Photo: Oscar Wong / Getty Images
  • Play、Move、Sleep──生活に広がる「X to Earn」の世界
  • キャラクター育成やスニーカー合成、対戦──さまざまな稼ぎ方
  • ゲームアセットへの初期投資ハードルを下げたスカラーシップ制度
  • X to Earnゲームへの参加にはリスクも伴う

「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」「Move to Earn(動いて稼ぐ)」をはじめ、最近よく耳にする「X to Earn(○○して稼ぐ)」というキーワード。背景にはゲームや運動、睡眠などと連動して暗号資産(仮想通貨)などを稼げるブロックチェーンゲームの存在がある。X to Earnがどのような仕組みで運営され、なぜ注目を集めるのか、解説する。

Play、Move、Sleep──生活に広がる「X to Earn」の世界

ブロックチェーン技術を活用し、プレイすることでトークンや暗号資産を獲得できるオンラインゲームの領域は、GameとFinanceを組み合わせた「GameFi(ゲームファイ)」と呼ばれている。

GameFiでは、ブロックチェーンゲームやNFTゲームをプレイすることで、ゲーム内通貨やアイテムなどを暗号資産やNFT(非代替性トークン)化された資産として手に入れることができる。プレーヤーが入手したこれらの資産は、暗号資産取引所やNFTマーケットプレイスを通じた取引により、ゲームの外でほかの暗号資産や法定通貨に換えることも可能だ。

GameFiトレンドの盛り上がりにより、ブロックチェーンゲーム開発を手がける企業が次々と現れ、スクウェア・エニックスやセガ、バンダイナムコ、サイバーエージェントなどの大手企業も参入を表明している。また、そこに投資を行うGameFi特化型の投資ファンドも続々と現れている。こうしたGameFiトレンドを支えるのがPlay to EarnをはじめとするX to Earnブームである。

Play to Earn(P2E)のほかにも、歩いて稼げる「Move to Earn」のアプリとして今年人気が爆発した「STEPN(ステップン)」や、睡眠の時間や質によって報酬が得られる「Sleep to Earn」、学んで稼げる「Learn to Earn」や飲食することによって稼ぐ「Eat to Earn」「Drink to Earn」など、生活のさまざまな場面に合わせたX to Earnアプリが登場している。

キャラクター育成やスニーカー合成、対戦──さまざまな稼ぎ方

ゲーム内アイテムにNFTを付与し、GameFiの先駆けとなったのは2017年リリースの「CryptoKitties(クリプトキティーズ)」だ。子猫を集めて取引する育成・収集ゲームで、ユーザーは自分の持っている子猫を他の子猫と交配させ、新しいオリジナルの子猫を生み出すことができる。子猫の1匹1匹にはNFTが付与され、珍しい子猫ほど高値で取引される仕組みだ。

CryptoKittiesを皮切りに、ブロックチェーンゲーム内の通貨として暗号資産を入手したり、NFTの取引によって稼いだりする、Play to Earnの流れは本格化。代表的なPlay to Earnゲームには、「Axie Infinity」や「Decentraland」、アルファ版公開中のメタバースゲーム「The Sandbox」などがある。

Play to Earnゲームで稼ぐ、つまり暗号資産を手に入れるには、ゲーム内キャラクターの育成やアイテム収集を行い、育成したキャラクターや収集したカードなどのアイテムを使った「対戦」によるゲーム内通貨(暗号資産)の獲得、NFT化されているキャラクターやアイテムの「取引」による暗号資産の獲得といった方法がある。The Sandboxなどのメタバースゲームでは、仮想空間上で土地を買ってレンタルしたり、取引したりすることで稼ぐことも可能だ。

Move to Earnゲームのブームをけん引するSTEPNでは、歩いたり走ったりすることでゲーム内通貨を得ることができる。ゲームを始める際はまず、アプリ内のマーケットプレイスでNFT化された“靴(スニーカー)”を購入。決まった距離を移動するともらえるゲーム内通貨で靴をレベルアップできるほか、靴と靴を“合成”することで新しい靴をつくることができ、その靴を売って暗号資産を手に入れることも可能だ。

ほかにも、歩くことでペットを育ててNFTマーケットプレイスで販売できる「Genopets」、1日4000歩以上歩くことで暗号資産として流通するBNB(バイナンスコイン)が直接保有するウォレットに報酬として入る「Step」などのMove to Earnゲームが公開されている。

