
- サボる生徒には「コーチが必要」
- 専用アプリと短尺動画でコーチングを効率化
- 多国展開の鍵は学習動画の“アニメ化”
- アジアのトップ企業は時価総額8800億円、成長する世界のエドテック市場
新型コロナウイルスの感染拡大によりさらに高まる、オンライン教育のニーズ。だが授業をただ非対面にするだけでは、サボる生徒もいる。そこに1対1のコーチングを提供することで、生徒の継続性や学習意欲の向上を図るのが、オンライン学習アプリの「Manabie(マナビー)」だ。運営元のMANABIE INTERNATIONALは4月22日、サッカー選手の本田圭佑氏を含む個人投資家やベンチャーキャピタルを引受先とした約5.2億円の資金調達を発表した。(ダイヤモンド編集部 菊池大介)
サボる生徒には「コーチが必要」
国連によると、4月10日現在、コロナの感染拡大で世界の85パーセント以上の国が全土または一部地域で休校措置を取り、16億人以上の学生たちが学校に通えていない。そのため、非対面で授業を行うオンライン教育が脚光を浴びている。
日本でもオンラインでの授業を開始する学校が出てきている中、中国・韓国など各国の状況をまとめ、日本の教育機関向けに情報発信をしているのがEdTech(エドテック)と呼ばれる教育×IT領域のスタートアップ企業、MANABIE INTERNATIONAL(以下、MANABIE)だ。
MANABIEは、オンライン学習アプリ、そしてオフライン、つまり実際に学習用のスペースを組み合わせたサービス「Manabie」を提供する。日本人が創業しシンガポールに本社を構える同社は、現在ベトナムでサービスを展開。今後は東南アジアを中心に事業を拡大していく予定だ。日本においても、コロナの状況次第だが、学校のオンライン移行をサポートする事業を提供し、「『命』と『教育の継続』の両方を守ることも視野にいれている」(MANABIE代表取締役の本間拓也氏)という。
本間氏は2011年、イギリス・ロンドンでオンライン教育スタートアップ企業Quipper(クイッパー)を共同創業。2015年、リクルートに約48億円で買収された後、日本では「スタディサプリ」、海外では「Quipper」というブランドでサービスを展開している。Quipperでグローバル展開を担当していた本間氏は2014年から2019年、同社のフィリピン・インドネシア支社でカントリーマネージャーを務めた。そして2019年4月、MANABIEを創設した。
本間氏が言うには、Quipperを始めとするエドテック・スタートアップの登場で、より多くの学生たちが教育に(インターネットを介して)アクセスできるようになった。MANABIEで目指すのは、その「アクセス」できるようになった教育をさらに「効率的かつ効果的」にすることだ。
「端的に言うと、オンラインで勉強するのは結構『しんどい』。 3カ月ほどの期間、1人で勉強を継続をできる人は10から20パーセントくらいしかいない」
MANABIEで解決を目指す課題について尋ねると本間氏はそう答えた。10から20パーセントと聞くと低く思えるが、オンライン教育事業社の間では常識なのだという。
「教育にアクセスできる人は増えた。だが、これでは自分で勉強ができる人しか学力が伸びない。今後は『いかに勉強してもらうか』が鍵となってくる」(本間氏)

Manabieにはオンライン授業と演習・模擬試験を提供する「Manabie Basic」、それに加えオンラインで1対1のコーチングとチューターへの質問が可能な「Manabie Prime」、そしてPrimeにオフラインでの学習環境を追加した「Manabie Hub」の3つのプランがある。料金はそれぞれ年額で、Basicは50ドル、Primeは250ドル、Hubは1000ドルだ。
サービスの要となるのは、生徒のモチベーションを上げる「コーチ」の存在だと本間氏は言う。
「生徒に教材を渡して『勉強してね』と言っても、大体はやりきらない。そこで問題を教える人でなく、問題を解くことに伴奏するコーチが重要になる。例えば『今週はこの勉強を頑張ろう』、 といった具合に伴奏してあげることで、(前述の10から20パーセントという数字は)倍以上になる 」(本間氏)
専用アプリと短尺動画でコーチングを効率化
Manabieでは、コーチ向けのアプリを開発し、コンテンツを短尺にすることで1人のコーチが多くの生徒を効率良く担当できる体制にした。コーチは30名ほど所属しており、各自30から40名ほどの生徒を担当する。
コーチにも指導用の専用アプリが用意される。アプリでは、生徒の学習状況や成果が記録・可視化されるため、データに基づいた指導が可能になる。
本間氏によると、コーチ用のアプリでは「この生徒にこのようなアドバイスをしたほうが良い」といった指導のレコメンド機能も提供している。このレコメンド機能はまだ完全なものではないが、今後よりデータが蓄積されることで、精度が更に向上するという。チャットボットを使用した自動化も将来的には可能だが、Manabieでは「生徒はボットよりもコーチからアドバイスを受けるほうが耳を傾ける」(本間氏)と考えている。そのため、今後も指導は人間が行うことを徹底し、サポートするシステムの精度をより高めていく方針だ。
