
親しい友人との繋がりを重視し、自分ではなく友人の写真を投稿する“アンチ自撮り”SNSの「Poparazzi」が急成長中だ。セレブリティを狙うカメラマンの「パパラッチ(Paparazzi)」をもじったその名は、「ユーザーが友人のパパラッチになる」ことをコンセプトとして付けられている。
Poparazziを開発したのは2018年設立の米スタートアップ・TTYLだ。2021年5月に正式ローンチすると、わずか数日でApp Storeのランキングで全米1位にまで上り詰めた。その後はSNSなどで話題に上ることも少なくなり、「一発屋ではないか」と揶揄する声も多く聞かれたPoparazzi。だが、実はZ世代(一般的には1990年代半ばから2010年代生まれの世代)を中心にユーザー基盤を順調に拡大し、2022年6月1日には累計ダウンロード数が世界で500万件を突破した。
なぜPoparazziのような次世代SNSは若きZ世代を惹きつけるのか。その鍵は、従来のSNSにはない、友人との「親密感」を重視していることにある。では、どのような設計によって親密感を実現しているのか、詳細を見てみよう。
Z世代を惹きつける次世代SNSに著名投資家も熱視線
冒頭でも説明したとおり、Poparazziは友人の写真を投稿するSNSだ。ユーザーによる自撮り投稿は想定していない。ユーザーのタイムラインには友人がパパラッチ感覚で撮影した自身の写真のみが並ぶというユニークな設計になっている。
もちろん、パパラッチされたすべての写真がタイムラインに自動投稿されるわけではない。ユーザーのタイムラインには事前に承認した友人だけが写真を投稿できる。また、気に入らない自分の写真は削除することもできる。投稿へのリアクションは絵文字のみで、コメントはできない。あえてコメント機能を実装しないことで、炎上や誹謗中傷が起こらないようにしている。

こうした親しい友人との親密感を重視した設計がZ世代を惹きつけている。TTYLによると、Poparazziユーザーの95%は14〜21歳。中でも14〜18歳のユーザーが75%占めており、ティーンネージャー向けサービスと言っても過言ではない状況だ。同SNS上では、これまでに1億枚以上の写真が投稿されたという。
著名なベンチャーキャピタル(VC)もPoparazziに熱視線を送っている。米ニュースレター『Newcomer』によると、2021年5月には米名門VCのBenchmarkとAndreesen HorowitzがTTYLのシリーズAラウンドにおいてリード投資家の座をめぐって競い、結果的にBenchmarkが同ラウンドをリードすることとなった(Andreesen Horowitzは出資を見送った)。なお、米テックメディア『TechCrunch』によると、TTYLは同ラウンドで1500万ドル(約20億円)もの資金を調達。現在の従業員数は15人で、この先2年のランウェイ(キャッシュ不足に陥るまでの残存期間)を確保しているという。
続々と登場する次世代SNSにある“共通点”
次世代SNSと言えば、2021年には音声SNS「Clubhouse」や写真SNS「Dispo」が日本でも話題を集めた。だが、どちらのSNSにも、もうかつてのような勢いはない。
Clubhouseでは人気コンテンツの終了が目立つ。例えば、DIAMOND SIGNALでも取材し、一時は自身の顔写真がClubhouseのアイコンにも採用されたミュージシャンのアクセル・マンスール氏は、最大で6万7000ユーザーが参加したルーム「Lullaby Club」を3月にクローズ。Clubhouseで最も人気なルームの1つだったが、Amazonが手がけるライブ配信アプリ「Amp」に移転した。加えて『Bloomberg』が6月3日に報じたところによると、Clubhouseを運営するAlpha Explorationでは直近、事業の方向展開を理由に、一部従業員をレイオフしたという。
かたやDispoでは2021年3月、創業者のデビッド・ドブリック氏を中心とするYouTuberグループであるVlog Squadの元メンバーによる女性の性的暴行の疑惑がメディアで報じられ、ユーザーや投資家からの信頼が失墜。初期投資家が投資から撤退し、ドブリック氏も経営の現場から去ることとなった。以降はプロダクト開発に注力しているというが、米国外からは事実上撤退済みだ。
ClubhouseやDispoは失速したが、実は、Poparazzi以外にも急成長中の次世代SNSが多数存在するのはご存じだろうか。
例えば、13〜17歳までしか参加できないコミュニティを持つフランスのSNS「Yubo」は累計で6000万ユーザーを獲得したとTechCrunchが報じている。また、iPhoneのウィジェットを介して画像を送り合う「Locket」は1870万件、通知から2分以内にフィルターなしの自撮りを投稿しなければならない「BeReal」は1230万件ダウンロードされたことが、米アプリ分析サービス「Sensor Tower」のデータから分かっている。
これら次世代SNSに共通しているのは、コミュニティ範囲を友人間や同世代に限定したり、あえてフィルターのような「映え」のための機能を提供しないことで、等身大の自分を表現し、気の合う友人や同世代と親密に交流することに最適化されている点だ。
米VC・Index Venturesのパートナーであるレックス・ウッドベリー氏は米ウェブメディア『Insider』の取材で、「Z世代が使うアプリは最も親しい友人との関係を強めるプラットフォームが中心になっていくだろう」という考えを述べている。Poparazziを展開するTTYL CEOのアレックス・マー氏も、ウッドベリー氏と同様の考えだ。
マー氏は6月1日、同社の公式ブログで「私たちは、インターネット上でユーザーが親しい友人たちと本音でつながることができる安全な場所を作りたかったのです。そこで、人々が自分自身について投稿する機能を取り除き、自分自身ではなく友人同士がコンテンツを作り合うという新しいSNSを構築しました」と語った。
以前には、ブログプラットフォーム「Tumblr」がZ世代にとって、大手SNSや現実世界から逃れる場所として選ばれ、利用が急増していると報じた。マー氏も「ローンチから1年。リアルな友人との本物のつながりを中心とした、新しいSNSの需要が明確になりました」と述べているとおり、Poparazziのような次世代SNSは、Z世代が「Facebook」や「Instagram」といった従来のSNSでは見せられない、等身大の自分を晒せる“憩いの場“として定着してきている。