クイックゲット代表取締役の平塚登馬氏
クイックゲット代表取締役の平塚登馬氏
  • 平均11分で欲しいものが届く“次世代コンビニ”
  • ローンチから約2年で徹底的に研究、直近半年で売上は3倍に
  • 1配送あたりで黒字化を実現、今後3年で200拠点へ

欧米を中心に複数のユニコーン企業が誕生し、この1〜2年で急速に広がりつつある「クイックコマース(即時配達)」。自社で配達特化店舗のダークストアを構えて在庫や配送網を用意し、商圏を絞ることにより注文から最短10分程度で商品が届くのが特徴だ。

日本でも国内発のスタートアップが立ち上がり始めているほか、Zホールディングスもサービスをローンチ。UberやWoltなどグローバル企業も関連するサービスを日本でスタートするなど、市場が拡大しつつある。

2017年設立のクイックゲットも、ダークストアを用いたクイックコマースサービスを展開する1社だ。国内ではかなり早い段階でこの市場に参入し、2019年11月に自社サービス「QuickGet」のベータ版を公開。翌年9月に正式版の提供を始めている。

代表取締役の平塚登馬氏によるとこの2年半ほどは「(クイックコマースのビジネスを)徹底的に科学してきた期間」であり、データを基に配送体験や在庫管理、商品の品揃えなどを改良し続けることで「平均配送時間11分をキープしながら、1配送あたりで黒字化を達成」しているという。

今後クイックゲットではさらなる成長に向けた投資を加速していく計画。現在都内3箇所に構える拠点数を3年で200カ所まで広げる方針だ。そのための資金としてSpiral Capital、マネックスベンチャーズ、ココナラスキルパートナーズおよび個人投資家から3.5億円を調達した。

平均11分で欲しいものが届く“次世代コンビニ”

QuickGetのアプリ画面のイメージ
QuickGetのアプリ画面のイメージ

QuickGetはローンチ当初から「デリバリーに特化したデジタルコンビニ」をうたっているように、コンビニに置いてあるような多様な商品をアプリから手軽に注文できるサービスだ。

弁当やスナック菓子、アイスクリームからジュースやコーヒー、缶ビールまで幅広い食料品を筆頭に、トイレットペーパーやシャンプーといった生活用品、iPhoneの充電器やジェンガなどのパーティーグッズなども手に入る。2021年12月からは新たに生鮮食品の販売も始めた。

冒頭で触れたように渋谷区、港区、目黒区の3箇所にダークストアを構え、周辺のエリアに対象地域を限定することで注文から短時間で商品を届けられる体制を構築。直近の配送時間は平均11分、30分以内の配送率が99%だという。

商品の注文や決済はすべて専用のモバイルアプリから行う。送料は配送距離などに関わらず一律250円。クイックゲットが自社で在庫を抱えているため、安いものであれば実店舗と同等の価格帯で手に入る。

平塚氏によると主なユーザー層は20〜40代が中心で「お得さと利便性を比較した場合に後者をより重視する」傾向にある。具体的にはリアルなコンビニやフードデリバリーサービスを使って買い物をしていた人が多いという。

「実際に『家からわざわざコンビニ行く回数がゼロになりました』という声をいただくこともあります。デリバリーサービスだと30〜40分かかるので、それならQuickGetにしようと考えて使ってくださる方も多いです。反対にお得さを重視されていて、多少時間がかかってでもスーパーで買い物をしていたような人はユーザーになりにくいと感じています」(平塚氏)

クイックコマースサービスの中には生鮮食品を豊富に扱い、ネットスーパーに変わる選択肢として利用されているものもあるが、クイックゲットが狙っているのは“次世代のコンビニ”だ。 一口にクイックコマースと言っても方向性や商品などはサービスごとに異なり、必ずしも利用者層や利用シーンが一致するわけではないと言えるだろう。

ローンチから約2年で徹底的に研究、直近半年で売上は3倍に

クイックゲットはもともと「レキピオ」という社名で2017年にスタートした会社だ。当初は冷蔵庫の中に入っている食材に合ったレシピを提案してくれるアプリを開発していたが、ピボットを決断。30分で欲しいものが届くデジタルコンビニというテーマで、2019年11月にQuickGetのベータ版をローンチしている。

