
- Facebook在職時に感じた「データ活用のニーズと可能性」
- “定性調査”に特化した動画システムで大手企業の利用促進
- 5億円調達で体制強化へ、海外ではユニコーンのFetch Rewardsが急成長
ユーザー自ら購買データを提供することで、ECサイトの買い物がお得になる──。ユーザーに明確なメリットを提示することで多様なデータを収集し、そのデータを企業の課題解決につなげていくことを目指しているスタートアップがある。2018年創業のマインディアだ。
「個人の行動や購買のデータなど、個人の中に埋もれている価値が現時点では十分に発掘されていないという課題意識を持っています。その埋もれている価値をテクノロジーによって再発掘し、データを有効活用することで世界中のビジネスを加速させていきたいと考えています」
マインディア代表取締役CEOの鈴木大也氏は、同社が実現しようとしている世界観についてそのように話す。
鈴木氏は前職のFacebook(現 Meta)の日本法人で、本部長として国内市場における大手企業向けの広告ビジネスの立ち上げを担ってきた。業務を通じて特に実感したのが「企業内で消費者データの活用ニーズが年々高まっていること」と「データを基に消費者と企業の関係性をアップデートできる可能性があること」。そのテーマを突き詰めるべく、データテクノロジー領域で起業する道を選んだ。
現在マインディアでは消費者向け(toC)と企業向け(toB)にそれぞれサービスを展開している。
C向けには5月よりモバイルアプリ「Pint」の提供を始めた(現時点ではAndroid版のみ)。同アプリはユーザーがECサイトなどの買い物データを提供することで、ポイント還元を始めとしたメリットを得られるのが特徴。ユーザーの購買データに基づいた商品のレコメンドや、企業から直接キャンペーンやオファーが届く仕組みなども実装する計画だ。

Pintを通じて集まった消費者の購買行動データは企業にとって大きな資産になりうる。このアプリによってユーザーから“事前承諾”を得るかたちで取得した多様なデータを、企業の課題解決につなげていくのがマインディアのビジネスだ。
今後はPintの機能開発やデータ分析基盤の強化などを予定しているほか、ユーザーを獲得するためのマーケティングへの投資も進めていく方針。そのための資金として、マインディアではKUSABIなど複数のVCおよび大手事業会社を引受先とした第三者割当増資により約5億円を調達した。
Facebook在職時に感じた「データ活用のニーズと可能性」
鈴木氏はP&Gやグリーなどを経てFacebookに入社した。当時は現在ほどデータの活用が進んでおらず、広告商品も少なかったが、その中で大企業向けの広告メニューの立ち上げなどに携わってきた。
特に2014年から2016年ごろにかけてはFacebook内のデータやサードパーティのデータを用いながら、クライアントと一緒にマーケティングにおける課題解決に取り組んだ。こうした業務を通じて企業側のデータ活用へのニーズや、データの可能性そのものを感じたことが企業にもつながったという。
「個人から許諾を得た上で直接データを収集し、それを有効活用することによって個人とデータの関係性や個人と企業の関係性、個人と広告の関係性などをアップデートする」という構想は、2018年に起業した時から思い描いていたものだ。
それでは具体的にどのような事業からスタートするのが良いか。当時鈴木氏が特に企業側の強いニーズを感じていたのが「消費者の生の声や実態の動画データ」「ECを中心とした購買データ」「データドリブンなプロモーション」の3点だ。
そこでマインディアとしては企業が消費者の実態をつかむための「消費者ライブ動画サービス(Mineds for Insight Data)」から始めた。

“定性調査”に特化した動画システムで大手企業の利用促進
このサービスは、従来企業が主にオフラインで実施していた定性調査やUI/UXテストなどをオンライン上で実施できるようにしたものだ。個人向けに企業の定性調査に協力することで報酬を得られるアプリを開発し、登録ユーザーの中から各クライアントが求める層を対象にさまざまな定性調査をオンラインで進められる基盤を作った。
サービスを開始した当初は“定性調査のDX”という要素が大きかったが、2020年に新型コロナウイルスの影響が拡大してからは、調査自体がZoomなどを活用してオンラインで実施されるようになっていった。
マインディアが企業ユーザーに評価されたのは、最初から定性調査という用途に絞って機能開発に取り組んでいた点にある。
たとえば調査の様子を見学している人の姿が消費者からは見えにくい仕様になっていたり、インタビューを担当する人と見学する人が会話をするためのチャット機能が備わっていたり。汎用的なサービスにはない“かゆいところに手が届く”機能をきっかけに、導入してもらえることが増えた。

また顧客の1社でもあった資生堂と共同で、録画データを蓄積することで社内の資産として活用できる機能なども開発。AI文字起こしなど関連する機能も加え、利便性を高めていった。
5億円調達で体制強化へ、海外ではユニコーンのFetch Rewardsが急成長
事業の土台が整った現在は領域をさらに拡張するかたちで、C向けとB向けに複数のサービスを展開している。
B向けには創業時から手がける消費者ライブ動画サービスに加えて、EC上での消費者の購買行動を解析するデータサービス(Mineds for EC Data)をローンチ。資生堂ジャパンや江崎グリコ、トヨタコネクティッド、ライオン、メルカリ、Meta Platformsなどナショナルクライアントを中心に複数の大手企業で活用が進む。
「特にECに関する行動データや購買データは大手企業のニーズがものすごく高いです。オフラインであればPOSデータの活用などこれまでに培ってきた知見や仕組みがあるものの、この数年で一気に拡大したECに関しては手探りでやっている部分も多い。またユーザーのデータは外部のプラットフォームに蓄積されていて、それを統合的に分析するのが難しかったという課題もあります。本来見るべきだけれど、蓋をしてしまっていたようなデータを分析できるようになる。そのような点に価値を感じていただけています」(鈴木氏)

マインディアのサービス上ではEC市場全体のトレンドやカテゴリ内でのブランド・SKU別のシェア、特定ECモール内での人気ストアランキング、消費者1人1人の特定カテゴリ内でのブランドスイッチやリピート率など多様なデータを把握できる。
個人のデータの扱いに対する規制が厳しくなってきている中で、Pintのユーザーから事前に承諾を得て直接取得した「ゼロパーティーデータ(個人が明示的な同意を持って提供するデータ)」である点が大きな特徴だ。
このデータこそがマインディアの今後の柱にもなるため、Pintを通じてどれだけのデータを収集できるかが同社にとっての大きなチャレンジになるとも言えるだろう。
「『自らデータを提供するからこそのメリット』にかなりフォーカスしたアプリになっています。データ連携によって実際に購買したのかどうかをトラッキングできるから、(キャッシュバックなど)お得に買い物ができる。購買データがあるから、自分にあった商品やお得な情報が見つかる。今後は企業から消費者に対して魅力的なオファーを提示できるような仕組みも取り入れていく予定です。こうしたメリットを充実させていくことで、多くの人が長く活用するプラットフォームを目指していきます」(鈴木氏)
米国ではユニコーン企業のFetch RewardsがPintと同様の取り組みを進めており、急速に事業を拡大している。同社は4月にソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから新たに2.4億ドルを調達し、時価総額は25億ドルを超えた。日本では少しアプローチは異なるものの、レシート買取アプリ「ONE」を開発するWEDなども領域的に近しいプレーヤーと言えそうだ。