AI VTuber「紡ネン」
AI VTuber「紡ネン」
  • VTuberの次は「AI VTuber」がトレンドに?
  • VTuberにはない、AI VTuberならではの可能性
  • 保有者がAIキャラクターのアイデンィティを形成できるNFTを展開

2022年6月8日に東証グロース市場に上場後、16日時点の時価総額が2714億円となり、一時は“フジテレビ超え”で注目を集めたANYCOLOR。VTuberプロダクション「にじさんじ」を運営する同社は、つい先日もデビューから約1カ月でYouTubeチャンネル登録者数が100万人を突破した「壱百満天原サロメ」を輩出するなど、まだまだ勢いが続きそうだ。

彼らが手がけるVTuberはモーションキャプチャー技術を利用し、配信者をバーチャルキャラクターに置き換えて動画を配信するというモデル。アニメならではのキャラクターや世界観が表現できる点が大きな特徴だが、最終的にはYouTuberと同様に配信者という形で“人”が関わり続けなければならない。いわゆる労働集約型のビジネスである。

VTuberの次は「AI VTuber」がトレンドに?

ANYCOLORの上場でVTuberが脚光を浴びる中、VTuberに機械学習の技術を掛け合わせた「AI VTuber」を提供するスタートアップも生まれてきている。そのスタートアップがAI VTuber「紡ネン(つむぎねん)」を展開するPictoriaだ。

紡ネンは“言葉を紡いで進化するAI”をコンセプトに、YouTubeなどでの配信活動中に寄せられる視聴者からのコメントを学習・分析し、感情を変化させるバーチャルキャラクターだ。Pictoria代表取締役CEOの明渡隼人氏はAI VTuberについて、「人間には不可能な24時間無人で配信活動を続けられるのが特長」と語る。

実際、紡ネンは2022年のゴールデンウィークに10日間で合計240時間の生配信を行い、同時接続者数2300人を記録したほか、最終的には53万人に視聴されたという。

VTuberにはない、AI VTuberならではの可能性

Pictoriaの設立は2017年12月。当初はANYCOLORと同様に、「斗和キセキ」や「蒼乃ゆうき」といったVTuberをプロデュースしていた。2019年3月にデビューさせた後、事業自体には一定の手応えを感じていたが、途中でVTuberのプロデュースは「従来の芸能事務所と同じようなビジネスモデルである」(明渡氏)と感じ、ピボットを決める。

「もともと、日本発のグローバル企業を目指すにはIP・コンテンツにしか勝機がないと思い、IP・コンテンツビジネスに興味があったんです。起業当時はVTuberが盛り上がり始めていたこともあり、VTuberをプロデュースしたのですが、やっていることは芸能事務所と同じだなと。アニメの制作も考えたのですが、それほどの資金もない。テクノロジーとコンテンツを掛け合わせて何ができるか考えた結果、AI VTuberに行き着きました」(明渡氏)

当時、AI VTuberの作成に取り組んでいた企業はいなかった。「受け入れられるか分からなかった」(明渡氏)ことから、2020年11月に紡ネンをリリースした後にクラウドファンディングを実施。結果的には446人から276万円の資金が集まり、期待されていることを感じたという。

「VTuberは“中の人”がいるからこそ好かれるし、投げ銭もされる。AIでは無理でしょと言われることがよくあるのですが、全然そんなことはないと感じています。紡ネンのライブ配信には多くの人が来てくれて、たくさんのコメントを投稿しています」(明渡氏)

また、VTuberの場合は収益を配信者とレベニューシェアしなければならないが、AI VTuberであればその必要もないため、利益率も良い。人に関するマネジメントのリスクも生じないことから、明渡氏曰く「芸能事務所ではなく、テック企業でいられる」という。

「AI VTuberは3Dモデルをつくり、背景を決めれば同じシステムを使って作成し続けることができます。VTuberの作成コストと同じくらいの金額でつくれる。そのあたりのスケーラビティも十分にある、と考えています」(明渡氏)

保有者がAIキャラクターのアイデンィティを形成できるNFTを展開

ANYCOLORの上場時、売上高を占める割合がライブストリーミングよりもコマースの方が大きかったことが話題を集めた。Pictoriaも同じように、ライブストリーミングだけではない形でマネタイズの道を模索していく。その手段のひとつが「NFT」だ。

同社は現在、NFTプロジェクト「NEN」を展開している。NENは3000個のジェネレーティブNFTを販売し、保有者はそれぞれのNFTに設定された質問に対して、自由に回答することができ、回答内容をもとにAIキャラクターのアイデンティティを構成できる、というプロジェクト。そのアイデンティティはAIキャラクターの対話内容や思想に影響を及ぼすことができるほか、オンチェーンで永遠に保存される。

NENのコミュニティとして運用されているDiscordサーバーでは、1000人を超えるユーザーが所属し、活発にコミュニケーションしているという。

「NFTプロジェクトを成功させるために必要なのは、NFTホルダーを楽しませ、いかにコミュニティを盛り上げるかどうかです。VTuberとNFTプロジェクトは相性が良いと言われますが、VTuberは結局のところ“人”に依存する部分があるため、NFTホルダーの要望をすべて聞き入れるのは難しい。その点、AI VTuberはあくまで機械なので要望を聴き続けても問題ないので、非常に相性がいいと思っています」(明渡氏)

NENの販売は6月中を予定しているという。今後、コミュニティ内で生まれたアイデンティティをもとにしたAIキャラクターのYouTubeライブ配信に加え、アニメ化や漫画化などにも取り組んでいくという。そのための資金として、5月31日に既存投資家のSkyland Ventures、XTech Ventures、90sのほか、新規投資家のHash Global、Mask Network、太田雄貴氏から合計1.2億円の資金調達を実施したことを発表している。

「グローバルなアニメ・ゲームなどのIPとして展開していくために、シナリオなどのアイデアをNFT保有者から募集し、物語の構築に関与してもらうような仕組みなども取り入れる予定です。民主的なIP開発の新しい形を体現していければと思います」(明渡氏)