メディフォンで代表取締役を務める澤田真弓氏
メディフォンで代表取締役を務める澤田真弓氏。撮影 : 遠藤素子
  • 独自の通訳者ネットワークで31言語に対応、8万7000機関で利用可能なサービスに
  • 11億円調達で健康管理SaaSの成長加速へ

医療機関や自治体などへ“医療通訳サービス”を展開するメディフォンが事業を拡大している。

同社の主力サービス「mediPhone」は遠隔にいる医療通訳者をマッチングする仕組みと機械翻訳システムを組み合わせたものだ。登録医療翻訳者の数は300名を超えており、英語や中国語を始め31言語に対応する。特にコロナ禍において在住外国人の対応ニーズが顕在化し、医療機関を中心に自治体や法人への導入が加速。現在mediPhoneを利用できる機関数は約8万7000カ所まで増えており、2019年と比べて106倍以上に広がっている。

2021年10月からは予防医療領域の新事業として、法人向けの健康管理SaaS「mediment(メディメント)」の提供も始めた。

今後メディフォンでは、これら2つの事業を軸にさらなる成長を目指していく計画。そのための資金として東京大学共創プラットフォーム開発、ファストトラックイニシアティブ、Sony Innovation Fund、ケップルを引受先とした第三者割当増資と金融機関からの融資を合わせて総額約11億円を調達した。

独自の通訳者ネットワークで31言語に対応、8万7000機関で利用可能なサービスに

メディフォンで代表取締役を務める澤田真弓氏はGoogle出身の起業家だ。在職中にボランティアとして医療業界に関わり始めたことが、医療通訳サービスを立ち上げるきっかけにもなった。

当時、澤田氏が直面したのが「外国人患者への医療」における課題だ。NPOや自治体が医療通訳者を現場に派遣して外国人患者に対応することも多いが、通訳者のほとんどはボランティアとして活動しているケースがほとんどだった。

需要が増え、言語の幅も広がっていくと既存の仕組みだけでは継続するのが難しくなる。「持続的な仕組みが必要」だと考え、2014年にmediPhoneを立ち上げた。当初は一般社団法人の一事業としてスタートしたが、2018年に事業を譲受しメディフォンとして法人化している。

利用イメージ。電話通訳やビデオ通訳を通じて、遠隔にいる通訳者が医師と患者のコミュニケーションをサポートする
利用イメージ。電話通訳やビデオ通訳を通じて、遠隔にいる通訳者が医師と患者のコミュニケーションをサポートする

強みは数年にわたって培ってきた医療通訳者のネットワークだ。同じようなサービス自体は存在するものの、基本的には通訳の部分はコールセンターにアウトソースし、プロダクト部分だけを開発しているケースが多い。一方でメディフォンでは自社で通訳者を選抜し、個別で育成もする。登録している通訳者は医療機関での職務経験者か医療通訳の資格保持者で、海外で医師や看護師として働いていた経験を持つ人も多い。

電話医療通訳の場合は31言語に対応しており、ベトナム語やポルトガル語、インドネシア語、ヒンディー語など幅広い言語のニーズに応える。需要の多い英語や中国語などに関しては24時間対応できる体制も構築した。

もともとは訪日外国人が増えることも見越してサービスを開発。これまでは外国人の患者が多い全国の基幹病院を中心にサービスを提供していたが、コロナ禍で需要が広がり診療所やクリニック、自治体などでも使われるケースが増えてきた。

また1つの転換点となったのが、2020年4月に日本医師会の会員向けサービスとして導入されたこと。具体的には日本医師会医師賠償責任保険の付帯サービスとして約8万3000人の日本医師会A1会員を対象に電話医療通訳と機械翻訳の仕組みを提供するというもので、これで一気に面を抑えることにつながった。

11億円調達で健康管理SaaSの成長加速へ

mediPhoneの収益モデルは主に定額のサービス料と、利用が一定量を超えた場合の追加利用料(従量課金)から構成される。事業としては基盤が整っており、すでに黒字化を達成している状況だが、その中でエクイティでの調達に踏み切ったのは昨年ローンチしたmedimentの成長速度をさらに加速させることが目的だ。

メディフォンがmedimentを開発したのは、医療機関に加えて企業や大学から産業医面談での通訳の手段としてmediPhoneの引き合いが増えたことの影響が大きい。その際に企業の予防医療の現場を見ると、健診結果などの情報が“紙”で管理されており、人事や総務担当者の負担になっていた。medimentはそのような業務をデジタル化することで、担当者の負荷を軽減すると同時に企業の健康経営を後押しするサービスだ。

この領域はNTTデータやウェルネス・コミュニケーションズ、iCAREなど、すでに複数のプレーヤーが存在するものの、外国人の従業員が多い企業を中心に顧客を増やしており、導入企業数は数十社にのぼる。

今後は2つの事業に投資をしながら、母国語に関係なく必要な時に納得して医療を受けられる「医療インフラ」の実現を目指す。