ハイヤールーの代表取締役を務める葛岡宏祐氏
ハイヤールーの代表取締役を務める葛岡宏祐氏
  • 技術力をスコアで定量化、自動採点機能を備えたコーティング試験サービス
  • ベータ版公開から1年強で約50社が導入、新卒・中途両方で活用
  • 2億円調達で体制強化、年内で200社への導入目指す

エンジニア採用におけるミスマッチを防ぐ目的で、選考プロセスにおいて「コーディング試験(技術試験)」を導入する企業が増え始めている。

コーディング試験とは、候補者に実際にコードを書いてもらうことで、職務経歴書や面接だけでは十分に測れないような技術力を適正に評価するための仕組み。GAFAを始め米国のIT企業では活用が進んでいる。

日本の場合は今のところ一部の企業のみが取り入れている段階ではあるものの、エンジニアの採用が難しくなる中で、候補者の技術力を可視化して自社に合った人材を採用したいというニーズは高まっていくだろう。また大手企業でもDXを推進するべくエンジニアチームを内製化する動きがみられることなどからも、ITスタートアップに限らず幅広い企業でコーディング試験が導入される余地もありそうだ。

コーディング試験は合理的な仕組みだが、必ずしもすべての企業が簡単に実践できるものではない。試験用の適切な問題を用意すること、候補者の解答を評価することの双方において技術力とエンジニアの時間が必要になるからだ。

こうした流れの中で、国内外でコーディング試験をサポートするサービスが複数誕生している。試験の代行に近いものからツールによって試験を効率化するものまで幅広いが、ユニコーン企業のKaratや3月に6000万ドルを調達したHackerRankなど急成長を遂げるスタートアップも出てきた。

2020年12月設立のハイヤールーもこの領域で事業を展開する1社だ。同社では日本において、さまざまな企業がコーディング試験を導入しやすくなるための仕組みを広げていこうとしている。

技術力をスコアで定量化、自動採点機能を備えたコーティング試験サービス

HireRooの試験画面のイメージ
「HireRoo」の試験画面のイメージ

ハイヤールーが手掛ける「HireRoo(ハイヤールー)」は試験用の問題、実際に試験を実施するための開発環境、候補者の解答を自動で採点する機能などが備わった“オンライン完結型のコーディング試験サービス”だ。オンラインでコーディング試験をするにあたって必要になる仕組みがパッケージ化されたツールだと考えるとわかりやすい。

自社でコーディング試験を実施する際の課題になりがちだった問題の作成に関しては、あらかじめHireRoo上に用意された83種類の中から好きなものを選ぶだけ。エンジニアがゼロから作成する手間がかからない。

試験用の開発環境はサービスに内包されているため、候補者が自ら環境を構築する必要もなく、ブラウザ上で完結する。解答結果はHireRooが自動で採点。従来は定性的に評価されることが多く、面接官によって判断にブレが生じやすかった可読性(コードの読みやすさ)や保守性といった部分も、“スコア”として定量化される。

問題の選択画面
問題の選択画面
レポート画面
レポート画面

こうした機能に加えて、ハイヤールー代表取締役の葛岡宏祐氏が特徴に挙げるのが「プレーバック」だ。これは候補者が「どのようなプロセスでコードを書いたのか」を辿れる、“巻き戻し再生”のようなもの。葛岡氏によると、この機能が顧客から選ばれる1つの理由にもなっているという。

「海外のものも含め(自動採点機能を備えた)コーディング試験サービスは、あまりクリティカルではないエラーのせいで必要以上にスコアが減点されてしまうことがあります。場合によっては『スコアが全く参考にならない』というのは大きな課題の1つです。HireRooではプレーバックによって試験の過程をすべて確認することができ、その上で一定の工数削減や面接官によるブレの防止も見込める。その点を特に評価いただけていると感じています」

「やはりコーディング試験は面接官の体力面の負担も大きい。その業務の大部分が自動化され、一定の質を担保しながら採用を進められる仕組みはニーズが高いです。一方でいくら定量的に評価できたとしても、(コードを書いた過程などが)実際にどうだったのかが気になるという方も多い。そこも包み隠さず解ることで、企業側の納得感が増す側面もあると考えています」(葛岡氏)

