
- クリエイターエコノミー1.0の始まりは、Web2.0から
- クリエイターエコノミー3.0のきっかけは、トップスターたちのプラットフォームのスイッチング
- プラットフォームに依存しない「マルチSKU」という概念の登場
- クリエイターエコノミー3.0はクリエイター側が権力を持つタイミングだった
誰もがコンテンツの作り手として経済価値を生み出すことができる、「クリエイターエコノミー」の時代が到来している。クリエイターとして活躍する個人とプラットフォームとの関係は、これからどう進んでいくのか──本稿はクリエイターエコノミー協会による寄稿だ。同団体は日本のクリエイターエコノミー発展に向けた活動を行っており、その一端として開催されたイベントのレポートである。
今回レポートするのは、アメリカの最新テックニュースやトレンドについて解説する人気ポッドキャスト「Off Topic」を運営する宮武徹郎氏をゲストに迎え、「活躍する個人とプラットフォームの現状」をテーマに開催したイベントの模様だ。モデレーターは、協会代表理事の1社であるメディアプラットフォーム運営のnoteプロデューサー・徳力基彦氏が務めた。
前後編でお届けするイベントレポートの前編では、テクノロジーの進化からクリエイターエコノミーの歴史をひも解くとともに、市場を牽引してきたアメリカの事例を中心に、日本での広がりを探る。

──今日の進行を担当するnoteの徳力です。今日は活躍する個人とプラットフォームの現状を、まずはクリエイターエコノミーについて日本で一番詳しい人に教えてもらおうということで、Off Topicの宮武徹郎さんにお越しいただきました。
Off Topicの宮武と申します。Off Topicは「コンテンツセントリック(コンテンツ中心)」な会社で、インターネットカルチャーやアメリカのテック事情を解説する、いろんな番組を運用しています。
具体的には、「Off Topic」というポッドキャストを2018年11月からやっています。また、去年から「CEREAL TALK(シリアルトーク)」というリテール中心のポッドキャストとニュースレター、そしてSpotifyさんと一緒にやらせていただいている「bytes」というテックニュース系の番組を運用しています。

──白状しますけど、僕がメタバースやクリエイターエコノミーの記事を書けたのは、もう完全にOff Topicさんのおかげです。
ありがとうございます。
──メタバースという単語を初めて認識したのがOff Topicsさんの記事。ここに「Fortnite」が出ていて、すごい腹落ちしたんですよ。僕がクリエイターエコノミーという単語に初めて触れたのが2020年12月の「DIAMOND SIGNAL」の記事(「Z世代が起業する米国、2021年のトレンドは“クリエイター”の台頭」)。これはインタビュー相手が宮武さんなんですよね。
先ほど「日本で一番クリエイターエコノミーに詳しい方」と紹介したら、首を一生懸命横に振ってらっしゃいましたけれど、間違いなく日本で一番クリエイターエコノミー、特に米国のクリエイターエコノミー事情に関して詳しい方だと思います。
クリエイターエコノミー1.0の始まりは、Web2.0から
——最初にクリエイターエコノミーの進化について、振り返りをしていただけますか。
まずクリエイターの定義が何かという話から始めましょう。クリエイターエコノミーには、オンライン上で何かしらのクリエーションをする人たちがいます。その中では、YouTuberやTikTokerなど動画系の方々が有名だと思いますが、テキスト、ポッドキャスト、最近ではゲームなど、いろんな分野にも存在しています。今日はそこについても触れたいと思います。
進化という話では、クリエイターエコノミーは1.0、2.0、3.0と来て、直近ですと4.0という領域に入り始めています。
その前に、インターネットもWeb1.0、2.0、3.0と進化しているので、軽くおさらいしておきましょう。Web1.0というのは、いわゆるフィジカルな世界をネットに持っていったという話です。簡単な事例を挙げますと、新聞をそのままブログ化したとか、記事化したということで、ウェブサイトが読み物として扱われた時代です。
Web2.0の世界になると、読むことだけでなく、書くことができるようになりました。
──「Read Write Web」とよく言っていましたよね。読むことしかできなかったのが、書くことができるようになったと。あのタイミングは我々からすると革命でした。
その「書く」というのはテキストを入力するだけでなく、サイトの裏側にコードを書けることでもあったので、そのタイミングでSNSが出てきて、SaaS(Software as a Service)的なサービスも出てきたのかなと思います。
今はWeb3.0がだいぶバズっていると思うのですが、実はその間に、Web2.5みたいな世界があります。Web3.0に行く前に、ちょっといろいろ戸惑っている部分、成長している部分があります。
Web2.0が始まったすぐ後に、スマホ、モバイルの革命がありました。Web2.0のタイミングで、Twitter、Facebook、Myspaceなどが出てきて、このときFacebookはかなり重要な展開としてモバイルシフトを実施しました。会社としてきちんとそこに投資したことはかなり大きいポイントだったと思います。
そこからWeb3.0に入る前に大手テック企業がインターネット市場を支配し始めたわけですが、そこに対してのカウンターカルチャーがWeb3.0だというのが全体の流れです。
その中でクリエイターエコノミーはどこに当てはまるのかというと、だいたいWeb2.0の始まりからクリエイターエコノミー1.0が始まっており、その最初の時代が「UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)」だと思っています。Twitter、Facebook、Myspaceなどが該当するのですが、いわゆる誰でもクリエイターになれる時代が始まりました。
クリエイターエコノミー3.0のきっかけは、トップスターたちのプラットフォームのスイッチング
──クリエイターエコノミーというキーワード自体は最近出てきた言葉だから最近の話のように聞こえますが、広い意味ではその頃からクリエイターエコノミーは始まっていたということですね。
そうです。そのときはまだ誰もマネタイズのことは気にしていなかったですね。とりあえず、何か出せたということに喜びを感じていました。話せない人と話せたとか。そこが革命的でしたね。
そうしたサービスの広告モデルがキックオフし始めたタイミングで、モバイルによってさらにクリエイターエコノミーが加速しました。モバイルでInstagramが出てきて、そのタイミングでインフルエンサーが登場。インフルエンサーが現われたのがクリエイターエコノミー2.0というタイミングなのかなと思います。

