アレスグッド代表取締役CEOの勝見仁泰氏。23歳のZ世代起業家だ
アレスグッド代表取締役CEOの勝見仁泰氏。自身も23歳のZ世代起業家だ
  • 目指すは「社会課題版のLinkedIn」
  • 月額15万円でも上場企業など40社が使う理由
  • 自身が就活生時代に感じた課題を解決、資金調達踏まえ事業拡大へ

業界や職種ではなく、「社会課題の解決に力を入れているかどうか」で就職先を選びたい──そのようなZ世代の就活生のニーズに応えるサービスが、一部で広がり始めている。

サービス名は「エシカル就活」。気候変動や地方創生など各社が取り組んでいる社会課題を軸に、情報収集や企業選びができる就活プラットフォームだ。2021年5月のローンチから約1年で掲載企業は約40社、登録ユーザー数は3000名を超えた。

エシカル就活を運営するアレスグッド代表取締役CEOの勝見仁泰氏は23歳の学生起業家。まさに自身が就職活動をする中で「こんなサービスが欲しい」と考え、起業に至ったという。

目指すは「社会課題版のLinkedIn」

「既存の就活サイトの多くは、最初に金融やコンサルティングファームといったように志望する業界を問われます。でも自分自身はどのような社会課題の解決に取り組んでいるかの方により興味がありました」

「Z世代ではSDGsに対する関心が高まっており、その軸で企業選びをしたいという学生は増えていますが、既存のサービスでは出てくる情報が限られています。自分自身も就活生として課題を感じていたので、それを解決するサービスを作りました」

勝見氏はエシカル就活を立ち上げた背景についてこう話す。目指している世界観は「社会課題版のLinkedIn」だ。

サービスの特徴は業界や職種ではなく、社会課題を軸に企業の情報を収集できること。たとえば「気候変動」のカテゴリを選択すると気候変動に関連する取り組みをしている企業のみが表示される。各社のページでは具体的な事業内容やミッションのほか、そこで働く現場の社員の声などがまとめられており、気になる企業があれば直接エントリーすることも可能だ。

またエシカル就活には企業側から学生にアプローチする手段も用意されている。学生側と同様、企業側も「医療」など特定のテーマに関心を持つ学生を検索し、自社に合いそうな候補者がいれば直接スカウトできる仕組みだ。

構造的には比較的シンプルな人材サービスではあるが、ユニークな点が「企業側にサステナビリティレポートの提出を義務化した上で、アレスグッドが独自の基準で評価をしていること」だろう。

近年SDGsに力を入れる企業は増えているものの、就活生の目線では「一部では広報合戦のようになっていて、サステナビリティの取り組みを一元的に見れない」(勝見氏)という課題があった。そこでエシカル就活ではサステナビリティに関する情報を開示している企業に限定してサイトに掲載している。掲載までには担当者との面談も設定する徹底ぶりだ。

月額15万円でも上場企業など40社が使う理由

エシカル就活のビジネスモデルは企業からの月額15万円のサービス利用料だ。すでにダイキン工業、丸井グループ、POLA、キリンHD、ユーグレナ、パーソルキャリアなどさまざまな業界の上場企業が同サービスを有料で活用している。

「市場の変化として、企業側がサステナビリティを実装できる人材をかなり求めるようになってきています。たとえば数十年前であればエクセルやワードが得意な人材が重宝され、今ではそれが当たり前になっています。同じように、今はサステナビリティへの関心や理解度が高い『SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)人材』へのニーズが高まっているんです」(勝見氏)

サステナビリティレポートを用意し、月額15万円の利用料を支払ってまで企業がエシカル就活を活用するのはなぜか。それは「圧倒的に優秀な人材のデータベースにアクセスできるから」だと勝見氏は説明する。

同サービスの3000名以上の登録者のうち、50%以上は東京一工や早慶上理、ICUといったいわゆる難関大学に所属する学生たち。また留学や長期インターンの経験者が約70%を占め、学生時代に社会課題の解決に向け、何らかのアプローチで挑戦しているユーザーも多い。

勝見氏によるとこれまで学生集客のために広告は出しておらず、既存ユーザーからの口コミで学生が集まってきているそう。興味深い流入経路としては、SDGsに関連するような学部の教授からの紹介で学生がエシカル就活にたどり着くケースも少なくないという。

「サステナビリティや国際開発に関連する学部の教授としては、できれば教え子にも同じような領域で頑張って欲しいという思いがあります。でも今まで(の就活サイトや就活の枠組み)はそれがなかなか見つからないという課題がありました。だからこそ、前向きにエシカル就活を推薦してくれるような流れも生まれているんです」(勝見氏)

自身が就活生時代に感じた課題を解決、資金調達踏まえ事業拡大へ

勝見氏が社会問題に関心を持つようになったきっかけは、17歳の時にバックパッカーとして東南アジアで途上国の貧困問題など目の当たりにしたこと。実家が八百屋で「もともと商いのマインドセットがあったため、ソーシャルイシューをビジネスで解決したい」と考えるようになったという。

大学時代には文部科学省の留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN」を通じてドイツにわたり、現地で途上国の特産品を活用した有機化粧品のD2C事業に挑戦したが、最終的には断念。日本に帰国してからはパタゴニアの日本支社やビズリーチなど複数社でインターンを経験した。

勝見氏にとって1つの転機となったのが就職活動だ。上述したように社会課題解決を軸に企業を探したいと考えたが、既存の就活サイトではなかなか求めている情報にたどり着けずに苦しんだ。周囲の友人に相談してみたところ、同じような軸で企業選びをしたいと考えている学生が一定数存在することもわかった。

そこで試しに社会課題に取り組む企業と学生をマッチングするイベントを実施してみたところ、約150人の学生が参加。実際にイベントをきっかけに内定者も生まれ、「(企業と学生双方にとって)確実にニーズがある」と手応えをつかんだ勝見氏は会社を立ち上げ、エシカル就活の開発を始めた。

まだローンチから1年のサービスではあるものの、すでにおもしろい効果も生まれ始めている。ある業界で就活生の人気ランキング1位と2位の企業双方から内定を得た学生が、「サステナビリティに力を入れていること」を理由にランキング2位の会社を選んだ。

実は約10年にわたって、両社から内定をもらったのに1位の会社を選ばなかった学生はいなかったのだそう。それが前例を覆す事態が起きたため、その理由を聞いた1位の会社の人事本部長から「エシカル就活に掲載したい」と連絡が届いたのだという。

「これが自分たちが今後起こしていきたい産業界のSXです。すでにサステナビリティを起点に、求職者が意思決定をする時代がきている。それを支援するようなサービスにしていきたいと考えています」(勝見氏)

アレスグッドでは7月5日にサイバーエージェント・キャピタル、East Ventures、丸井グループより1.2億円の資金調達を実施した。今後は社会課題版のLinkedInの実現に向けて事業を拡大していく方針。勝見氏自身は来年にも米国にわたり、エシカル就活と同様のコンセプトを持ったグローバルプロダクトの立ち上げも予定しているという。

中長期的には「産業界のSXを加速させる」ことをテーマに、HRの領域だけにとどまらず“総合的なサステナビリティのプラットフォーマー”として事業を広げていく計画だ。