ベータ版公開から1年強で約50社が導入、新卒・中途両方で活用

ハイヤールーは葛岡氏を含む3人のエンジニアが立ち上げたスタートアップだ。葛岡氏はディー・エヌ・エーやメルカリでエンジニアとして働いてきた人物。起業当初は消費者向けのアプリを開発していたが、後に方向性を転換しHireRooのアイデアに行き着いた。

コーディング試験に着目をしたのは、葛岡氏自身が過去にGoogleやFacebookの選考を受ける過程で各社のコーディング試験を体験したことが大きい。

会社の技術力が自社の競争力にもつながるため、GAFAのような企業は優秀なエンジニアを採用するために多大な時間と資金を投じている。コーディング試験もその一環であり、こうした仕組みの存在によって「単に面接が上手いだけの人では入社できない」と感じたという。

米国の著名なIT企業の多くは採用プロセスの中にコーディング試験を組み込んでいるが、日本ではまだまだ浸透しているとは言えない。コーディング試験に関心を示す企業は増えていても、問題の準備や採点における技術力や工数が障壁となり、実現には至らないこともある。

こうした課題の解決策として、GAFAと同等とは言えないまでも、さまざまな企業がコーディング試験を活用できるサービスがあればニーズがあるのではないか。そのような考えからサービスの開発を進め、2021年3月末にベータ版の提供を始めた。

2022年1月には機能面を強化するかたちで正式版の運用を開始。現在はIT企業を中心に上場企業から急成長中のスタートアップまで約50社が活用しており、累計の選考数は3000件を超えた。利用料金は月額数万円(スタンダードプランは税込3万9600円)からの基本料に、選考回数に応じた料金が追加される。

「特に価値を感じてもらいやすいのが新卒採用やインターン生の採用です。中途採用に比べて判断材料が少なく、採用に積極的な会社では候補者の数も多い。これまでコーディング試験を取り入れていなかった企業だけでなく、自力で実施していた企業であっても、定量化されたフェアな判断指標が欲しいということで新たにHireRooを活用いただくケースもあります」(葛岡氏)

レポートの詳細画面。他の候補者の結果と照らし合わせて確認することも可能だ
レポートの詳細画面。他の候補者の結果と照らし合わせて確認することも可能だ

直近ではスタートアップなどの中途採用のシーンでも使われる例が増えてきているという。たとえばある企業では海外のエンジニアを採用する際にHireRooを用いてコーディング試験を実施している。海外企業の場合は職務経歴書などだけでは判断が難しいからだ。

導入の効果としては、コーディング試験にかかる担当者の負担の削減がわかりやすい。手動では問題の作成や評価を含めて1人の候補者あたり2時間程度かかっていた業務が、HireRooを活用することで5分程度に短縮された例もある。

2億円調達で体制強化、年内で200社への導入目指す

直近では技術力だけではなくシステム設計力やコミュニケーション能力といった総合的なスキルを測れるように、“システムデザイン”形式の問題への対応も始めた。特にリードエンジニアやテックリードと呼ばれる人材を採用したい企業のニーズが高く、これまでは「ホワイトボードを使った技術面接」で判断されることの多かった領域だ。

システムデザイン形式の問題への対応も始めた
システムデザイン形式の問題への対応も始めた

またセキュリティ面や採用サポートなどを強化したエンタープライズ向けプランの提供も始め、大手企業やSIer、メガベンチャーなど幅広い企業への展開を見込む。

ハイヤールーとしてはまずは国内での事業拡大に注力し、2022年内に200社への導入を目指す計画。組織体制の強化に向けてデライト・ベンチャーズ、Coral Capital、既存投資家のPrimal Capitalを引受先とした第三者割当増資により、プレシリーズ Aラウンドにおいて総額2億円の資金調達も実施した。

ゆくゆくはHireRooで培った仕組みをコーディング試験だけでなく、社内エンジニアの評価や育成の面でも活用できるようなサービスの開発にも取り組んでいくという。

「目指しているのは、企業とエンジニア双方にとってベストマッチな採用を実現するサービスです。エンジニアにとって自身が活躍できる場所を見つけられた結果として、企業のエンジニア組織の技術力が向上し、日本企業の企業価値が高まっていく。そのような世界観を実現していきたいです」(葛岡氏)