──SignalFireという会社が「Creator Economy Market Map」を出しています。ここでは、Layer 1、Layer 2、Layer 3になっていますけれども、今の宮武さんのお話でいくと、Layer 1のところがWeb2.0で我々一般人でも情報発信できるようになったタイミング。そして、Layer 2がインフルエンサーマーケティングによって、発信者が収益を得ることが普通になったタイミングというわけですね。
はい。特に広告モデルがインフルエンサーマーケティングに変わり始めたり、スポンサード広告が出てきたタイミングあたりが、Web2.0でいわゆる「GAFA」が跳ね上がったタイミングですね。
そして、ここがクリエイターエコノミー3.0になるきっかけとなる課題が生まれたタイミングです。プラットフォームのインセンティブがネットワーク(エンドユーザー)側のインセンティブと揃わなかったんですね。
これは、Facebook、Twitter、YouTubeといったプラットフォームが、大きくなるとネットワークのために動かなくなってしまうという話です。多くのプラットフォームは上場企業でもあり、売上を成長させなければいけない会社。だから初期はユーザーのために動いていたのが、スケールするとどうしてもユーザーを制限したり、データを囲い込んで成長するモデルが多いのです。
プラットフォームが成長するにあたっては、彼らはどんどん伸びないといけないので、まずクリエイターがコモディティ化します。そうすると、クリエイターの扱いが荒くなります。
場合によっては、プラットフォーム側が完全に、どのクリエイターと一緒に提携するか全部選べるし、逆にシャットオフも全部できるわけです。そこのパワーバランスが圧倒的に変わったんです。

──なるほど。その文脈もクリエイターエコノミーと関係あるんですね。
関係ありますね。そこのアンバランスについてはOff Topicでもちょこちょこ話しているんですが、結局、会社側、プラットフォーム側は利益をどうしても上げたいので、ネットワーク(エンドユーザー)が影響を受けることになってしまい、売上を伸ばすためには(サービスを)クローズドにする必要がありました。
他社を入れないとか、クリエイターをロックアップ(固定)するという形がベストなんですけれども、それに対するクリエイターエコノミー3.0のきっかけの一事例が「Vine」(ショート動画の共有サービス。2016年にサービス終了)です。
──懐かしいですね。ある意味TikTokの先駆けでしたね。
VineがTwitterに買収されてから、Vineのトップスターたちがきちんとマネタイズを支援してくださいとTwitterにお願いしましたが、Twitterが「今はやりません」と断り、結局Vineのトップスターたちは全員抜けてYouTubeに行きました。そこに現在のトップYouTuber……Logan PaulさんやDavid Dobrikさんたちがいました。
このプラットフォームのスイッチングは、クリエイターがプラットフォームより力があった証明でもあります。クリエイターが自分自身のコンテンツやアイデアを別のところに持っていけたというのは結構大きな話だと思います。今はクリエイターエコノミー3.0の時代に入っていますが、ここはクリエイターがユーザーから直接マネタイズできるという概念ですから。
クリエイターエコノミー3.0の時代では、明らかにクリエイターに対するプラットフォームからのリスペクトが、前よりあるというのが正直なところです。
クリエイターエコノミー2.0の時代は、結局プラットフォーム側がすごく重要でした。インフルエンサーのディスカバリー(発見)、認知度、フォロワー数を上げるために、プラットフォームがいろいろと支援していました。
クリエイターエコノミー3.0の時代になると、ディスカバリーをバリューと一緒に提供できるプラットフォームが少なくなり、サービスによりバリュー提供しているのはコンテンツ制作をしているクリエイター側に寄るようになります。
クリエイターがいいコンテンツを出しているのに、儲かっているのはプラットフォーム側。「なぜだ?」……となります。だからこそ、プラットフォーマーがいまクリエイターファンドなどを作っているという状況なわけです。
プラットフォームに依存しない「マルチSKU」という概念の登場
同時に、アメリカでは2020年ごろにTikTokがメインストリーム化したのですが、そのタイミングでトランプ大統領がTikTokをBAN(禁止)するかもしれないという話がありました。
──アメリカでは今、TikTokがすごいですね。
すごいです。特にクリエイターとして、新しいフォロワーを獲得するためにYouTubeかTikTokかを選ぶなら、絶対TikTokに行きます。
──日本にいると「アメリカではTikTok禁止なんでしょう」ぐらいに(軽く)思っていた方も多いと思うのですが、それぐらい人気があるからトランプは禁止したかったということなのでしょうか。
特に中国に対してバッティング(衝突)しているところがあったので。ただ、そんな中でもTikTokスターは存在していたので、もうその時点では止められなかったのでしょう。
そのタイミングで重要なターニングポイントがありました。それまでは、TikTokスターたちはTikTokだけで勝負していました。しかし、「あと一晩で禁止になるかも」となったタイミングで、TikTokスターたちはTikTok LIVEで「インスタでフォローしてください」ってみんな言い出したんです。そして、その次の週ぐらいからトップのTikTokスターは全員、YouTube番組を始めていました。
──インスタもYouTubeも……。
全部やるっていう。プラットフォームに依存するリスクを、クリエイターたちがあの瞬間に理解したんです。
──トランプのおかげなんだ(笑)。
(笑)。でも、そのおかげで「マルチSKU*」のクリエイターという概念が生まれたんです。クリエイターがマネタイズのためにマルチSKU化してしまったので、プラットフォーマーが焦ってクリエイターファンドを作ったんです。
*SKUは、在庫の最小管理単位のこと。ここではマルチSKU=「複数のSNSやチャネルを運営する」ことを指す。

