
企業内外のチームメンバーが同時にアクセスし、アイデア出しなどをするためのオンラインホワイトボードサービス「Miro(ミロ)」。Miroを展開する米スタートアップ・RealtimeBoardは2021年5月に日本法人のミロ・ジャパンを設立し、日本語版の提供に向けて準備を進めてきた。

それから約1年が経ち、ミロ・ジャパンでは2022年6月13日より、Miroの日本語版を正式に提供開始。サービスそのものだけでなく、ユーザーが作成したテンプレートを用意する「Miroverse」でも、日本人ユーザー向けのテンプレートを公開した。
ミロ・ジャパンではもともと2022年2月に日本語版をリリースを予定していた。ミロ・ジャパン代表執行役社長の五十嵐光喜氏は6月13日開催の記者説明会で「(日本語版は)Miroにとって初のローカライゼーションのプロジェクト。QA(Quality Assurance:品質保証)に力を入れ、高品質に仕上げていたため、リリースが遅れてしまいました」と遅延の理由を述べた。
4億ドルの資金調達で評価額は2兆円超え
Miroはビデオ会議の「Zoom」やビジネスチャットの「Slack」といったツールと同様に、2020年以降はリモートワーク普及の追い風を受け、飛躍的な成長を遂げている。ユーザー数は2020年9月からの1年で、無料・有料ユーザーを合わせて約800万人から約2500万人にまで増加。そして、それから2022年6月までには3500万人規模にまで拡大したという。日本でも、ヤフー、ディー・エヌ・エーといったIT企業や、富士通、東芝、ニコンといった老舗企業への導入も進む。企業ユーザーを除く個人ユーザーも含め、6月までに合計で約70万人のユーザーを獲得した。
急成長中のMiroに、著名ベンチャーキャピタル(VC)も熱視線を送っている。RealtimeBoardは1月、4億ドル(約538億円)の資金調達を発表。ラウンドはシリーズCで、ICONIQ GrowthやAccelといった米名門VCがラウンドをリードした。同社の評価額はすでに175億ドル(約2兆3541億円)に達している。
ミロ・ジャパンでは2024年までに国内で500万以上のユーザーと1万件の有料顧客組織の獲得を目指している。だがコロナ禍が沈静化しつつある日本では、従業員をオフィスに呼び戻している企業も少なくない。「オフィス勤務が再び常態化すればMiroの需要は低減するのではないか」と聞くと、五十嵐氏は「たとえ従業員がオフィスに戻っても、Miroの価値は変わらない」と即答した。
「Miroが誕生したのは11年前。コロナ禍でリモートワークが普及するよりもずっと前です。Miroのような、社員一人ひとりの声を反映してプロジェクトを作っていくためのプラットフォームには、当時からニーズがありました」
「物理的にミーティングルームに集まって、ホワイトボードにアイデアを書き出したとしても、そのホワイトボードを永続的に保持しておくことはできません。保持できたとしても、時間や場所の制限はあります。Miroが推進するような“新しい働き方”に関するニーズは減らないと思います」(五十嵐氏)
日本拡大における肝は日本語化にとどまらないローカリゼーション
情報共有ツール「Notion」を開発する米スタートアップ・Notion Labs CEOのアイバン・ザオ氏も日本語版の提供について「とても高いクオリティが求められている」と説明していた。単なるサービスの日本語化だけでなく、カスタマーサポートといった体制についても日本人向けに最適化した「ローカリゼーション」が求められるからだ。
Miroの五十嵐氏は「特にカスタマーサクセスの体制強化に注力していく」と宣言していたが、単にサービスを日本語化するだけでなく、「知る、使う、サポートを受ける」といったすべてのプロセスにおいてユーザーが自然だと感じられるローカリゼーションが、Miroの日本拡大における肝となりそうだ。