
- 自分で作って確信した「アプリ」によるスマホ革命
- アパレル企業のマーケティングで手応え
- PCメーカーに大学、広がるアプリニーズ
- 5Gで、アプリ市場はさらに拡大
プログラミングなし、ブラウザ上の操作だけでスマートフォンアプリを開発できる「Yappli(ヤプリ)」。その提供元であるヤプリが総額30億円の資金調達を発表した。会社員3名が余暇を利用して作ったサービスが、今では導入企業300社、アプリ総ダウンロード数3500万件にまで成長した。創業から6年の軌跡と、今後の展開についてヤプリ代表取締役の庵原保文氏に聞いた。(ダイヤモンド編集部・塙 花梨)
スマートフォン向けアプリの市場はまだまだ拡大している。米アプリ調査会社App Annieの発表によれば、2018年のアプリ総ダウンロード数は全世界で1940億件と、2年前に比べて35%増加している。アップルのApp StoreやグーグルのGoogle Playストアといったアプリストアの消費支出額は1010億ドルで、75%増加した。
拡大を続けるアプリ市場に挑戦するスタートアップがヤプリだ。同社は、プログラミングを必要とせず、ウェブブラウザ上のドラッグ&ドロップ操作でアプリを開発できる月額制のクラウドサービス「Yappli(ヤプリ)」を提供している。
ヤプリは6月17日、総額30億円(追加投資枠含む)の資金調達を実施したことを発表した。内訳は、Eight Roads Ventures Japan、SMBCベンチャーキャピタルのほか、既存株主であるグロービス・キャピタル・パートナーズ、YJキャピタルを引受先とした約22億円の第三者割当増資と、みずほ銀行、りそな銀行、日本政策金融公庫からのデットファイナンスで約8.5億円。
ヤプリはこれまでに、米セールスフォース・ドットコム、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、ディー・エヌ・エー共同創業者でエンジェル投資家の川田尚吾氏らからも資金調達を実施しており、累計調達総額は約40億円となっている。
自分で作って確信した「アプリ」によるスマホ革命
App Storeが始まったばかりの2010年、当時ヤフーの社員だった庵原氏は、同僚でのちにヤプリ取締役CTOとなる佐野将史氏と、趣味でスノーボードのハウツーアプリを制作した。アプリは、モーションセンサーを使うことで、画面を横に傾けるだけで動画を再生するというもの。スキー場でリフトに乗りながら視聴する際も、グローブを外さずに動画が楽しめるための仕掛けだった。
「完成したアプリを見たとき、“ネットとフィジカルが融合する新しい時代がくる”と直感しました。スマホによる革命を、アプリが牽引すると確信したんです。のちに一世を風靡した、AR(拡張現実)を使った『ポケモンGO』やGPSを使った『Uber』は、アプリが起こした革命の最たるものだと思います」(庵原氏)
アプリの経済圏が広がるのであれば、その開発ニーズも高まる。複雑なプログラミングをしなくてもアプリを開発できる環境を提供することが、ビジネスになるのではないか。そう考えた庵原氏は、佐野氏と、同じく同僚だった(現ヤプリ取締役の)黒田真澄氏に声をかけた。2011年から、終業後のプロジェクトとしてヤプリの開発を開始した。会社員と並行しての開発は想像以上に困難を極め、丸2年かけてプロダクトを完成させると同時に、2013年4月にヤプリを創業した。

「(アプリを)簡単に作れるだけではダメで、根底にあるユーザーの課題感に寄り添わなければいけなかったんです」(庵原氏) リリース当初にユーザーとして想定していたのは、個人事業主や中小企業だ。低価格で提供することで、エンジニアがいない会社のアプリ開発ニーズを捉えようとした。しかし、オンラインでの販売のみだったこともあり導入数は少なく、思うように売り上げが伸びない日々が続いた。
