
- 中国のライブ配信サービスを参考に「SHOWROOM」を考案
- 「利己」から「利他」へ
- 変化する消費者の「価値観」
- 「利他が強い」と確信した理由
夢を叶えるライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」の代表取締役社長・前田裕二氏。SHOWROOMではライブ配信をする演者に対して、視聴者が有料アイテムで直接応援する「支援モデル」をとり、当初はうまくいくはずがないという声があった中でビジネスを伸ばしています。なぜ支援モデルが支持されたのかという背景を探りながら、ミレニアル世代ならではの経営視点を探りました。(編集注:本記事は2020年3月6日にAgenda noteで掲載された記事の転載です。登場人物の肩書きや紹介するサービスの情報は当時の内容となります)
中国のライブ配信サービスを参考に「SHOWROOM」を考案
徳力 前田さんは1987年生まれですよね。この世代はちょうど大学に入った頃にSNSが普及し始めたこともあって、インターネット上のつながりを大事にしている世代(筑波大学准教授の落合陽一氏、READYFOR・CEO米良はるか氏など)で、インターネットを仕事で使い始めた私たちの世代とは、異なる視点の話が聞けるのではないかと思っています。
そもそもSHOWROOMは共感価値を重視し、ユーザーが演者に直接支援するモデルをとっていますよね。前田さんの著書にはストリートミュージシャンをしていた経験が元になったと書かれていましたが、そうは言ってもスタートした当社は誰もが「直接支援なんて、うまくいくはずがない」と言っていたのではないかと思います。
前田 そうですね。むしろ「見てろよ!」と、モチベーションになるくらいに、たくさん言われました(笑)。
徳力 ですよね。それなのに、なぜうまくいくと思われたんですか。
前田 これは本当に、直感でした。僕はどちらかといえば右脳型で、それまでもまず直感で浮かんだことに左脳で肉付けして、人を巻き込む方法をとってきました。当時、これは絶対にいけると思ったのは、ひとつは自分が弾き語りしていたときの嬉しそうなお客さんの顔を思い出したから。もうひとつは、すでに中国で直接ギフティングをするシステムが盛り上がっていた、ということもありました。
徳力 ライブ配信は世界的に見ても、中国が先行していますよね。

前田 そうですね。中国のライブ配信の市場規模は早々に5000億~6000億円、MAUでも3億人の規模を超えてきていました。そのインサイトを深掘りすると、演者と支援者に共通して「承認されたい」という思いが見えてきました。
その「承認」という本質に目を向けると、InstagramやFacebook、Twitterの延長線上にライブ配信があるのだと思います。誰でも気軽にステージに立てて「有料のいいね」をもらえる。発信側も満たされるし、課金側もバーチャル世界で承認を得られる世界が広がっているんです。
「利己」から「利他」へ
徳力 ルネサンスの芸術家とパトロンのような関係ですね。課金行為を通じて、自分も王様気分になれるというイメージです。
前田 はい、中国のライブ配信だと特に、プロダクト側もユーザーを王様に見立てた言葉づかいをしています。お金をたくさん使う人が王様、という世界観です。ユーザーである演者も親しみやリスペクトを持って王様を崇め、王様が部屋に入ってくると「王様が来た!」と言って、みんながひれ伏す、というような。
ただ、これは日本では恐らく成立しにくくて、日本でもし同じような人がいたら「あいつは金で何とでもなると思っている」というクレームが殺到することが想像できます。
徳力 かなりの確率で、そうなりそうですね(笑)。
前田 ただ、それらの現象もさらに抽象化すれば、日本も中国も「寂しさを埋める」という点では同じだと思いました。中国のユーザーがなぜ「王様になりたい」のかと言えば、中国では一人っ子政策の影響もあり、同世代の女性が周辺にいない独身男性が急激に増えて彼らが寂しさを抱えていた、という社会背景の分析もありました。
ある世代の中国人は、高級ブランドを現実世界の友だちに自慢することで寂しさを埋める、という構造もあったかと思いますが、ソーシャルメディアに接続した現代では、シンプルに言うと、「オンライン上で自慢」するようになったのかもしれません。
面白いことに、ポルシェなどの高級車を現実世界のものではなく、インターネット上のプラットフォームのものを買うんです。値段も500万円くらいするんですが、物理的に乗れるわけでもないのに、平気で購入する。

