
- 約7カ月で50棟の建築を可能にしたSanu独自の強み
- 2024年に20拠点200棟の運営体制を目指す
月額5万5000円(税込)で自然の中にセカンドホームが持てる──そんなコンセプトがウリのサブスクリプションサービス「SANU 2nd Home(サヌ セカンドホーム)」が好調だ。
2021年4月にサービスのリリースをアナウンスしたところ、初期の会員枠は即完売。また2021年11月のサービス開始後から現時点(2022年7月5日時点)で数百人の会員枠に対して、入会を待つウェイティング登録者の数は3000人を突破している。
2022年7月に白樺湖(長野県)や八ヶ岳(山梨県)など7拠点50棟が完成したSANU2nd Homeだが、入会を待つ人の声に応えるべく、2024年に20拠点200棟の運営を目指す。
その開発資金として、運営元のSanuは7月6日、SBIインベストメントや三井不動産、みずほキャピタルなど計7社からシリーズAセカンドクローズで8.5億円の資金を調達したことを発表した。4月のファーストクローズも合わせると、同社のシリーズAラウンドの調達総額は約19億円。なお、創業からの累計資金調達額は、不動産開発資金や金融機関からの融資も含めて約50億円となっている。
従来の不動産開発はひとつの拠点を建てるのに数年単位の時間を要することが前提とされてきたが、なぜSanuはスピーディーに拠点を増やせているのか。代表取締役CEOの福島弦氏が語った「テスラモデルでの不動産開発」について話を聞いた。
約7カ月で50棟の建築を可能にしたSanu独自の強み
SANU 2nd Homeは月額5万5000円(税込)で「自然の中にある家と暮らし」を提供するセカンドホームのサブスクリプションサービス。現在、白樺湖(長野県)や八ヶ岳(山梨県)のほかに、河口湖(山梨県)、山中湖(山梨県)、北軽井沢(群馬県)など7つの拠点に合計50棟の独自開発の家「SANU CABIN」を構えている。
サービス開始から約7カ月で50棟を建てるなど、スピーディーにSANU CABINを増やせている理由について、福島氏は「建物をプロダクトとして捉えている点にある」と語る。
「Sanuは建築設計・施工のパートナー企業であるADX社と連携し、50平米のSANU CABINの基本デザインはすべて同じにしています。また建築物の一部、またはすべての部材をあらかじめ工場で製作し、建築現場で建物として組み立てるプレファブリケーション(プレハブ工法)を取り入れることで、建設期間を短縮とスピーディーな開発を実現しています」

また、ここ1〜2年で外的要因による資材価格の高騰が叫ばれているが、Sanuは基本デザインを統一し、単一の部材を大量に調達する形をとっているため資材価格の影響をほとんど受けていないという。
「仮に場所ごとに異なる建物をつくったり、さまざまな素材を使ったりしていたらかなり影響を受けていたと思います」(福島氏)。加えて、釜石地方森林組合と連携し、国産の木材を原材料から調達するスキームを構築したことも大きかったという。
「原材料から調達し、自分たちで製作する。これを外部の会社などに任せていたら、建築にかかる費用も高くなっていたかもしれません」
SANU CABINはあくまでも自然へのアクセスを手軽にする「インフラのようなもの」(福島氏)だという。だからこそ、すべて同じ基本デザインにし、統一化を図っている。

「SANU 2nd Homeを訪れた先に広がっている自然の中での体験は拠点の場所によって異なりますし、季節によっても異なるでしょう。だからこそ、宿泊する場所のキャビンは1棟ごとに異なるデザインをする必要はないですし、同じデザインで良いのです」
「また、Sanuは都市部に生活拠点を持つ人たちをターゲットにしているわけですが、彼らがなぜ自然の中に行かないのか。それは訪れた先の宿泊場所への不安、『非日常を体験しないといけない』というイメージから休みにしか行けないなどのハードルがあったからです。そのハードルを下げるために、Sanuは統一的なデザインで安心感を提供し、また都会と同じように仕事や生活ができる場所にすることを意識しています」

また、SANU 2nd Homeは無人で宿泊施設を運営しているため、土地面積が少なければ棟数を少なくし、土地面積が大きければ棟数を増やすなど場所に合わせて柔軟に建設できる。その点も、従来のホテルブランドなどにはないSanu独自の強みになっているという。
Sanuは不動産アセットマネジメント会社や不動産投資家から投資を受け、彼らが保有する土地を借主の立場として利用し、そこにSANU CABINを建設し運用する。会員からの収入をもとに、賃料を支払うスキームとなっているため、「時間とコストをかけずに建設できている」と福島氏は語る。
2024年に20拠点200棟の運営体制を目指す
もちろん、不動産開発には一定の資金が必要だ。それに関しても、Sanuは2019年11月の創業から現時点で累計約50億円の資金を調達している。福島氏曰く、「需要を先に見える化したことで、一定の資金を調達することができている」とのこと。
「不動産という巨大な産業において、新興プレーヤーであるSanuがいきなり数百億円の資金を調達するという戦い方はできません。だからこそ、まずは会員権の申し込みという形で需要を見える化し、その需要をもって資金を調達し、新たに拠点を開発していく。これが巨大な産業に新興プレーヤーとして参入するときの戦い方かなと思います」
福島氏が例として挙げたのが、自動車メーカーの米Tesla(テスラ)だ。テスラは高品質、高単価の少ないモデルを小ロットで生産することで、常に供給よりも需要が上回る形にした。そうしてブランドを確立し、顧客の声を聞きながら、少しずつモデルをアップデートして次のロットを生産していっている。「そのモデルを不動産市場に取り入れようとしているのが、SANU 2nd Homeなのかなと思っています」(福島氏)。
実際、SANU CABINの中の細かな仕様はユーザーの声をもとにアップデートが可能となっており、ユーザーからの要望を受け、愛犬と泊まれるキャビンも開発したという。
今後、Sanuは調達した資金をもとに2024年に20拠点200棟の運営体制を目指し、拠点開発を加速させるための準備やソフトウェア開発、人材採用に力を入れていくという。「200棟でも足りないくらいの勢いでニーズが拡大しているので、よりスピーディーに多くの拠点を立ち上げていければ」と福島氏は抱負を語った。