
6月1日〜3日の3日間、北海道・札幌で開催されたB Dash Ventures主催の招待制イベント「B Dash Camp 2022 Summer in Sapporo」。3日には新進気鋭のスタートアップが競い合うピッチコンテスト「Pitch Arena」の決勝戦が開催された。
6月2日に実施された予選(ファーストラウンド)を通過した18社中7社のスタートアップが決勝(ファイナルラウンド)に登壇したが、AIで著作権フリーの音源を作成できるSOUNDRAWが優勝した。準優勝はセキュリティ事業を展開するAironWorksだった。ファイナルラウンドに進出した全7社のスタートアップと事業の概要は以下のとおりとなる(紹介はピッチ順)。
AironWorks
イスラエル国防軍の情報部隊である「Unit8200」出身のハッカーが開発するサイバーセキュリティ訓練プラットフォーム「AironWorks」を提供。AIがリアルタイムにウェブやダークウェブから企業の情報を収集し、メールやメッセージなどでハッキングを狙うことで、本質的な訓練を実現する。
ダッシュボード機能や教育プログラムも合わせて提供するほか、フィッシングに対する防御機能なども開発。ベンチマークにするのは米国のセキュリティ企業・KnowBe4。サービスは月額10万円(100アカウント)から。導入数は約5万ユーザー。
Go Visions
Web3やメタバースといったテクノロジーを取り入れたオンラインスクール「SOZOW」の開発・運営を行う。小中学生を対象に子どもの好奇心を否定せず応援するというコンセプトの授業を展開する。
DAO(分散型自律組織)のように、「LINEスタンプを作る」「メタバースで何かをする」といったユーザー(学生)の提案を、ほかのユーザーたちとともに実現し、その貢献に合わせてコインを分配するなどの仕組みも取り込む。サービス開始は2021年1月だが、現在ARR(年間経常収益)は1億円を超えている。現在はオンライン学習が中心だが、今後リアルとオンラインを組み合わせた教育を提供する予定。
Hogetic Lab
データ収集&統合に特化したサービス「Hogetic Lab」を開発する。
データ分析では通常、データの1.収集、2.解析、3.提案を行うが、課題となるのはデータの収集。さまざまなデータは異なるSaaSやCSVをダウンロードして前処理を行う必要がある。その前処理、つまりさまざまなデータのクローラを分析環境に蓄積することで、クレンジング済みのデータを利用することができる。ある事例では、商品企画のための意志決定が必要な際に、データ収集に時間がかかるため、肌感での予測に頼っていた企業が、同サービスを活用することで年間3億円の売り上げ改善が実現したケースもあるという。
Kiva
API連携で利用できるECサイト向けの延長保証サービス「proteger」を提供する。各種ECサイトに数行のコードを入力することで、ECサイトでは延長保証を導入できる。ユーザーは購入した商品が壊れれば、チャットボットを通じて保証を申請できる。2021年5月にサービスを公開。提供保証数は2万件以上で、導入サイトでのユーザーの導入割合は32%。また、導入後は平均でCVRが140%になるなどの実績がある。5月には損保ジャパンと三井住友海上とも提携した。
EC事業者からのサービス利用料と、エンドユーザーからの保証料でマネタイズしている。海外では先行するサービスとして、ソフトバンク・ビジョンファンドも出資するスタートアップ・Extendなどがある。
MEME
デビットカードとアプリを組み合わせた親子のお金管理サービス「manimo」を開発・運営する。
今の子ども世代は生まれた時からスマホやカードがあるのが当たり前だ。だからこそ、アプリを通じてお金のやりとりをして、親子でお金の使い方、稼ぎ方などを学ぶことができる。たとえば家事のお手伝いを登録して、その結果として親から子どもにお小遣いを送金する。また子どもが欲しいモノを買う目的でお小遣いを貯めるために、目標を設定してお金を管理する。さらには独自にデビットカードを発行して子どもがカードを利用するといったことができる。
2022年4月にクローズドベータ版のサービスをリリース。すでにGMOあおぞらネット銀行と業務提携しているほか、20社以上と提携の計画があるという。
Solafune
衛星データ利活用プラットフォームの「Solafune」を提供。人工衛星が取得するデータを解析するアルゴリズムを開発し、産業・分野別にさまざまな解析を実現する。例えば駐車スペースの衛星データから空き具合を調べたり、ウクライナ侵攻で被害を受けた地域を明確化するなど、さまざまなデータをさまざまな解析に利用できる。
Kaggleのように世界中のエンジニアに向けて開発する案件をオープンし、コンテスト形式でAIアルゴリズムを開発する。最優秀のアルゴリズムをSolafuneが利用できるようにして、アルゴリズムのトランザクションベースでユーザーに課金をしてマネタイズする(アルゴリズムの自社開発も行う)。
SOUNDRAW
AIを活用した作曲サービス「SOUNDRAW」を開発する。特にターゲットにするのは、動画クリエーターだ。動画クリエーターは通常BGMライブラリを活用して長さや雰囲気に合わせた音楽を探すが、このサービスを利用すれば、ムード、ジャンル、曲の長さ、テンポを設定するだけで著作権フリーの音源を作成できる。
ビジネスモデルはサブスクリプション年間プランで月額1650円、月間プランでは月額1990円。有料ユーザーは現在1200人強。34%が海外ユーザーなのも特徴だという。
B Dash Venturesは4号ファンドをファイナルクローズ
なおB Dash Venturesでは、今回のイベント開催と合わせるかたちで6月3日、4号ファンドのファイナルクローズを発表している。
ファンドサイズは約100億円。これまで1年でDX、SaaS、Web3領域を中心に、15社への投資を実行している。今後もネットサービス全般、特にシード・アーリー期のスタートアップへの投資を行うとしている。またB Dash Venturesは2018年に暗号資産領域への投資に特化したファンドを組成しているが、その知見を生かしてWeb3への投資をより強化するとしている。