徳力 本当ですか。それはインターネット上の部屋に飾るオプションか何かですか。
前田 はい。ライブ配信をしている部屋に入るときに車が表示されるんですよ。
徳力 面白いな・・・。ただ、前田さんは、そういった仕組みは今の日本の文化にはハマらないと考えたから、そのまま持ち込みはしなかったんですよね。私のような、いわゆる昭和の世代はお金を持っていることが成功の証だったという面もあって、中国の考え方も何となく分かるんですが、今の若い世代とは何が違うんでしょう。
前田 2つあります。1つ目の大きな違いとしては、少し前の世代の行動原理が一定、「利己」に寄っていたことではないでしょうか。お金や物質的な幸せに対して心から渇望するし、それを表にも出す。この時代はこれが格好良かった。僕らの世代は、その揺り戻しで、「自分がお金など物理的に満たされていることで認められたい」と思うことを、少し格好悪く感じるのかもしれません。
徳力 なるほど、揺り戻し論ですね。
変化する消費者の「価値観」
前田 恐らく、前の世代と同じことをやってもかっこよくない、という価値観なのかなと思います。もしかしたら逆に前の世代が「利他」ベースで行動を起こしていたら、僕らの世代はもっと利己に寄っていたのかもしれません。
2つめの違いは、そもそもの社会趨勢として、現代社会において飢えるのがどんどん難しくなってきている、ということです。IT評論家の尾原和啓さんが著書『モチベーション革命』で「乾けない世代」と表現されているように、高級ワインを飲むよりもファミレスで200円くらいのワインをみんなでワイワイ飲みながら喋っている方が楽しい世代がいる。
社会が豊かになってコンビニのワインもファーストフードも美味しくなり、シェアリングエコノミーで衣食住の衣も住もお金が掛からなくなった。自分のためにお金を使うパートがない、という感覚があるのかもしれません。
徳力 その感覚は分かります。
前田 とは言え、僕は小さい頃に飢えていたタイプなんで、そのマイナスエネルギーを極端に利他に振っているのかなと思います。自分が投資銀行というある種利己の塊のような世界にいた影響が大きいと思います。
徳力 そこがすごく意外なんですよ。前田さんのような投資銀行出身の人は、言い方は失礼かもしれませんが、自分の金銭的成功を重視している人が多い印象で、月収1億円など金銭的価値を重視しがちな気がします。前田さんはなぜ真逆に振れたのでしょうか。
前田 たしかに、そういう道もあったのかもしれません。25歳のときに、自分の中で30歳のときの目標として掲げていた経済的な豊かさを達成したのに、思っていたような幸せがそこにはなくて「あれ、おかしいな」と思ったことがありました。
年収が2倍になれば、幸福度も2倍になると思っていたのに、給料が増えるごとに、増える幸せの量が逓減していくのを感じたんです。お金に苦労した分、お金を稼ぐことこそ幸せをもたらすんだと思って生きてきたから、これから何を目指していけばいいのかと、呆然としてしまいました。
そんな頃、自分の幼少期にギターをくれた知人のお兄ちゃんが亡くなる、ということがあった。それをきっかけに、自分がいつでも死んでしまう前提で、キャリアをデザインしていくことにしました。そうすると必然的に、自分が心から全力で熱中できて、自分以外では代替不可能であろうことに集中したいと思えたんです。それが起業でした。
「利他が強い」と確信した理由
徳力 ちなみに周囲の同世代の誰かが利他的な考え方をしていたから、影響を受けたということなんですか。
前田 実はそうではないんですよね。自分と徹底的に向き合ってみたら、利己を追求する方法論だと幸福度の高まりに限界があると気付いたんです。
徳力 では、「利他ベースの考え方でビジネスをすればうまくいく」という手応えは、どのように得たのでしょうか。
前田 これは、走りながらです。自分が世の中に対して提供したい価値を考えたとき、自分は貧困の中でも「頑張ることで報われた」という感覚がすごく強いため、先天的に恵まれなくても後天的に頑張ればなんとかなる、というメッセージを世の中にもっと発信していきたいと思いました。そうすれば、少なからず、救われる人たちがいるかもしれないから。
このような、自分の心の底から湧き出るような思いや、自分の核となるような価値観を“コア”と呼んでいるのですが、このコアをベースに事業をつくり、それを市場に当てはめてカンナ削りしていく作業を繰り返した結果が今のSHOWROOMであり、「ライブ配信×ギフティング」事業でした。

徳力 当時から「利己」と「利他」という分類で思考されていたのでしょうか。
前田 利己や利他、という言語化は明確にしていなかったかもしれませんが、「自分(ユーザー)のためなのか、演者のためなのか」というのは分けて考えていて、口癖のようにいつも言っていました。それこそ当初は僕らも車といった豪華なアバターなど利己側の機能を試したこともありましたが、これが伸びなかった。そこで、「自分のための機能」が全然ユーザーに刺さらない理由はなぜだろうと考えました。
徳力 そこで、どんどん確信に変わっていくんですね。
前田 そうですね。そこから、演者のためのキャンペーン施策や機能が刺さるというのが数字で見ても、明確になっていきました。
>>4月30日(木)公開予定の後編に続きます。