mojaで代表取締役を務める吉木敬祐氏。自身の営業マン時代の経験が起業のきっかけになったという
mojaで代表取締役を務める吉木敬祐氏。自身の営業マン時代の経験が起業のきっかけになったという
  • 「組織図」作りで激変した営業経験が原体験
  • 名刺管理サービス「Sansan」と連携し自動で組織図を作成

「今振り返っても、本当に売れる営業マンではなかったんです。新規開拓の営業時に名刺を目の前でシュレッダーに刻まれたことや、訪問先から 『もう二度と来ないでください』と言われて悔しい思いをしたこともありました」

自身の新人営業マン時代をそのように振り返るのは、セールステック企業のmojaで代表取締役を務める吉木敬祐氏だ。

新卒で入社したリクルートでは人材領域のサービスを担当。主に大手ナショナルクライアント向けの人事コンサルティングに携わり、統括部の新人賞や営業MVPを獲得した経験もある。現在は自身が培った知見も活かし、営業活動の成否に影響する“営業組織図”の作成を自動化するサービス「ulu(ウル)」の開発に取り組む。

「組織図」作りで激変した営業経験が原体験

きっかけとなったのは、吉木氏自身の営業マンとしての経験だ。冒頭の言葉にもあるように多くの失敗もした上で営業スキルを身につけていった。

同期の中には学生時代にインターン経験があり、営業職に対するモチベーションが高いメンバーや、最低限の営業の作法を身に付けていたメンバーもいた。一方の吉木氏はゼロからのスタート。手探りで営業活動を進めるもののなかなかうまくいかず、訪問先から厳しい言葉をかけられることもあった。

「当時の自分がやっていたのは、リクナビというプロダクトを『どうですか(掲載しませんか)?』と提案するだけでした。相手からしても、自分たちのことを全く理解していない人間が営業に来ても良い気分にはなりません。自分自身も『これだったら営業はいらないのではないか』と感じていました」(吉木氏)

そんな吉木氏にとって、「営業組織図」を作るようにしたことが1つの転機になった。

営業のやり方を模索する中で、緻密な営業をしている人材や強い営業チームは組織図を作っていることを知り、自身もそのために時間を割くようにした。成果が出るようになった要因はいくつかあるものの、営業組織図の存在は大きかったという。

吉木氏のいう組織図とは、マンガやドラマなどにおける「人物相関図」のようなものにも近い。自分が提案したいサービスや企画に関わる人物を把握し、決裁情報や取引実績なども加味しながら「誰にどのような話をするのがお互いにとって最適なのか」を効率的に判断するための材料になる。

営業組織図は営業戦略を策定する上でも重要な役割を果たす。uluでは名刺管理サービス「Sansan」と連携することで組織図の作成を自動化する
営業組織図は営業戦略を策定する上でも重要な役割を果たす。uluでは名刺管理サービス「Sansan」と連携することで組織図の作成を自動化する

「営業がうまくいくかどうかは、意思ある人に出会えるかによって大きく変わってきます。ただそのキーマンとなる人を探すのが大変で、時間がかかる。しかもこのような情報は属人化しやすく、個人の頭の中には入っているものの社内で共有されていないことも多いです」

「自分自身の実体験に加えて、いろいろな人に話を聞いたり、反対に自分が企業から営業を受ける立場を経験したりする中で『どうやら、営業は特殊な才能や能力ではなさそうだ』という考えが強くなっていきました。一方で多くの企業は属人化の課題を解決できず、悩んでいる。テクノロジーの力を用いて日本の営業活動を変えていけないか、そのような思いが企業にもつながりました」(吉木氏)

名刺管理サービス「Sansan」と連携し自動で組織図を作成

具体的な事業アイデアを検証する段階では、合計で100社ほどの営業担当者にヒアリングをした。話を聞いてみてわかったのは、営業成果に関する課題を抱える企業が多いこと。特に現場のネックになっているのが「営業戦略」と「(営業に関連する)社内コミュニケーション」だった。

営業戦略の構築にあたっては予算情報、キーマン情報、ミッションを押さえていることが重要になると吉木氏は話す。営業組織図はこれらの情報を整理するのに有効なツールであり、それを簡単に作れる仕組みがあれば課題解決の糸口にもなる。

吉木氏たちが開発したuluは、この営業組織図を自動で作成できるサービスだ。名刺管理サービスの「Sansan」と連携することで、従来は個人が時間をかけて整理していた組織図の作成時間がほぼゼロになる。

予算や予算内訳、取引実績、担当者決裁金額、ミッションといった情報を一元管理することで、組織のナレッジに変えられる点が特徴だ。吉木氏の話では、特に関係者の数が多くなりがちなエンタープライズ営業の領域でニーズが高いと感じており、資材メーカーや商社などを主要な顧客として想定しているという。

組織図を通じて決裁情報を一元管理できるのが特徴
組織図を通じて決裁情報を一元管理できるのが特徴
部署構成を明確にした上で、まだ会えていないキーマンや決裁者を把握できるような機能も備える
部署構成を明確にした上で、まだ会えていないキーマンや決裁者を把握できるような機能も備える

5月にベータ版の提供を予定しているが、すでに人材大手や工業用機械専門商社、電材総合メーカーなど数社が先行でサービスを試しているとのこと。5月10日から先行予約の受け付けも開始した。

現時点ではSansanとの連携を前提としたサービスになっているが、今後は他の名刺管理ツールや顧客管理ツールとのデータ連携なども進めていく方針。AIによる購買予測機能や案件・物件ごとの組織図整理機能などの実装も予定しており、組織体制強化に向けてベンチャーキャピタルのDNX Venturesとmintから1.35億円の資金調達も実施した。

テクノロジーも取り入れながら営業組織を強化するような取り組みは「セールスイネーブルメント」と言われ、日本でも関連するサービスを展開するスタートアップが増え始めている。mojaとしてもまずは組織図の領域から始めるものの、営業人材や営業組織をエンパワーする会社として事業拡大を目指していくという。