
- Appleの意味は「りんご」じゃない
- スペルは優先度の低い情報、覚えるべきは「イメージと音」
- 「とっさに英語が出てこない」は当然の悩みだった
- TOEIC満点レベルの1万2000語すべての画像を手作業で選定
- 「英語が生活の一部になる」地点まで連れていきたい
「英単語は正しいプロセスでインプットすれば誰でも覚えることができる」と語るのは、スギーズ英語発音教育研究所代表の杉本正宣氏だ。同所は言語学者の古川慧氏監修のもと、英単語を効率よく覚えられるアプリ「意味と音」を開発した。
先日、応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」でプロジェクトを開始したところ、約1カ月で1100人超のサポーターから、約900万円の支援が集まっている(7月末から一般にもリリースを予定している)。なぜ、スギーズ英語発音教育研究所は英単語を効率よく覚えられるアプリを開発することにしたのか。以下は、杉本氏によるコラムである。
Appleの意味は「りんご」じゃない
英語を学ぶ際、まず最初に目にするであろう単語「Apple」。このAppleの“意味”とは何だろうか。多くの人はりんごと答えるかもしれないが、実はこれは意味ではない。
りんごはappleの意味ではなく「Appleの日本語訳」に過ぎない。では意味とは何なのか。それは、りんごの見た目・匂い・味・食感など言葉になる前のイメージのこと。赤くて丸いあの果物のイメージそのもの、これこそがAppleの意味なのである。
これは理論言語学をヒントに導き出した考え方で、日本人にとっては梅干しを例に挙げるとわかりやすい。梅干しという日本語を見たとき、ほとんどの日本人は酸っぱい味を想像し、唾が出てくる。りんごも同じで、日本語で「りんごの意味って何ですか?」と質問されたとき、頭に浮かぶのは「丸くて赤い果物」なはずだ。
人によっては、色だけでなく甘酸っぱい味、あるいはシャリッとした食感を思い浮かべるかもしれない。「りんごの意味はAppleです」とは言わないだろう。つまり、意味とは映像・イメージのこと。Appleやりんごという文字情報(スペル)ではない。
スペルは優先度の低い情報、覚えるべきは「イメージと音」
従来の単語学習は「文字情報」を中心としたものだった。
例えば「apple」という英単語を覚えたいとき、まずは「A-P-P-L-E」というスペル(綴り)を頭の中に思い浮かべる。そしてそれに対応するものとしてAppleの日本語訳である「りんご」を結びつける。「Apple、りんご」「Apple、りんご」と繰り返し唱えたり、とにかくノートに文字をたくさん書いて覚えたという人もいるかもしれない。
だが、この英単語の覚え方は非常に効率が悪く、実践的ではなかった。想像してみてほしい。ネイティブスピーカーと英語と英語で会話をしている場面において、「スペルと日本語訳」は情報としてどのくらい重要だろうか。
会話において優先度が高いのは、相手と自分の頭に浮かんでいるイメージと、そのイメージを適切な音(発音)で伝え、理解できること。日本語訳は、あくまでもイメージを作る上でのヒントのような、言わば「補助輪」のような存在なのだ。

「とっさに英語が出てこない」は当然の悩みだった
「とっさに英語が出てこない」──英語学習者の多くが抱く、この悩みも「スペル=日本語訳」を結びつけた学習の繰り返しが原因だった。
「Apple、りんご」「Apple、りんご」のような「英単語→日本語訳」の訓練を重ねると、英語を見たり聞いたりしたときに「意味」よりも先に「日本語訳」が浮かぶようになる。一度、日本語を介さないと英語を理解できない仕組みをつくってしまうのだ。そのため、パッと英語が出てこない。
とっさに英語が出てくるようにするには「意味(イメージ)」を見たら、すぐにそれを言葉として声に出せるトレーニングを反復して行うことが大切だ。また、その逆も然りで英語の音を聞いたら、イメージが浮かぶようなトレーニングも必要となる。つまり「意味(イメージ)=音」の結びつけを強くするような訓練だ。
これをアプリで簡単に実現できるようにしよう、という思いのもと開発したのが「意味と音」である。このアプリでトレーニングを続ければ、日本語を介在させることなくダイレクトに英語が使えるようになると考えている。

TOEIC満点レベルの1万2000語すべての画像を手作業で選定
そんなアプリ開発の過程で最も苦労したのが、イメージ(画像)の収集・選定作業だ。
「意味と音」の英単語収録数は「1万2000語」。これだけのボリュームとなると、まず画像を集めるだけでも大変な作業だった。当初AIやプログラムで進めようとしたものの、いざ集まった画像を確認してみると、そのクオリティは納得がいかないものだった。
一つひとつの英単語が持つ意味が的確に表現されていて、アプリを使った人が見ただけで強く記憶に残るものにしたい。そんな思いから、画像選定だけで1年以上もの手間・時間と多額のコストをかけた。
収録単語はAppleのような名詞だけでなく、動詞、形容詞、副詞など多岐にわたる。Appleのように比較的簡単なイメージは良いが、例えば「Formerly(以前は)」という英単語のように抽象的な概念を持っている単語には特に苦労した。
当初プログラムが選んだ画像と、実際に人の手で選び直した画像とでは「どちらが記憶に残りやすいか」という点で明白な違いがあったのだ。

また1つの単語で複数の意味を持ち合わせている「多義語」も工夫を凝らした点だ。例えば「Book」のように「本」という意味と「予約する」という意味を持つ単語の場合、1枚の画像で複数の意味を表現することはできない。そのため「1つのカードには1つの意味」のルールを設け、分けて記憶できるようにした。
「英語が生活の一部になる」地点まで連れていきたい
英語ができるようになった、得意になったという人たちはみんな、さまざまな努力をしている。もちろん、英単語を覚えるにあたって「スペルと日本語訳」でがんばって覚えていたという人も多い。だが、いろんな過程を経て英語を使っていく中で、少しずつ頭の中に単語一つひとつに対するイメージができていき、英語を英語のままで、日本語を介することなく使えるようになっていく。
そうしていくうちに、ある地点から英語が勉強でなくなり、好きなことや、興味のある分野の情報を英語で取るなど、英語が生活の一部になっていく。つまり「英語『を』勉強する」のではなく「英語『で』勉強する」に変わっていくのだ。
「意味と音」では、英語上級者が通ってきたこの長い道のりを、理論に基づいた仕掛けで、より効率的に、ダイレクトに可能なものにしたい。
学生さんや受験生に簡単に英単語を覚えてもらいたいし、長年英語学習を続けているが、苦手意識がありどうしても単語が覚えられない。いつまで経っても話せない。でも、諦めきれない。そんな人にも使ってもらいたいと思っている。
当初は教室の生徒さんが「より効率的に英単語を覚えられるように」と始まった、このプロジェクト。中には60代から英語を始めた方もいる。アプリを使いはじめて1カ月半ほどで「周りのものが英語で見えてくるようになりました」という声もいただいている。高齢で記憶力が落ちた、海外に孫がいて海外旅行したいけれど、英語が覚えられないと思っている人にもぜひこのアプリで英語を身近なものにしていただきたい。