
現在就活中の大学生の中には、卒業後の起業やスタートアップへの新卒入社を目指している学生も多いのではないか。「起業を目指しているが、自分は起業に向いているのだろうか」「スタートアップで働きたいが、どのように就職先を選べば良いのか」──このようにテック業界でのキャリアパスに悩んでいるならば、ぜひこの記事をご一読いただきたい。
日本在住のビジネスパーソンにとっても学びとなる海外の投資家や識者のブログを編集部が厳選し、翻訳してお届けする連載「海外投資家に学ぶ“起業の流儀”」。
今回紹介するのは、米国の名門アクセラレーター・Y Combinatorのマネージングディレクター、マイケル・サイベル氏が解説する「テック業界における3つのキャリアパス(Three Paths in the Tech Industry)」。起業家・役員・従業員、それぞれの長所と短所をもとに、あなたにとっての最適なキャリアを考えてみてほしい。
テック業界における3つのキャリアパス──起業家・役員・従業員
テック業界でのキャリアについてアドバイスを求められるとき、私は自分のキャリアの中で最も多く遭遇した3つの道──すなわち起業家、役員、従業員を並べることが有効だと考えています。私が見たところ、投資家になるための最良の道は、まずこの3つのうちの1つで成功(または失敗)することから始まるので、投資家は除外しています。
以下、それぞれの役割について、私が考える長所・短所と有用な戦略を概説します。
この記事を書いたのは、自分のキャリアについて人と話すとき、他の選択肢を検討する時間をとらずに、これらの道のうちの1つだけに焦点を当てる人が非常に多いことに驚くからです(Y Combinatorのマネージングパートナーであり、起業経験のある私自身もそうです)。
私は、この3つの道に価値判断はしません。サンフランシスコのベイエリアで過ごした10年間で、この3つの道を歩んで成功し、充実した人生を送っている友人たちを見てきたのです。
起業家
長所
- 自分が情熱を傾けられることに打ち込める
- 新しいものを世に送り出せる
- 責任感が強いと、生産性が非常に高くなる
- 一緒に働く仲間を選べる
- 非常に速いペースで新しいスキルを身につけられる
短所
- 非常にストレスが多い(たとえ成功したとしても)
- 個人的な収益を最大化できない可能性が高い
-
始めるのに、金銭的、スキル的、地理的なハードルが高い
-
大規模な成功には10年以上のコミットメントが必要
-
コミットメントのレベルにより、人間関係が大きく損なわれる
起業家を目指す人のための戦略
起業家を目指す上での最初の目標は、起業家になるための前提条件を積み重ねることです。
- MVP(Minimum Viable Product:ユーザーに必要最小限の価値を提供できるプロダクト)を作るために必要な技術力を持つチームメイト候補を見つける
- 資金計画を把握する。十分な貯蓄があるか、シード投資を行える友人や家族がいるか、自律的に動けるか、支出を抑えて事業アイデアに取り組むのに6〜12カ月間の十分な貯蓄ができるか、など
- あなたとあなたのチームメイト候補が、情熱を持って解決できる課題を見つける
- その課題の解決方法についてアイデアを持っていることは、必ずしも重要ではありません
起業家を目指す人の多くは、これらの戦略のうち1つ以上が欠落しています。よくある間違いは、根本的な問題を解決するのではなく、欠けている要素を回避することです。もしもMVPを構築するための技術的なスキルを持っていないのであれば、外部の開発会社と一緒に仕事をするのはやめましょう。そのような技術を持っている人たちと友達になり、説得してあなたのチームに連れてきてください。
起業を阻むハードルは高いです。私の最善のアドバイスは、お金が貯まるまで、適切なチームメイト候補と友達になれるまで、あるいは自分が情熱を傾けられる課題を発見できるまで、テクノロジー業界のハブになる地域(できればベイエリア)に移動して、テック企業で働くことです。インパクトのある大企業を作るには、少なくとも10年はかかると言われています。成功の可能性を最大限に高めるために、起業の時期を遅らせることは問題ありません。
ここに挙げた前提条件で“経験”を求めていないことに注目してください。経験は重要でないわけではありませんが、起業を考えている人たちの多くは、自身の経験を過大評価しています。ほとんどの場合、どれほどの知識を持っていたとしても、課題や顧客、最適な解決策について知るべきことのほとんどは、会社を立ち上げた後に学ぶことになるからです。
役員
長所
- 安定した収入・福利厚生など
- 高い名声(大成功した起業家だけがより高い名声を得られる)
- 社会に大きなインパクトを与える可能性が高い(ほとんどのスタートアップが失敗することを考えると)
-
チーム作りや資金調達が必要ない
短所
- 結果を出すことが必ずしも出世につながるとは限らない。社内政治も同じくらい重要である
- 組織内部の人間によって、成功が妨げられたり、阻止されたりすることもある
- 長期にわたって成長し、成功を収める企業を選ぶ能力が必要
- 大きな責任を負うには、長い時間がかかる
役員を目指す人のための戦略
役員を目指すのであれば、急成長している会社を選ぶことが重要です。早期に成長する会社を選ぶことができれば、会社の成長とともに責任ある仕事を任されるようになります。これには、あなたがフレンドリーで生産的なチームプレーヤーであることが前提となります。例えば、Facebookで最初の100人の従業員のうちの1人になり、10年間所属していれば、役員になるチャンスはたくさんあるはずです。しかし、長年にわたって急成長を続ける企業を選ぶことは簡単ではありません。
そのため、すでに確立した著名企業に就職することも視野に入れましょう。私が見てきた人たちは、1つの会社の中だけで出世しようとは考えていませんでした。いくつかの著名企業を行き来して、最終的に役員のポジションにたどり着こうと考える人は多いのです。例えば、大学卒業後はGoogleに入社し、Dropboxでチームリーダーとして採用され、Yahooに移ってディレクターになり、またGoogleに戻るといったケースです。
役員の道を歩む人は、VCのような思考で、今後10年間の勝者となる企業を選ぶか──あるいはより良い転職先を常に探し続けなければならないのです。
従業員
長所
- 安定した収入・福利厚生など
- 仕事量が多く、会議が少ない
- 自分の仕事が直接顧客に影響を与えることが多い
- 需要の高いスキルセットを持っているため、働く場所や量を柔軟に選択できる
- 友人や家族と過ごす時間が増える
短所
- 生産性を阻害する可能性がある
- 自分の担当する仕事をコントロールできないことが多い
- 正しい答えが分かっていても、重要な決定に対して発言権がないことが多い
- 大金持ちになるのは難しい
- 退屈なこともある
- 需要の高いスキルセットを維持することが難しく、生産性が低下すると解雇されやすい
従業員を目指す人のための戦略
従業員になりたい人が勤務先を選ぶ戦略は、役員と似ています。急成長している企業に目をつけて入社するか、すでに成功している企業に入り込むかのいずれかです。キャリアを著名企業でスタートすれば、著名企業間を行き来するのは簡単です。