
- なぜ注目? ヌーラボのユニークなポイント
- 2017年まで経常利益ベースで黒字だったヌーラボ
- これまでの資金調達と上場時の公募と売出しについて分析
- 今後のヌーラボの展開を読み解く「3つのポイント」
IT業界を中心にM&Aの仲介やアドバイザリーを展開しているM&A BASE代表取締役の廣川航氏が直近のM&Aや新規上場承認された企業のビジネスを分析していきます。今回はヌーラボについての分析です。
新規上場した注目企業の分析の第2回目は、プロジェクト管理ツールの「Backlog」やID管理ツールの「Nulab Pass」などを提供するヌーラボです。
なお、ヌーラボに私が代表を務めているM&A BASEの親会社・XTechのグループ会社であるXTech Venturesが出資していますが、私は一切の情報共有を受けていないことを初めに開示しておきます。
ヌーラボの上場を分析する際のポイント!
- 初期は受託開発からスタートし、現在はSaaS企業になっていること
- 複数のコラボレーションサービスを提供していること
- サービスがとても愛されていること
- 本拠地が東京ではなく福岡、かつ海外に拠点があること
- 黒字であること
- スタートアップとしては珍しく社員持株会制度を行っていること
なぜ注目? ヌーラボのユニークなポイント
ヌーラボは、プロジェクト管理ツール「Backlog(バックログ)」や、オンライン作図・共有サービス「Cacoo(カクー)」、ビジネスチャットツール「Typetalk(タイプトーク)」、ID管理ツール「Nulab Pass(ヌーラボパス)」の4つのコラボレーションツールを提供しています。
コラボレーションツールは、海外でもとても盛り上がっている領域です。SaaSのユニコーン企業の中でも時価総額100億ドル以上の企業としてはグラフィックデザインツールのCanvaやオンラインホワイトボードのMiro、UIデザインツールのFigma、情報管理ツールのNotion Labsなどがあります。

まず、ヌーラボのメインサービスであるBacklogは、いわゆる「プロジェクト管理ツール」に分類される製品です。プロジェクト管理ツールは近年そのニーズが拡大しており、BtoB商材のマッチングプラットフォーム「ITトレンド」の公開したデータでも、「売上が増大したカテゴリー」として上位に入っています。同じ領域に入る製品としては、海外では「monday.com」「Asana」「Notion」、日本ではPR TIMESが提供する「Jooto」などがあります。

また、海外ユーザーの比率が高いビジュアルコラボレーションツールのCacooは「Canva」「Miro」「Prott」、ビジネスチャットサービスのTypetalkは「Slack」「Chatwork」、ID管理ツールのNulab Passは「HENNGE One」などが競合サービスとして比較対象になるかと思います。
日本では複数のSaaSを提供している会社は少ないため、時価総額が高かったり、マルチプル(企業価値評価の際に使う倍率)が高かったりするのは、複数のSaaSを提供する企業の特徴のひとつとも言われています。実際、日本の時価総額で上位のSaaSを見ると、ラクス、freee、マネーフォワード、Sansan、プラスアルファ・コンサルティングのように、成長率が高いこともさることながら、複数のSaaSを提供しているという特徴があります。
ヌーラボはこれらのSaaSを、通常のSaaSのように営業部署を抱えて販売したり、比較メディア経由で販売するのではなく、リファラル経由で導入を進めているのが特徴です。いわゆる、PLG(プロダクト・レッド・グロース、製品主体の成長)と呼ばれる戦略です。ヌーラボが上場承認された際の私のツイートにも、比較的サービスへの好意的なコメントが多かったですし、SaaSの比較メディアにおける口コミも評価が高いように思えました。

また、海外にも拠点をもっているのも特徴と言えるでしょう。2013年にシンガポール、2014年にアメリカのニューヨーク、2017年にオランダのアムステルダムに拠点を置いています。未上場の段階での海外展開としては、ウォンテッドリーとビザスクがシンガポール、メルカリがアメリカとイギリス、スマートニュースがアメリカと中国、グッドパッチがドイツにそれぞれ進出していたものの、日米欧亜に拠点がある企業はあまり多くないように思います。
2017年まで経常利益ベースで黒字だったヌーラボ
業績を見ると売上は成長しており、2017年まで経常利益ベースで黒字だったというのは驚きです。2017年は売上が落ちているように見えますが、これは6カ月決算のためであり、その後はしっかり成長しています。

続いてサービスの売上構成です。主力のサービスであるBacklogで年間20%の成長をしながら、他のサービスもしっかり伸ばしています。

これまでの資金調達と上場時の公募と売出しについて分析
これまでの資金調達についても見ていきましょう。2004年に設立して以来、長らく自己資本で展開していましたが、2017年6月に初めてイーストベンチャーズから約1億円の調達をして以来、外部株主から2回調達しています。
スタートアップの場合、従業員には個人へのストックオプションや信託型ストックオプションを発行することが多いですが、ヌーラボでは、個人へのストックオプションだけでなく、従業員持株会を設立し、増資を引き受けています。


続いて、上場までの株主構成についてです。創業者の2人(橋本正徳氏、田端辰輔氏)がほぼ同じ株式数を保有しており、保有株式比率で見れば約54%と過半数を超えています。VCの筆頭株主はCAMPFIRE代表の家入一真氏と梶谷亮介氏の2人がパートナーのNOWが運営するFounder Foundry1号投資事業有限責任組合。家入氏とヌーラボの橋本氏は同じ福岡県出身です。

上場時のマルチプルも見ていきます。想定価格ベースでのPSRは5.9倍でしたが、公開ベースでは2.8倍になっています。One CapitalのSaaS企業のインデックスであるOne Capital Cloud IndexによるとSaaS市場全体で6.4倍、2019年に上場したチャットワークが3.1倍となっており、これらと比較して少し数字として物足りなさを感じました。

今回の公募と売出しについてです。ヌーラボ共同創業者のひとりである縣俊貴氏の弟・縣将貴氏(ADlive代表取締役)の資産管理会社・アリオトがメインで株式を売却し、創業者の方々も一部売却しています。一方で親引け(引受証券会社が新株発行会社が指定する先へ株券等を売りつけること)をヌーラボ従業員持株会が引受けます。販売先は26%程度が海外で、発行済株式数全体の8%となっています。

今後のヌーラボの展開を読み解く「3つのポイント」

最後に、今後の展開について見ていきます。成長可能性の資料にもある通りですが、個人的に注目していることが3つあります。
1つ目は、大企業向けの販売の販売強化の施策についてです。基本的に営業体制を構築することになると思います。直近ではBASEも、20人体制のアウトバウンド営業部隊を構築するとIRで説明していて、ひとつの参考になるのではないかと思いますが、どのように構築していくかは注目のポイントです。
2つ目は、複数のSaaSを同時に成長させることについてです。日本で複数のSaaSを展開している企業は、freeeやマネーフォワードのようにブランドを統一している場合と、ラクスやプラスアルファ・コンサルティングのようにブランドを統一していない場合があります。ヌーラボの場合、ブランドを統一せずに各サービスごとに伸ばしており、投資が分散してしまうようにも見えるものの、次の柱をどこに置いて成長させていくのか、関心があります。

3つ目は、海外への展開です。コラボレーションツールは他のバックオフィスやマーケティングのSaaSと比較して、海外製が多い印象ですが、逆に言うとグローバルな展開がしやすいのではないかという仮説があります。実際、Cacooは報道を見る限り海外比率が高く、すでに海外に拠点も持っているので、今後の海外への展開も期待したいところです。