同サービスの開発を始めた当時はグローバルで見てもクイックコマース系のサービスがほとんど存在せず、今のようにクイックコマースやQコマースというジャンルで語られることもなかった。

平塚氏自身もこのマーケットが伸びているから参入したわけではなく、自分自身が欲しいと感じたものを突き詰めていった結果、QuickGetのアイデアに行き着いたのだという。

特にベータ版ローンチからの1年半ほどはやみくもに拠点を広げず、サービスの設計や配送体験、在庫管理の仕組みなどを「徹底的に研究し、科学すること」に時間を費やしてきた。

「日本の都市部にはコンビニやスーパーもたくさんあります。そのような状況の中でもQuickGetの方が良いと思ってもらえるような優れた顧客体験を実現できなければ、サービスとしては成長が難しい。とにかく顧客体験を重要視して、検証を進めてきました」(平塚氏)

ダークストアでのピッキングの様子
ダークストアでのピッキングの様子

クイックコマースの顧客体験に直結する配送体制については、商品の受注からピッキング、配送に至るまでの一連のシステムを自社で開発。データを基にオペレーションを磨き上げ、配送効率を高めるための活動に取り組んでいる。特に初期は平塚氏を含む創業メンバーも配送やピッキングなどを担い、現場の目線からもサービスの改善点を模索し続けた。

現在は約300人ほどの配送員ネットワークを構築し、配送時間を担保したまま拠点を3箇所まで広げている。この半年ほどで売上は約3倍に増加したが「配送員をものすごく増員したわけではなく、再現性を持って持続的な成長を目指せる体制ができている」と平塚氏は話す。

「もともとコンシューマー向けのプロダクトを開発していた時と同じような感覚で、一連のサプライチェーンマネジメントの仕組み自体を1つのプロダクトと見立て、検証と改善を重ねてきました。最初からうまくいったわけではありませんが、この半年ほどで今までの積み重ねが結果にも明確に現れてきています」(平塚氏)

配送員のネットワークはギグワーカーモデルで構築している
配送員のネットワークはギグワーカーモデルで構築している

1配送あたりで黒字化を実現、今後3年で200拠点へ

在庫管理や品揃えについてもベータ版の時からこだわってきたポイントだ。2年以上にわたってサービスを続ける中でデータが蓄積され、需要予測の精度も初期に比べて向上している。弁当など賞味期限がそこまで長くない商品も扱うが「廃棄率は1%程度」だ。

また1バスケットあたりの平均注文単価も2000〜3000円で「コンビニの平均単価が約600円〜700円と言われる中で、徹底したプロダクト開発と顧客体験設計、データドリブンな品揃えによって高い数字を維持できている」(平塚氏)という。

1配送あたりで黒字化できているのも、効果的な配送体制と高い顧客単価を実現できている部分が大きい。

「1配送あたりが赤字の状態だと、配送するほど赤字が膨れ上がっていくことになります。たとえばQRコード決済のようなサービスであれば、トランザクションごとに多大なコストがかかるわけではないので、赤字先行でも良いかもしれません。でもクイックコマースの場合には倉庫のコストやピッキングの人件費、配送コストなどがかかってくるので、同じような考え方では持続的な成長が難しい。(平均配送時間を維持したまま)1配送あたりで黒字化を実現できていることは、大きな価値があると考えています」(平塚氏)

QuickGetで扱う商品。初期からコンビニを意識し、食料品をはじめ日用品など幅広い商品を扱ってきた
QuickGetで扱う商品。初期からコンビニを意識し、食料品をはじめ日用品など幅広い商品を扱ってきた

今回の資金調達は、事業の基盤が整ってきた中でさらなる成長に向けて舵を切るのが目的だ。フルタイムのメンバーを1年で20人から80人規模まで拡大し組織体制を強化するほか、アプリの機能改善やマーケティングにも投資をする。現在3店舗ある拠点も3年で200店舗まで広げていくことを目指す。

「圧倒的な顧客体験の提供に向けて試行錯誤を続けてきた中で、継続率も高く、PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成したという手応えも掴めてきています。これからも引き続き優れた顧客体験の構築に力を入れながら、今後はより多くの人にその体験を提供できるように事業の拡大を目指していきます」(平塚氏)