創業からおよそ2年で、セールス対象をECで課題を持つような法人に切り替えた。さらに、オンライン販売だけに頼った受け身な営業体制を一新し、庵原氏自ら法人へのセールスを開始した。
アパレル企業のマーケティングで手応え
積極的に法人営業を開始して最初に導入が決まったのは、アダストリアやバロックジャパンなどの大手アパレルメーカーだった。アパレルメーカーはこれまで、ファッションブランドごとにECサイトを運営していたが、ヤプリを使って自社アプリを開発することで、アプリからECサイトで商品を購入するまでの導線ができる。アプリのプッシュ通知やクーポン機能などを利用すれば、ブランドのファンとの接点が増えてロイヤリティも格段にあがる。
庵原氏は営業を通して直接ユーザーの要望に耳を傾け、スタンプカード機能やGPSによる店舗サーチなど、役立つマーケティング機能の開発を優先して進めていった。
「(アプリを開発する)“ツール”だったヤプリは、マーケティングの課題を解決する“ソリューション”に変わっていきました」(庵原氏)
集客経路としてのアプリの効果は高く、今ではECサイト全体の売上の50%がアプリ経由となっているブランドもある。導入後の平均解約率は1%を切っているという。
アパレルメーカーでの導入で鉱脈を見つけ、小売り・流通業界で導入が進んだ。法人営業を開始して約半年で、従来のオンライン販売の売上を抜き、今ではザ・ノース・フェイスやケイト・スペード ニューヨークなどの著名ブランドもヤプリでアプリを開発している。2019年5月時点の導入企業は300社以上で、ヤプリで開発されたアプリの累計ダウンロード数は3500万件を突破した。
PCメーカーに大学、広がるアプリニーズ

「企業のアプリ開発ニーズが高まり、当初は想定していなかった場面でアプリを活用することも増えています。」(庵原氏) 最近では、小売り・流通業界以外のニーズも広がっている。例えば、NECは自社で運営するポータルサイトをアプリ化した。当初は自社開発を試みたが、想像以上に費用も工数もかかってしまう。ヤプリはアプリを開発できるだけでなく、App Storeの審査やバージョン管理の申請も代行している。開発から運用の機能までが定額で利用できるのが決め手になった。
企業以外では、青山学院大学がスマホを持つ学生向けのアプリを開発した。これまで、校内の掲示板やメールで告知していた学校行事や休講情報に素早くアクセスできるだけでなく、急な告知をプッシュ通知で学生に届けられるようになった。
ヤプリでは個別のカスタマイズは受け付けていない。そのため“フルオーダー”でのアプリ開発を求める大手企業などを除き、ほとんどの企業がターゲットになる。現在、アパレルブランドで約100件の導入実績があるが、アパレルECサイト大手の「ZOZOTOWN」だけでもおよそ2000~3000件の提携ブランドがあることを考えれば、潜在的なユーザーはまだまだいるはずだ。
「機能をより充実させることで、既存ユーザーの解約を抑えつつ、新規ユーザーを増やして、事業を拡大させていきたいです」(庵原氏)
5Gで、アプリ市場はさらに拡大
ヤプリの売上高は非公開だが、前年比で2倍に成長している。ただし、現時点では投資フェーズであり、公告によると2018年3月期の決算では7500万円の赤字を計上している。3名でスタートした会社も従業員150名にまで成長した。
同社では今回調達した30億円を活用して、新機能の開発や人材採用へ、さらなる投資を進めるとしている。また、テレビCMなども含めたブランディングやマーケティングにも注力し、未開拓のユーザーとの接点を作っていく。
「スマホに次ぐデバイスが現れない限り、当面アプリの需要は続くと思います。今後センサー機能などデバイスの性能が向上していけば、それにともないアプリも進化していくはずです。何より、5Gの普及や通信技術の発達によって、今後アプリをダウンロードするコストが下がれば、アプリを使うハードルも低くなるでしょう。もっとアプリビジネスが拡大する予感があり、楽しみで仕方ありません」(庵原氏)