クリエイターエコノミー3.0はクリエイター側が権力を持つタイミングだった
──海外のプラットフォームだと1億円単位の札束でほっぺたを叩いてくるようなクリエイターファンドがたくさん出てきて……。
クリエイターをキープしないといけないと。
──育てたいというより留めたいという感じですね。プラットフォーム同士のクリエイターの奪い合い文脈なんですね。
圧倒的に個人の力に寄ってしまったところが大きいですね。特に今ですと、TikTok、Reels(Instagram Reels)、Shorts(YouTube Shorts)に、完全に同じ動画を出す人もいます。なので、クリエイターエコノミー3.0はクリエイター側が権力を持つタイミングだったわけです。
初期YouTuberはYouTubeにすごく貢献しました。しかし、コンテンツを作って、提供していたのに、YouTubeの株などをもらえたわけではなかったので、そこのアップサイド(利益)はシェアされませんでした。クリエイターエコノミー4.0ではそのオーナーシップ(が加わります)。インターネットの歴史で見ると、Web3.0というものになるのかなと思います。
──僕はnoteの人間なので、僕がいうのはちょっと嫌らしくなっちゃうかもしれませんが、noteの課金の仕組みはやっぱり早いですよね。noteができたのは2014年ですが、その頃にクリエイターエコノミー的なサービスは、海外ではあまりなかったですよね。
クリエイター文脈かどうかという話はありますが、「Patreon」(アーティストやクリエイター向けのクラウドファンディングプラットフォーム)や、その前の「Shopify」(ECサイト作成サービス)などはありましたね。ただ、今のフィジカルな世界、リアルな世界で考えると、たとえばクレジットカードは基本的に(決済手数料が)3%ぐらいです。3%にしている理由はやっぱり、めちゃくちゃ高くしてしまうと誰も使わなくなるから。また低いからこそ、いろんな方が使ってくれて、それで経済圏がどんどん大きくなっているわけです。
クリエイターエコノミーの、クリエイター向けサービスを提供している皆さんに関しては、よりエコノミーを拡大させるかどうかというところを考えるべきなのかなと思います。
──クリエイターの力が着実に上がってきているし、それを買うファンも付いてきています。今回の勉強会をやるにあたって、日本版クリエイターエコノミーカオスマップ的なものを作ってみたのですが、たくさんあるんですよね。特に、この1、2年で大変増えています。やっぱり、クリエイターエコノミーのトレンドを考えることは、すごく大事な気がしてきますね。深堀りは後ほどさせていただきたいと思います。

(後編に続く)

宮武徹郎氏(Off Topic 代表取締役)
USバブソン大学卒。2014年に新卒でデジタルガレージに入社し、ベンチャー投資育成チームに配属。主に北米のスタートアップ企業への投資に従事。2020年に独立してクリエイターと世界、テクノロジーと社会を結びつけ、カルチャーモーメントを生み出すメディアブランド・コミュニティカンパニー「Off Topic」を立ち上げる。
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