
- 30〜50代を中心に利用者が増加、登録ユーザー数は65万人超え
- 「9割は紹介や口コミ」生産者から支持を集める理由
- 地銀VC6社などから13億円調達、高齢の生産者のサポート強化へ
オンライン上で全国の生産者から食材や花きを直接購入できる“産直EC”という選択肢が広がってきている。
経済産業省が公開した電子商取引に関する市場調査によると、2019年のBtoCにおける食品、飲料、酒類のEC化率は約2.9%。他の分野に比べてもオンライン化が進んでおらず、伸び代が大きい領域だった。この数字は2020年時点でも約3.3%とまだまだ発展途上ではあるものの、コロナ禍で生鮮食品をオンラインで購入するニーズが高まった結果、産直ECを試すユーザーも増え始めている。
こうした状況下で利用者を大幅に拡大しているのが、ビビッドガーデンの運営する「食べチョク」だ。現在65万人以上が登録している同サービスの年間流通額は、2019年10月から2年で約128倍に成長した。
生産者の数も7200軒を超え、2020年8月に資金調達を実施した際と比べても3倍以上に増加している。ビビッドガーデンによると主な流入経路は生産者間の紹介や口コミで、今でも「9割以上の問い合わせはインバウンドによるもの」。実際に食べチョクを使うことで収益の拡大につながった事例がいくつも生まれ、生産者が他の生産者を連れてくるような土壌ができつつある。
今後ビビッドガーデンではこの生産者のネットワークをさらに広げていく計画だ。同社は6月14日に複数の投資家からシリーズCラウンドで約13億円を調達した。
今回の投資家の中には地銀系のベンチャーキャピタルが6社含まれているのがポイント。ビビッドガーデンはこれまで50以上の自治体と連携してきたが、新たに加わった株主とも協業しながら地域の生産者の獲得とサポートに力を入れていくという。以下は今回の投資家陣。
- 新生企業投資
- ANRI
- 三菱UFJキャピタル
- みずほキャピタル
- FFGベンチャービジネスパートナーズ
- 山口キャピタル
- GOLDWIN PLAY EARTH FUND
- 南都キャピタルパートナーズ
- ヒューリックスタートアップ
- いよぎんキャピタル
- 広島ベンチャーキャピタル
- 山梨中銀経営コンサルティング
- ジャフコ(既存投資家)
- NOW(既存投資家)
30〜50代を中心に利用者が増加、登録ユーザー数は65万人超え
ビビッドガーデン代表取締役CEOの秋元里奈氏によると、この2年間は主軸サービスである食べチョクを磨きながら「そこで培ったアセットを活かして事業を横に広げる挑戦をしてきた」という。
もともと食べチョクは2017年8月にオーガニック農作物を扱う産直ECとしてスタートした後、肉や魚、酒、米、花き類など対象を拡充しながらサービスを拡大してきた。2020年7月には待望のスマホアプリもローンチ。カート機能やレシピ機能などを取り入れECサービスとしてのユーザー体験を向上させながら、利用シーンや用途を広げる取り組みにも力を入れてきた。

たとえば産直野菜の定期便「食べチョクコンシェルジュ」や旬の果物の定期便「食べチョクフルーツセレクト」は人気サービスの1つ。前者の累計注文数は15万件を超えており、後者も2022年3月のリニューアルから2カ月で注文数が1.5倍に増えた。2021年2月からは新たに法人向けの「食べチョク for Business」も始めており、大企業を中心に取引先や従業員向けのギフトとしての用途など利用が進む。
「安く買えるサービスとして認知されてしまうと、他にも選択肢がいくつも出てきます。食べチョクの場合はそうではなく、品質が良いものを生産者からお得に買えるのが特徴です。(その特徴を残しながら)最近では良いものをギフトとして贈りたいというニーズや、定期便を通じて日常的に食べたいというニーズに対応するかたちで、食べチョクを起点に利用シーンを広げるようなイメージでサービスを拡充してきました」(秋元氏)
冒頭でも触れた通り、前提としてコロナ禍で産直ECを含む生鮮EC自体の注目度が増している。特に食べチョクの場合はそのタイミングでテレビCMを実施したことや、秋元氏自身がテレビを始めとしたメディア活動にも積極的に取り組んだことでサービスの認知度が一層高まった。
「食にこだわりのある人」や「料理を楽しみたい人」がコアなユーザー層であることは以前から変わらないものの、ネットで生鮮食品を購入していなかったような人たちも食べチョクを利用するようになった。年齢層ももともと多かった30〜40代に加え、50代のユーザーが増えてきているという。

