
- コロナ禍で激変した芸人の生き方
- ライブ配信でUber Eats3日分くらいの稼ぎを得る
- 多様化しつつある、芸人の稼ぐ手段
「ギグワーカー」という言葉の台頭と共に、仕事のひとつとして認知され始めたフードデリバリーサービスの配達員。ここ数年、街中で目にする機会も増えたのではないだろうか。
シフト制などはなく、自由なスタイルで仕事ができる点、自分のがんばり次第で大きく稼げる点などから若者を中心に支持を集めている。従来のアルバイトよりも自由に働ける一方で、注文が入らなければ待機の時間が長くなり、結果的に暇を持て余すことになる。そのため注文が多く入るキャンペーン期間だけ働く人も少なくない。
注文が入るまで待機し続ける時間──何の生産性もない“ムダな時間”を“稼ぐ時間”にすべく、「ウーバーイーツ待機中ラジオ」と称し、音声配信を行っている芸人がいる。サンミュージックに所属しているピン芸人・TAIGAさんだ。
彼はフードデリバリーサービス「Uber Eats」の配達員をやっており、注文が入るまでの待機中の時間を活用し、ライブ配信を実施。そのライブ配信中にリスナーから贈られてくるギフトによって、月に数万円の収益を稼いでいるという。「ただスマホを眺めているムダな時間がお金を稼げる時間に変わった」とTAIGAさんは語る。
もともとは、芸人の営業活動や大道具の搬入のアルバイトで妻と2人の子どもを養うだけの稼ぎを得ていたTAIGAさんだが、なぜフードデリバリーサービスの配達員、音声配信を行うようになったのだろうか。芸歴23年目の“いぶし銀芸人”の泥臭い稼ぎ方とは。
コロナ禍で激変した芸人の生き方
リーゼントヘアに赤いジャケット姿──この格好がトレードマークとなっているTAIGAさん。「爆笑レッドカーペット」や「あらびき団」などのテレビ番組に出演したほか、2014年の「R-1ぐらんぷり」では決勝の舞台も経験している。テレビ番組への出演だけでなく、地方のイベントや興行に出る“営業”によって、生計を立てていた。
そんなTAIGAさんの生活がガラッと変わったのは、2020年3月のこと。新型コロナウイルスの感染が拡大し始めたタイミングだ。当時、芸人の仕事に加えて、音楽フェスやコンサートの大道具を搬入するアルバイトをしていたTAIGAさんだったが、その両方の仕事が一気になくなってしまった。テレビ番組は過去の再放送が中心となり、感染拡大防止の観点から営業もなくなり、音楽フェスやコンサートも開催できないためアルバイト自体もなくなった。
「コロナ禍になったときに、エンターテインメントの仕事は真っ先になくなる仕事なんだなと痛感しました。今までは当たり前のように芸を披露する場所がありましたが、それはあくまで人々の生活が何事もなく、上手くいっているときの話。(コロナ禍などを含めて)物事を楽しめなくなる状況に陥ると、お笑いって求められなくなるんだな、と」
エンタメでの収入がほぼゼロになってしまったTAIGAさん。何とか日銭を稼ぐために、新しく始めた仕事がUber Eatsの配達員だった。
「(事務所の後輩である)ぺこぱの松陰寺太勇が売れる前にUber Eatsの配達員をやっていて、彼から配達員のシステムなどを聞いていたんです。でも全然理解できなくて。『スマホに注文が入るって、どういうこと?』みたいな。まさか自分がやるとは思っていなかったです」
当初、TAIGAさんは「夏ごろにはコロナ禍も落ち着いているだろう」と考えていたそうだが、新型コロナの猛威はその後2年以上続くことになる。「夏くらいまで配達員の仕事でしのげば、芸人の仕事も復活するだろうと思っていたら、全然そんなことはありませんでした」とTAIGAさんは語る。
ライブ配信でUber Eats3日分くらいの稼ぎを得る
来る日も来る日も自転車を漕ぎ続け、料理を配送していったTAIGAさん。Uber Eatsの配達員を始めて1年が経ったタイミングで、マネージャーから音声配信アプリ「stand.fm」の存在を教えてもらう。「最初は『音声配信って何それ?ラジオ?』みたいな感じで、どういったものか全然わからなかった」というTAIGAさんだったが、待機中の時間を活用するアイデアを思いつく。
「Uber Eatsの待機中は世界一無駄な時間なんです。お金にもならないですし、スマホゲームをやったり、動画を見たりするだけ。40〜50分は注文が入らないこともあるので、配達をしながら『この時間はどうにかならないのかな』と思っていました」
「そんなタイミングでマネージャーから音声配信アプリのことを教えてもらい、待機中ラジオという切り口にすれば待機時間を有意義なものにできて、面白そうだなと。そう思い、待機時間中にライブ配信を始めることにしたんです」

ライブ配信中に話すネタは決めず、待機時間に入ったら、ひとまずライブ配信を始める。その日の天気などを話していると、コメントや質問が来るので返事をしたり、時には「売れてないだろ」というイジリに対してツッコミを入れたりする。好き勝手に話しているうちに、新たに注文が入ったらライブ配信をやめ、配達に戻る。
「待機中ラジオを始めてから、待機時間が楽しいものになりました。今までは働きたくても働けず、ただ無駄な時間になっていただけだったので。全く稼げなかった時間が稼げる時間になったので、個人的にはとてもありがたいですね」
現在、音声配信アプリから得られる月の報酬は数万円程度。決して大きい金額ではないが、それでも「Uber Eats3日分くらいの稼ぎになっている」とTAIGAさんは語る。また、ライブ配信にはTAIGAさんのことを“師匠”と慕うぺこぱやオードリーのファンも来るため、今まで接点のなかった人たちとも関係性が構築できているという。
多様化しつつある、芸人の稼ぐ手段
生活が激変してから、約2年弱。当時よりかは感染状況も落ち着きを見せているが、それでもコロナ前のような仕事状況にはなっていない。「5月も2本くらいしか営業の仕事がなかったので、復活と言える状況には戻っていない」という。
だが、そうした状況でもフードデリバリーサービスの配達員や音声配信アプリの活用など、芸人が稼ぐ手段は増えてきている。
「自分はYouTubeチャンネルも開設しているので、今後は“便所酒場”というタイトルで、自宅のトイレでお酒を飲みながら配信するのもやってみたいですね。とにかく食っていくためにいろんなことをやっていかないと、と思っています」
音声配信やYouTubeチャンネル──昔はテレビ番組への出演や営業が芸人の稼ぐ手段だったが今の時代、稼ぐ手段は多様化しつつあるようだ。