コーチの役割は、あくまで生徒のモチベーションを維持し続けること。「この問題が解けない」など学習内容におけるアドバイスは、コーチとは別にチューターが行う。Manabieでは動画を短尺にすることでチューターの役割を最小限に抑えることに成功している。
従来の学習動画は、本間氏の話だと10から20分程度が一般的だった。だがManabieが提供する動画は2、3分程度と、かなり短い。その理由は2つある。まず、動画が長いと早い段階での離脱率が高くなってしまうため、短くすることで回避した。そして「1つの動画で1つのコンセプトを解説する」ということにこだわったからだ。生徒が学習につまずいた際には、コーチが「それではこの動画を見てみましょう」と提案して、ピンポイントで必要な情報を学ぶことができる。
全ての問題に解説が用意されているため、基本的には「子供が自分だけで学べる」設計になっている。だが、「どうしても分からない」という事態にはチューターが対応する。チューターもコーチ同様に専用のアプリを使い、通知があり次第、生徒からの質問に答える。
本間氏が言うには、生徒がチューターに頼るのは「何を質問して良いかわからない状態」の時だ。「正しい質問ができる場合、ほぼ答えは分かっている」(本間氏)からだ。
チューターは問題の解き方を解説する。深夜などは対応できないため、原則12時間以内、基本的には30分以内に対応する。
多国展開の鍵は学習動画の“アニメ化”
Manabieが提供する動画は、短尺であると同時にアニメーションであるということが特徴的だ。50名ほどの社内チームが制作を担当し、現在では高校生1~3年生を対象にした4教科分、合計1000本ほどの動画が用意されている。
先生が黒板を背景に指導する動画の場合、先生がいる国の言葉で黒板に文字を書くため、言語依存が生じてしまう。だが、コンテンツをアニメ化することで、多国展開を容易にした。同じコンテンツを国ごとに翻訳し、字幕や音声をつけ、さらに各国のカリキュラムに合わせて学習順序を並び替える。
そして国ごとの学習要項に合わせて、必要な内容だけを付け加える。これは黒板を背景にしたいわゆる「先生の解説動画」では困難だった。再撮影が必要となる上、話せる言語は限られているからだ。また、アニメ化することで表現の幅が広がり、複雑な内容でもわかりやすく工夫し解説できるようになった。
アジアのトップ企業は時価総額8800億円、成長する世界のエドテック市場
エドテック分野はアメリカで進んでいる印象が強いが、世界中で強力なプレイヤーたちが台頭してきている。中国のオンライン教育ユニコーンYuanfudao(猿輔導)、ならびにインドの主要プレイヤーByju'sの時価総額は約80億ドル(約8800億円)だ。
MANABIEはまだ強力なプレイヤーが不在のベトナムや、タイ、インドネシアといった国々で主要サービスになることを目指す。そのため、同社は4月22日、エンジェル・シードラウンドでの約5.2億円の資金調達を発表した。
引受先はサッカー選手の本田圭佑氏、『ウェブ進化論』の著者で米シリコンバレーのコンサルティング会社・ミューズ・アソシエイツ・創業者の梅田望夫氏、コーチ・ユナイテッド創業者の有安伸宏氏、ラクスル代表取締役社長CEOの松本恭攝氏、グノシー創業者の福島良典氏、Quipper共同創業者の渡辺雅之氏、コネヒト創業者の大湯俊介氏、 独立系ベンチャーキャピタルのジェネシア・ベンチャーズなど。海外の個人投資家やベンチャーキャピタルも参加している。
本間氏曰く、ベトナム、タイ、インドネシアでは、世帯収入の平均20パーセントが放課後学習市場に回っている。
「 極めて大きく、成熟しきっていないサービスも多い市場であるため、成長機会として魅力的である」(本間氏)
今後はベトナム全域、そして東南アジア全域への展開を進めていく。同時に、日本においてもニーズ次第では学校向けにオンライン化支援の「Manabie School+」を提供する構えだ。Manabie School+では各学校の教材をManabieのプラットフォームに乗せ、ライブ動画などを使うことで、先生がオンラインで生徒を指導できるような環境を整える。
本間氏が言うには、エドテックの第1フェーズではより多くの子供達が教育にアクセスできるようになった。第2フェーズではオンライン教育の効率・効果の向上が要となる。そして来たる第3フェーズでは、勉強だけでなく、学校やコミュニティで学ぶ「社会性」や「協調性」を身につけられることを目指す。学習センターManabie Hubには、生徒が人と接することで習得できるスキルを身につけるためのコミュニティとしての役割がある。
「オンラインでも勉強はできるが、教育はそれだけではないと思う。論理的思考、課題解決力や協調性。そのような能力も伸ばせるサービスにしていきたい」(本間氏)