「9割は紹介や口コミ」生産者から支持を集める理由
生産者側の変化も同様だ。この2年ほどで“アーリーアダプター”と言われるような新しい取り組みに積極的なユーザーだけでなく、より広い層へと広がり始めている。
「数年前まで、産直ECは生産者の方にとって『おまけ』みたいな認識をされていることも多かったように感じます。実際に『個人向けは大変なイメージが強く、飲食店などの方が安定するよね』という声もよく聞きました。そんな状況がコロナで一変し、1つの販売経路に依存するのはリスクが高く、売り先のポートフォリオを組んで経営をした方が良いという認識が広がった。起業した当初は『今のままでいい』という生産者の方が大半でしたが、積極的に新しい販路を探している方が増えてきています。以前であれば産直ECがメインの売り先になると考えていた人はほとんどいませんでしたが、食べチョク自体も規模がかなり大きくなり、(生産者によっては)それがメインの選択肢になってきているのが大きな変化です」(秋元氏)
秋元氏の話では、産直ECに初挑戦する生産者にとって最初のハードルになりがちなのが「顔が見えない顧客とのコミュニケーションやトラブル対応」だという。
特にトラブル対応は慣れていない生産者にはストレスになりやすい。そこで食べチョクは生産者と消費者をつなぐプラットフォーム型のサービスではあるものの、担当者が両者の間に入ってやりとりをサポートするなど、初期から手厚いサポートを重視してきた。
また蓄積されたデータを活用して“データに基づいた”商品設計や集客の支援も手掛ける。担当者によるサポートやサイト側の施策だけでなく、生産者向けの「ダッシュボード」も開発し、生産者が自力で重要な指標や改善点を一眼で把握できる仕組みを作った。

こうした取り組みの結果として、近年は水産物や畜産物の領域で月間の最高売上が1000万円を超えるような規模の生産者が複数生まれている一方で、小規模ながら着実に売上を拡大している生産者の事例も増えてきた。
ある生産者は家族経営で少量多品種の作物を手がけており、2018年に食べチョクでの販売を開始。利用前後で売上は430%増加し、現在は全体の売上の8割を食べチョクが占めているという。
生産者の視点では、産直ECに挑戦できるサービスは食べチョク以外にも「ポケットマルシェ」など複数の選択肢が存在する。食品などの産直に特化したものではないが「メルカリShops」や「BASE」も同じ用途で使うことができる。
食べチョクでは商品代(送料を含まない商品代)の19.7%が手数料となる仕組みだ。そのため自分自身で販路を確立し、顧客対応やマーケティングもできるのであれば、BASEなど他の手段を選んだ方が手数料などの面では安く済む可能性がある。
もっとも、すべての生産者が自分で販売できるわけではない。実際に食べチョクを使う生産者の中には「(ECに)慣れていない人や、その知見がなくて困っている人」も増えてきている。そういったユーザーからは「顧客対応などのサポートや分析・集客の仕組み、消費者が集まる基盤などが評価されており、総合的に見れば安いと満足してもらえることも多い」(秋元氏)という。
上述した通り登録生産者の数が7000軒を超えた現在も、新規ユーザーの流入経路は既存ユーザーの紹介や口コミなど9割以上がインバウンドによるもの。それだけで毎月コンスタントに200〜300件の問い合わせがくる状態が続いているという。

地銀VC6社などから13億円調達、高齢の生産者のサポート強化へ
今回の資金調達は「地方企業や自治体との連携の強化」を軸に、サービスをさらに成長させるのが大きな目的だ。
食べチョクの生産者は40代〜50代前後が多いが、農業従事者の平均年齢は67歳。高齢の生産者に対しては十分にサポートが届いていないのが課題の1つだと秋元氏は話す。一方で複数の生産者が共同で出品できる「ご近所出品」機能や自治体との連携によって、高齢の生産者がネット販売に踏み切れた事例なども生まれ始めているという。
「地方自治体と連携を進める中で、地元企業とタッグを組むことの重要さを感じました。特にインターネットに不慣れな高齢の生産者の方は、東京のよくわからない会社のサービスに登録することに対して心理的なハードルを感じられることも多いです。自治体や地元企業がサポートしているというだけでも安心感につながりますし、その際に身近に相談できる人がいることの意義は大きいと考えています」(秋元氏)
まずは地銀や地方自治体との連携を中心に生産者のネットワークを広げ、2023年中に登録数1万軒の突破を目指す方針。調達した資金はサービスの機能拡充やマーケティングの強化のほか、組織体制の強化にも用いる。
「規模が広がってきたとはいっても(生産者の数は)まだ7000軒。農業従事者が130万人いると言われていることも踏まえると、ごく一部の人にしかサービスが届いていない状況です。農業全体の底上げをしていくためにも、自治体との連携などを通じてもっと裾野を広げていくような取り組みを強化していきたいと考えています」
「いろいろな生産者の方が集まるサービスになれば、今までは地元の直売所でしか売っていなかったような食材が手に入るようにもなります。(消費者にとって)良いものをお得に買えることが食べチョクの1番の強みだとは思っていますが、スーパーでは出会えないような良品を見つけたいというニーズも強いです。地元の企業や地域の生産者の方と連携しながら、そういった声に応えられるようなサービスを目指していきたいです」(秋元氏)