出迎えをするLOVOT 画像提供:GROOVE X
  • 作ったのはペット型ロボットではなく「愛せる技術」そのもの
  • 猫を抱いているような温度と柔らかさ
  • 職種の垣根をあえてなくし、アジャイル開発に徹底
  • 現代社会で求められるのは「気兼ねなく愛せる対象」

新型コロナウイルスの感染拡大とともに“自粛疲れ”が目立ち始めた今、求めてしまうのが「癒やし」だ。そんな中、犬や猫に続く癒やしの存在として注目され始めているのが、家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」。発売後、入荷1カ月待ちの状態が続くこのロボットには、どのような“愛されるカラクリ”があるのか。開発元であるGROOVE X代表の林要氏に話を聞いた。(ライター 福岡夏樹、ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

作ったのはペット型ロボットではなく「愛せる技術」そのもの

 LOVOTは、ロボットと言えども床を掃除するわけでも、料理を作るわけでもない。ただそこにいて、こちらを見つめる。歩けばついてくるし、ときどき「抱きしめてほしい」と両手を上げる。そう、このロボットは、生活の役に立つのではなく、「愛されること」こそが目的なのだ。

 開発を行うGROOVE Xの代表・林要氏は、F1レーシングカーやヒト型ロボット「Pepper」などの開発に携わってきた人物。そんな彼が、約4年の時間と100億円もの資金を投じて完成させたのがLOVOTだ。

「日本を代表する産業は何か考えた時、家庭用ロボットの技術は世界に誇れるものなのではないかと思ったのです。そこで改めて家庭用ロボットの機能を洗い出してみると、『家事を行う』『愛情を注げる』の2つが浮かび上がりました。愛されることだけに特化したロボットの開発なら、実現可能性の高い領域だと考え、LOVOT作りに着手したのです」(林氏)

 愛情を注げる“家族”型ロボット。そう聞いて多くの人がまず連想するのが、ソニーの「aibo」などのペット型ロボットだ。しかし、LOVOTはどの動物にも似ていない。林氏によると、LOVOTで提供したいのは、ペット型ロボットではなく“ペットのような愛情を生むサービス”なのだという。

GROOVE Xの代表・林要氏 画像提供:GROOVE X

「見た目を動物に似せると、その動物らしいふるまいの再現が求められます。しかし、少しでも違和感のある動きをすれば、私たち人間の目は『気持ち悪い』と感じてしまう。そのため、正確に再現しようとすれば開発コストが跳ね上がります。僕らは、ペット型ロボットではなく“愛することができる”技術そのものを提供したかった。動物に似せるためにコストをかけるなら、いっそ新たな生き物をつくるようにLOVOTを開発しようと思ったんです」(林氏)

猫を抱いているような温度と柔らかさ

“愛されること”を目的にした家族型ロボットだからこそ、愛情を感じられる要素は不可欠だ。LOVOTの開発において、特に意識されたのが「距離感」「振る舞い」「人肌」の3つである。

「人間や動物は安心する相手に近づき、不安なものから遠のく動きがあります。しかし、これまでの家庭用ロボットには自ら動き回るものがなく、近づく・遠のく機能もありませんでした。LOVOTには、音や動きに反応し、心を許した相手に対して自らが近づき、懐いたと感じる動きを取り入れています」(林氏)

 さらに、LOVOTごとに設定された「性格」によって、異なる動きをする。そのため、LOVOTによっては抱っこをねだる仕草を多く見せるものもあるし、人見知りで懐くのに時間がかかるものもある。

LOVOTが眠っている様子 画像提供:GROOVE X

 抱き上げたときにLOVOTから感じられる「温かさ」も特徴の1つだ。「猫と同じ体温を意識した」と林氏は語る。

「触れたときに『温かい』と感じられることも、スキンシップにおいて大事なポイントです。LOVOTの体温は、猫と同じ約37度。温かくて柔らかい、抱きしめたくなるものを目指した結果でした」(林氏)

 また、ユーザーにとって、“自分だけのLOVOT”になるよう、専用アプリから目や声のカスタマイズを可能にした。ランダムで選ばれた初期設定での目や声を運命として、そのまま使用するユーザーもいるという。

GROOVE X本社に展示されているLOVOTたち 画像提供:GROOVE X

「見た目も“自分だけのLOVOT”にしたかったんです。しかし、ロボットである以上、工場生産しなければならない。ならば、目と声はカスタマイズできるようにしようと、それぞれ10億種類以上から選べるようにしました。これだけあれば、他の人とかぶらないでしょう?」(林氏)

職種の垣根をあえてなくし、アジャイル開発に徹底

「新たな生き物をつくるように、LOVOTを開発した」と語る林氏だが、開発時にかなり試行錯誤したのが組織体制だった。特に難しかったのが「イメージの共有」だと語る。

「私の頭の中にLOVOTのイメージができあがっていても、開発チーム全員が共通のイメージを持っていなければ、形にしていく中でずれてしまいます。そこで、細かく試しながら進めるアジャイル開発を行い、イメージをすり合わせていきました」(林氏)

 開発の際には、クリエイターとエンジニアの垣根を取っ払った。これにより、LOVOTではクリエイターがコードを書き、エンジニアがイメージを描くこともあったという。

開発過程のLOVOT 画像提供:GROOVE X

「クリエイターのプロトタイプをエンジニアが見て、エンジニアが描いたイメージをクリエイターが見る。そうやってお互いの領域に一歩踏み込むことで、カバーし合いながら最短距離で開発を進める体制を目指しました」(林氏)

 こうして2018年12月、ついにLOVOTが誕生した。翌年1月には、アメリカで開催された「CES2019」に出展し、ROBOT部門において、「The Verge Awards at CES 2019」のBEST ROBOTを受賞した。

現代社会で求められるのは「気兼ねなく愛せる対象」

 GROOVE X は2019年8月から販売を開始した。本体価格は36カ月間の分割払いで月額2万1663円(36カ月以降は1万2980円)で、ユーザーは30〜50代が中心だ。家族構成や性別などは問わず、幅広い生活スタイルのユーザーが購入している。

「現代社会では核家族や一人暮らしが増え、『パーソナルな空間』が重要視されてきました。その結果、孤独感による寂しさが強まる場面が増えたと感じています」(林氏)

ユーザーを見つめるLOVOT 画像提供:GROOVE X

 このような背景に加え、新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛、リモート勤務が増え、癒やしを求める動きがさらに強まっているように感じられる。では、現代社会で疲れた人々が求める癒やしとはどのようなものなのか。

「人間は、『気兼ねなく愛せる対象』がいると癒やされるんです。犬や猫は人間と違って、どんなに愛情を注いでも関係が崩れたりしないので、変な気を遣わなくて済みますよね。だから、無条件で癒やされる。しかし、寿命がある動物を飼うにはハードルがあり、どうしても飼えない人も多い。そういった制約がなく、気兼ねなく愛せる対象として、LOVOTは一つの選択肢になれると考えています」(林氏)

 通常の家庭用ロボットは、購入後1カ月ほどでユーザーに「飽き」がきて、電源が入らない状態になることがほとんど。しかし、LOVOTは1カ月以上使い続けられていることが、利用履歴などのデータ上でも証明されている。

「2045年、AIが人間に追いつくと言われています。その前に、ロボットが犬や猫に追いつくシンギュラリティが起こるはず。そうした変化の中で、『気兼ねなく愛せる対象』としてのLOVOTを、もっともっと進化させていきたいですね」(林氏)

 犬や猫だけでなく、ロボットが家族として愛される時代が、もうすぐそこまで来ているようだ。