
- シード以前=プレシードのスタートアップに対して高まる投資意欲
- 資金調達の大型化も調達ラウンド細分化の要因
- 投資契約締結(クローズ)を同一ラウンドに多段階で実施
「プレシード」「ポストシード」「プレシリーズA」「プレシリーズB」……スタートアップの資金調達フェーズは日本でも近年、細分化する傾向にある。その背景には何があるのか。
今回は、本連載の前回記事(「シリーズ」「ラウンド」「優先株」──今さら聞けないスタートアップの資金調達用語)に続き、スタートアップの資金調達フェーズについて見ていこう。
シード以前=プレシードのスタートアップに対して高まる投資意欲
前記事で紹介したとおり、投資家がスタートアップに投資を行う資金調達ラウンド(投資ラウンド)において、発行される株式は通常、ラウンドごとの種類株式になっている。シリーズAラウンドで発行される株式はA種優先株式、シリーズBラウンドではB種優先株式といった具合で、それぞれ定款や投資契約書により、どのような権利が付与され、制限されているかが規定される。
各ラウンドにおける資金調達の目的や、金額、投資家の特徴は少しずつ変わる。したがって、スタートアップの成長度合いに応じて、ラウンドも投資家の顔ぶれも少しずつ変わっていくということになる。
その資金調達ラウンドの細分化が最近、日本でも進んでいる。調達ラウンドの細分化は、シリコンバレーではかなり以前から見られた現象だが、日本でもシード前の「プレシード」、シード後の「ポストシード」やシリーズA前の「プレシリーズA」などといったラウンドが実際に登場している。
資金調達ラウンドが細分化する理由の1つには、プロダクトのプロトタイプが大体かたち作られ、ビジネス開始が見えてくるシード期のスタートアップへの投資意欲が以前より高まっていることが挙げられる。シード投資を行うベンチャーキャピタル(VC)の間で投資先獲得競争が激しくなった結果、プロダクトが固まりきる前段階であるプレシードのスタートアップに対しても投資が進んでいる。
資金調達の大型化も調達ラウンド細分化の要因
ラウンド細分化の理由のもう1つには、調達規模(金額)の大型化が挙げられる。日本の調達規模はまだまだ欧米、特にシリコンバレーには及ばないものの、金融・医療などの規制産業における課題解決に挑むスタートアップや、医薬品・ハードウェアなどの分野における研究開発型スタートアップの増加にともない、プロダクトの初期開発やR&Dに多額の資金を必要とするケースも増えている。
そこでシード投資を受けた後、シリーズAラウンドに入る前の段階にも追加で資金調達を実施し、今後のプロダクト強化や検証に備えた資金の確保が必要とされるようになった。このことがポストシード、プレシリーズAといったラウンドを利用するスタートアップの増加につながっていると考えられる。
このように「次のシリーズへ進める条件をすべて満たせていないが、挑戦の意思はあり、時間と資金がある程度確保できれば前に進める」という状況下での資金調達フェーズを表すとき、「ブリッジラウンド」「エクステンションラウンド」といった言葉もよく使われる。
エクステンションラウンドでは、種類株式が前回ラウンドと同じであることがほとんどだ。また、直前のラウンドと調達時期がさほど離れていない(数カ月〜1年ほど)、企業評価額(バリュエーション)がほとんど変わっていないか同等、調達規模(金額)が直前のラウンドより小さいといった特徴がある。
投資契約締結(クローズ)を同一ラウンドに多段階で実施
同一シリーズのラウンドにおいて、多段階で投資契約を締結(クローズ)するとき、それぞれの資金調達フェーズを「ファーストクローズ」「セカンドクローズ」……「ファイナルクローズ」などと呼ぶこともある。
多段階クローズは、そのステージに必要な資金の一部でも先行して入手し、事業を滞りなく拡大させるために、しばしば取り入れられる。つまり、投資家によって交渉期間の長さが異なる場合や、スタートアップ側のランウェイ(キャッシュ不足までの残期間)が残り少ない場合などだ。
この手法は、目標達成や事業運営に多額の投資が必要となるシリーズB以降(ミドル期以降)のスタートアップで用いられることが多いが、シリーズA(アーリー期)やシード期でも、研究開発などに必要な資金の規模が大きいときなどに取り入れられることもある。