENSIONにとって、ドリームインキュベータからのMBOは1つの転機とも言える出来事になった。以前から将来的な独立を視野に入れていたわけではなく、ドリームインキュベータの経営体制が変わり、それに伴って会社の注力領域が整理されたことなどがMBOを検討するきっかけだったという。
宮宗氏自身は新卒で入社したシャープでデバイスエンジニアとしてキャリアをスタートさせた後、2002年にドリームインキュベータに入社。大企業向けの戦略コンサルティングと並行して翌年からスタートアップの支援に携わり、2016年からは同部門の事業統括を務めてきた。
事業にかける思いの強さに加え、成長支援のノウハウや大企業の経営者を始めとしたネットワークは、起業家をサポートする上でも十分に活かせるはずだという手応えがあった。また自身がMBOを経験すればMBOやスピンアウトの支援にも役立つと考えたことも、独立の道を選ぶ理由になったという。
最終的にはドリームインキュベータの経営陣とも協議した上で、ベンチャー育成事業を引き続ぐような形でMBOを実施。1号ファンドのLPはもともとドリームインキュベータの子会社が運営することを前提に投資していたこともあり、各社へ説明にまわりながら、納得をしてもらうかたちで新生DIMENSIONとしての活動を始めた。
自身の経験活かし、MBOやスピンアウトの支援を強化へ

ドリームインキュベータから独立することで、同社のブランドや後ろ盾がなくなるという点ではデメリットもある。一方で機関投資家や上場企業経営者をLPに迎えやすくなることなど、今まで以上に柔軟かつ身軽な体制で運営できるようになったメリットもあるという。
「2号ファンドでは先輩の上場起業家が後輩起業家の経営をアシストするような体制を整えていきます。もともとDIMENSIONでは人の輪やつながりを大事にしてきました。今回LPとして参画いただいた経営者や(宮宗氏がかつて務めていたシャープの子会社にあたる)ScienBiziP Japanとの連携も、これまでのつながりがきっかけです。これらを活かしながらDIMENSIONならではの機能や取り組みを実現していきたいと考えています」(宮宗氏)
チームとしてもMBO後に元SHIFT取締役の鈴木修氏(鈴木氏は新ファンドのゼネラルパートナーも担う)や元スクウェア・エニックス代表取締役社長の和田洋一氏が加わり、ハンズオン支援の幅が広がっている。
またDIMENSION自身がMBOを経験したことで、MBOやスピンアウトを検討する起業へ具体的なアドバイスや支援ができるようにもなった。これまでも400FやBranditなどMBOを実施したスタートアップへの出資も手がけてきてはいたが、上場企業からのMBO経験があるVCは少なく「自分たちにとって大きな強みになる」と宮宗氏は話す。
実際に独立後はMBOやスピンアウトに関する相談は増えているとのこと。現時点では詳細を明かせる段階ではないとした上で、新ファンドの最初の投資先が上場企業からのスピンアウト企業になる予定だと説明した。
「今後は日本でも大企業や上場企業からのMBOが増えていくと考えています。私自身もMBOをするにあたって、経験者の方からいただいた助言が力にもなりました。(MBOにおいては)両者の間で価値の差分があることが多いので、丁寧に交渉しながら条件を決めていったり、場合によっては人の感情のねじれや嫉妬なども乗り越えていかなければなりません。今回のファンドでは『MBOやスピンアウト案件のアシスト役になっていく』ということを1つのテーマとして意識しながら取り組んでいきます」(宮宗氏)