イマジナ代表取締役社長の関野吉記氏 Photo by Yoshiki Usuiイマジナ代表取締役社長の関野吉記氏 Photo by Yoshiki Usui
  • 「いいものを安く売る」では市場を奪われる
  • 海外で販売するなら、牛丼は「1杯1500円」にしてもいい
  • 「ど田舎」は「秘境」、何ごとにも必ず魅力はある
  • 企業のブランディングを担うのは「人事部」
  • 日本以上にブランディングの価値を痛感している中国
  • 価格を下げるのではなく、高くても選ばれるストーリーが大事

家電業界をはじめとして、日本企業が海外企業にマーケットシェアを奪われるケースが増えている。その理由について「日本企業はブランディングに対する危機感が足りないからだ」と語るのは、イマジナ代表取締役社長の関野吉記氏だ。国内外2600社以上の企業のブランディングを支援し、昨年11月に『「好き」の設計図』(クロスメディア・パブリッシング)を出版した関野氏に、自社の魅力を最大化し、ブランディングを確立させるために必要な思考法を聞いた。(フリーライター うすいよしき)

「いいものを安く売る」では市場を奪われる

 正確な技術とクオリティの高さをウリにして、世界を相手に製品を販売してきた日本企業。だが情報が広がり、技術が高度化することで、海外でも日本とほぼ変わらないクオリティの製品が作れるようになったことで、状況は一変した。例えば家電業界。この数年で中国や韓国のメーカーが台頭し、業界の勢力図を大きく塗り替えた。

「傾向として、日本企業には『いいものを安く売る』という美学が蔓延し過ぎてしまっています。だから自分の会社の魅力を打ち出していくのではなく、価格競争に走ってしまう。それが結果的に、アジア各国の企業に市場を奪われることになったわけです」

 これまで2600社以上の企業ブランディングを支援してきたイマジナ代表取締役社長の関野吉記氏は、日本企業の課題についてこう分析する。海外企業に負けじとさらにいいものを作り、安く売ろうと考えるのであれば、負のスパイラルに陥ることになる。関野氏は、企業がこの状況から抜け出すためにまず、ブランディングへの理解不足について危機感を持つ必要があると語る。

 では、どのようにして自社の魅力を見つけ、ブランドを構築していけば良いのか。市場拡大を目指す企業に向けての、3つの提言を聞いた。

海外で販売するなら、牛丼は「1杯1500円」にしてもいい

 例えば海外の企業は、日本企業に多く見られる「価格の低さ」を押し出すケースはかなり少数です。

 牛丼なんて海外で販売するなら1杯1500円に設定してもいいくらいです。本来、その価格でも買ってもらえる方向性の努力をしたいわけです。でも実際は、競合から安くて良いものが提供されて、価格競争をすることになってしまっています。結果的に商品の価値は下げられてしまうわけです。

 そうなると最終的に売り上げは小さくなりますから、優秀な人材が(価格の低さで勝負をしたがらない)海外や外資に行くのは当たり前のことです。品質と低価格を追うのではなく、どこかで腹をくくって1500円で売れるストーリーを作らなきゃいけない。その時代に差し掛かってきていることを、認識しなければいけないでしょう。

「ど田舎」は「秘境」、何ごとにも必ず魅力はある

 ブランディングに悩む企業の多くは、自社の魅力が見つけられない悩みを持っています。しかし、何ごとにも必ず魅力があると考えるべきなんです。

 うまくブランディングをすれば、「ど田舎」を「秘境」に変え、「アクセスが悪い」というウィークポイントすら魅力に変えることができます。「環境が悪いから値段を下げなければいけない。一般的に魅力と思われる部分を磨かなければいけない」という思想を捨てて考えることが、企業にとって最初の一歩になるのかもしれません。

 もう1つ重要になるのが、企業の魅力やストーリーに対して、社長自身がしっくりくる必要は必ずしもないということです。なぜなら、ブランディングは、ファンを作るために存在するからです。

 そもそも経営者の思考というのはかなり特殊で、世間一般の意見と食い違っていることだってあります。ですから、自身が納得のいくストーリーを優先し、機能しないブランディングを推し進めないように注意しなければなりません。

企業のブランディングを担うのは「人事部」

 ブランディングの相談を受ける中で、重要なポジションは人事部だと思っています。

 人事部は、「人材を採用する」という役割に焦点が当たりがちです。ですが本来、採用と社内へのブランディングの浸透の役割を担うポジションなんです。

 ただ、そんな役割が機能している企業は、日本にはごくわずかと感じています。ブランディングというのは、社内の人材にストーリーを浸透させるインナーブランディングが機能して、初めて社外に伝播していきます。インナーブランディングとアウターブランディングの順番が逆になっている企業が多いように感じています。

日本以上にブランディングの価値を痛感している中国

 なかなか社内のブランディング構築の優先度が上がらない現実がありますが、そろそろ緊急度を上げなければならないと感じています。情報と技術の繁栄によって、これまで日本が秀でていた技術力だけでは戦えなくなっていきました。さらに、労働人口は刻々と減少していますから、ブランディングの必要性に目を向けなければいけないでしょう。

 実際に、中国や韓国に目を向けてみると、日本よりもブランドの価値を重要視している感覚を抱きます。特に中国は、徹底的に日本やヨーロッパの商品を真似して成長してきたといえます。

 しかし、ブランディングが確立された商品は、どれだけそっくりに真似しても全く売れないわけです。彼らは、日本人よりよっぽどブランドの価値を痛感しているんです。

 その結果、商品の魅せ方は洗練されていき、どの市場でも着実に選ばれる商品を生み出すことに成功しています。人口が(日本に比べて)圧倒的に多い中国国内でも、戦い方を深めているわけです。だからこそ、ブランディングを見直していかないと、日本企業が勝てるわけがない。そんな現状を理解しなければならないでしょう。

価格を下げるのではなく、高くても選ばれるストーリーが大事

 日本には技術力とクオリティの高さがあります。ただ、それだけで戦える時代はずいぶん前に終わってしまっている。安くて良いものを追求しても、勝ち目が薄いことに僕たちは気付き始めているはずです。

 国内外問わずブランディングのサポートを行う中で感じるのは、日本は「日本語」という言語と、「島国である」という環境に守られているということです。もし日本が英語圏であれば、すでにハングリーな海外企業に市場を取られていた可能性だってあったのです。

 労働人口が減り、物価が安い。でも値段をあげられない。もう、相当な危機感を持ってブランディング力を高めないといけない時代がやって来ています。

 その仕組みや、価値を伝える仕組みがないと勝機は巡ってこないでしょう。

 ブランディングにおいて、値引きは最も楽な手段です。しかし、値引きからストーリーが生まれることはありません。まずは、サービスの魅力を自分たちが見つけること。そして、それを伝えていくことで、ブランドは構築されていくんです。