
- オフライン・オンライン、全メディアを「横串で見る」
- 積極的にカンファレンスに登壇する理由
- 次の一手は、グローバルへの挑戦
ネスレ日本で媒体統轄室マネージャーを務め、2020年1月からスイス本社に赴任している村岡慎太郎氏。映画『カメラを止めるな!』のスピンオフ作品へのスポンサードはじめユニークな仕掛けの背景、スイス本社でのチャレンジについて話を聞きました。(編集注:本記事は2020年1月24日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)
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オフライン・オンライン、全メディアを「横串で見る」
徳力 村岡さんは1月からスイスに転勤になりますが、日本での直近の役割は、どういったものだったのですか。
村岡 媒体統轄室マネージャーという肩書きで、オフラインとオンラインの広告のプランニングとレビューを担当していました。
徳力 ネスレさんは、昔からメディアの種類ごとに分かれた縦割りの組織ではないですよね。個別のメディアを扱うには専門知識が求められることを考えると、すべてのメディアを横串で見るのは大変ではないですか。
村岡 いえ、あくまでもコンシューマーが軸なので、メディアで分けてしまうと、どのようにコンシューマーがメディアに接触しているのかが分からなくなるんですよ。
徳力 ネスレさんは、そこを徹底しているんですね。ただ、どうしてもすべてのメディアに詳しくなるわけではないから、専門性という意味では弱くなりがちな気がするのですが、そのギャップは、どう埋めるのですか。

村岡 私の場合は、詳しいメディアの方に直接話を聞くようにしています。特にエキスパートと言われる人に話を聞いているんです。例えば、テレビであれば、広告会社の営業担当ではなく、テレビの窓口担当を紹介してもらっています。「この人、すごい」と思う人がいれば、直接会いに行きます。
積極的にカンファレンスに登壇する理由
徳力 だから、外部のマーケティングカンファレンスなどの場にも積極的に出ていくわけですよね。
村岡 その通りです。情報は取りに行かなければ、得られません。セミナーに登壇すると「出たがり」だと揶揄されることもありますが、それがきっかけで新しい話が入ってきたりしますし、名刺交換をした相手に私から話を聞きに行くこともできます。
徳力 以前から村岡さんに聞いてみたかったのですが、30代でカンファレンスに登壇するかしないかで出会いが変わり、その後のキャリアが変わってくる気がするんですよね。
村岡 そうですね。カンファレンスに登壇すれば、新しい情報に触れる機会が増えますし、世に言うマーケターの大御所と関わる機会も一気に増えます。昔あるイベントの打ち上げで、エステーの鹿毛康司さん(執行役 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター)にしこたま怒られたことがあります(笑)。徳力さんもその場にいらっしゃったと思いますが、それは得がたい経験でした。
徳力 たしか、吉野家の常務取締役・伊東正明さんもいらっしゃって、すごいメンバーでしたよね。
村岡 はい、豪華メンバーに萎縮していたら、鹿毛さんから「お前がやっていることは立派なんだから、もっと自分を出せ」と。たぶん鹿毛さんは若いマーケターを育てないと、という意識をお持ちで初対面でしたが怒られました。
徳力 鹿毛さんからすれば、同じ登壇者なんだから、なぜそんなに自分を卑下するのかということだったのでしょうね。
村岡 はい、それがきっかけで、私は自分の視点を上げるように意識したんです。要するに、鹿毛さんたち大御所と自分のギャップを見つけて、それを埋めて追い付こうという意識に変えました。そうすると、大御所の発言をさらに深く読み解くことができるようになって、アイデアのレベルが良くなったように感じています。
次の一手は、グローバルへの挑戦
徳力 次は、スイスに赴任されるんですよね。
村岡 はい。グローバルメディアコーディネーターとして、グローバルエージェンシーや、FacebookやAmazonなどのグローバルメディアとの条件をつくる仕事です。
徳力 赴任が決まるまでには、どのような経緯があったのですか。
村岡 スイスにいくつかのポジションが空いていたので、いつかは会社として行かせたいと考えてくれていたようですが、今回は面白そうな内容だったのと、いまの私が成長できるポジションだということで声を掛けてくれたようです。
これまでグローバルな視点で仕事をする機会が少なかったので、その視点を持てるようになりたいと思います。また、日本で培ったことをグローバルでも取り組むつもりです。まずは、1年間の期限付きの出向になるので、その中で一生懸命に取り組みたいですね。

徳力 日本企業のマーケティングは、欧米に比べると遅れているという印象がありますが、ネスレさんに限っていえば、ネスレ日本の方が進んでいる印象がありますよね。
それこそ社長である高岡浩三さんは、キットカットで新しいフレーバーが許されていなかった中でストロベリー味や抹茶味にチャレンジされたと聞いています。今では世界中の人が日本のお土産として買っていますし、その結果、キットカットの売上がいつの間にか本国のイギリスを抜くという快挙も達成されました。
村岡 そうですね。本社との面接でも、オンラインとオフラインの予算配分のプランニングやレビューの話をしたら、それをグローバルでもしてほしいと言われました。日本で実施しても、グローバルでは行っていないことは、まだまだあると思っています。
でも、映画『カメラを止めるな!』のスピンオフ作品へのスポンサードなんかは、彼らからしたら、まったく意味が分からないでしょうね(笑)。
徳力 あれは何と言えばいいんでしょう(笑)。ブランデッドムービーなのですが、ブランドのためのコマーシャルではなくて、「カメラを止めるな!」のスピンオフ作品をつくること自体をスポンサードしている感じですよね。あの施策も村岡さんが企画されたんですよね。
村岡 はい、その前にティーン向けに「キットカット」の東京ばな奈味の認知を上げたいという課題があって、当時AbemaTVで話題になっていた番組『オオカミちゃんには騙されない』や『今日、好きになりました。』の出演者を起用して、AbemaTV内でCMを配信したんです。
それを店頭のPOPにも活用したところ、ターゲットとのエンゲージが高くて、コンビニの週販がはね上がりました。ターゲットに需要性のあるメディアで、かつ親和性のある人が語れば、結果が出ることが分かったんです。
そこで成功事例がつくれたので、次に「ネスカフェ アンバサダー」と「ネスカフェ バリスタ」の違いが分からない人が多いという課題にアプローチすることにしました。その際に「カメラを止めるな!」が大ヒットしていたので、これをコンテンツの中にうまく組み込めないかと考えたんです。
徳力 私は最初の放送をライブで見ていましたが、「ネスレさんありがとう」というコメントがあふれていたことが印象的でした。
村岡 そうなんですよ。あれには、すごく感動しました。番組へのコメントでバリスタとアンバサダーの違いが伝わったかどうかを可視化できました。
徳力 単純なリーチだけを取ろうと思ったら、安くて楽な方法はいっぱいあります。エンゲージメントを高めることを考えたら、リアルなイベントという選択肢もあるんですが、『カメラを止めるな!』スピンオフ版の場合は、ある意味一度に両方を成立させていますよね。本当に興味深かったです。
こうした日本における挑戦を村岡さんがグローバルで再現されることができるのかどうかに注目しています。もちろん本社のレベルが想像以上に高くて、完膚なきまでに打ちのめされて帰ってくるケースもあるかもしれませんけど(笑)、それはそれできっと大きな学びがありますよね。村岡さんのチャレンジを楽しみにしています。