ゲームアセットへの初期投資ハードルを下げたスカラーシップ制度

多くのゲームでは最初に、ゲームを始めるためのアイテムやゲーム内通貨など、NFTや暗号資産を購入することが求められる。たとえばSTEPNで靴のNFTを購入するには、日本円換算で最低でも数万円程度は必要だ。X to Earnゲームの中には課金せずに始められるゲームもあるが、「○○して稼ぐ」と言えるほど稼げるようにするためには、ある程度の(そしてしばしば、それなりに大きな額の)初期投資が必要だということは言えるだろう。

X to Earnゲームで稼ぎたいと考える人々にとって、これは最初の大きなハードルとなる。このハードルを下げる仕掛けとして登場し、X to Earnブームに火を付けるきっかけとなったのが「スカラーシップ」制度である。

東南アジアやインド、中東、南米、アフリカなどの発展途上国では、ブロックチェーンゲームをプレイすることで生活費を稼いだり、家族を養ったりするプレーヤーが急増している。NFT化されたゲームアセットをレンタルするスカラーシップ制度は、これらの地域におけるブロックチェーンゲームの拡大、そして世界的なGameFi領域の盛り上がりに大きく寄与している。

スカラーシップは2021年、投資家とブロックチェーンゲームのプレーヤーによるコミュニティ「Yield Guild Games(イールドギルドゲームズ)」が生み出したビジネスモデルである。スカラーと呼ばれるプレーヤーはスカラーシップを利用して、ゲームキャラクターやゲーム内通貨などのNFTをレンタルすることにより、初期投資をせずにX to Earnゲームをプレイすることができる。スカラーが獲得した収入は、NFTを貸し出したゲームアセットのオーナーとスカラーとの間で分配される。

先に紹介したPlay to EarnゲームのAxie Infinityが2021年、大きく成長したきっかけもスカラーシップへの対応だった。NFTのレンタルを組織的に行い、スカラーを数多く抱えて集団で稼ぐ「ギルド」と呼ばれる団体もたくさん立ち上げられ、さまざまなゲームに参入するようになっている。

X to Earnゲームへの参加にはリスクも伴う

良いことずくめに見えるX to Earnゲームの世界にも課題はある。まず、稼ぐために使われるのが法定通貨ではなく暗号資産であること。暗号資産の価値の増減によっては思ったように稼げないばかりか、初期投資した分を回収できずに損をしてしまうケースもあるため、プレーヤーはリスクをよく理解した上で参加すべきだろう。

最近ではSTEPNの基軸通貨であるSOL(ソラナ)やゲーム内で歩いて得られる通貨のGST、ガバナンストークンのGMTのレートが、世界的な暗号資産レートの下落につられて大きく下がった例がある。

STEPNの場合は、暗号資産レートの下落と相前後して、マルチチェーン対応が始まり、従来のSolanaチェーン(通称S国)に加え、バイナンススマートチェーン(BSC、BNBチェーン)のモード(通称B国)が追加されたことも、相場が“荒れる”要因となった。後発のB国ではS国と比べて初期費用が10倍かかる分、同じ距離を歩いて稼げるゲーム内通貨も10倍になるため、プレーヤーが続々と参入。B国内のGST価格も一時的に高騰したのだが、バブルがはじけ、一気に価格が下がった。

さらに5月26日には、STEPNの運営が中国でのプレイを7月中旬から事実上禁止すると発表。中国国内のプレーヤーを中心に、保有する靴を売り抜けてゲームから撤退するという動きも発生し、一時は靴の合成にかかる手数料が生成した靴の販売価格を上回る状況も見られた。

X to Earnゲームは、今後コンテンツが乱立すればするほど人気が拡散する恐れもある。コンテンツの人気が上がる前に参入し、人気が下降する前に稼ぎきって離脱するプレーヤーは得をするが、後から参入するプレーヤーの中には、すでに高騰した初期参加費用を投資した後で、プレイ中に人気が下がってゲーム内アセットの価値も下がり、勝ち逃げが難しいというケースも出てくるかもしれない。

X to EarnゲームとGameFiは、クリプトエコノミー(暗号資産経済)がより広く一般に広がり、Web3エコシステムが発展するための入口として、開発者にも投資家にも注目されている。それだけに、爆発的な相場の上下にあおられて一時のブームで消えてしまうのではなく、長い目で見て楽しまれ、成長する産業として育つことを期待したい。