Photo: Andrii Yalanskyi / Getty Images
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  • DAOのエコシステム
  • DAOエコシステムの歴史

Web3というインターネットの転換点の背景には、暗号資産ともうひとつ、ブロックチェーンによって可能となった新しい組織「DAO(ダオ)」の存在がある。Web3を支える新しいコミュニティ・DAOは、今、なぜこれほど注目を浴びるのか。

Web3に特化した起業家・プロジェクト育成を行うインキュベーター、Fracton Venturesの共同創業者である亀井聡彦氏、鈴木雄大氏、赤澤直樹氏らが、DAOエコシステム理解のための第一歩として、DAOの8つのカテゴリーとその歴史について解説する。

※本稿は、亀井聡彦・鈴木雄大・赤澤直樹共著『Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」』(かんき出版)を一部抜粋・再編集したものです。

DAOのエコシステム

エコシステムとは「生態系」を指す言葉だが、DAOというエコシステムにどのようなジャンルが存在しているかがわかれば、DAOというものの存在がより身近になるはずだ。

ここでは、DAOのカテゴリーについて説明を行う。

1. DAO Operating System

これはDAOの運営を行うためのツールやソリューションを提供しているカテゴリーである。具体的には、DAOの心臓部となるスマートコントラクトそのものを発行できるツールが該当する。

AragonやDAOhausといったツールがあり、これらは若干数クリックでDAOで用いるスマートコントラクトをブロックチェーン上に展開できる。

これらのツールを用いることで簡単にブロックチェーンを用いた資産管理や投票が行えるようになる。

2. Invesment DAOs

この分野はDAOやプロトコルに投資をしていくためのDAOを指している。

Investment DAOは、通常メンバーが各自手持ち資産、クリプトを出し合う供託プールを作成し、その供託プールを財源に、あたかもベンチャーキャピタルのように投資を行っていく。

投資対象は他のDAOのトークン以外にはNFTもあり、Flamingo DAOは世界トップクラス(執筆時点)の高級NFT投資DAOとなった。

3. Grants DAOs

Grants DAOはWeb3分野で欠かせないGrant(グラント)という制度を行うために存在しているDAOである。

Grantとは助成金のことで、ソフトウェアを作成しているチームや開発者に少額の助成金を渡すことを意味している。プロトコルから各プロジェクトへ金銭的な支援を行うもので、受け取ったプロジェクト側は、原則Grantの返済が不要である。

そもそもWeb3分野ではソースコードと呼ばれるコードそのものを丸裸で公開する文化があることから、通常ボランティアでの開発となってしまうことが多い。

そうしたソフトウェア開発者を、目下初期に金銭的に支援することにより、開発を進めていくことを可能にするという意味が置かれている。

4. Collector DAOs

Collector DAOはNFTを購入、共同保有していくことを目的にしているDAOである。

先程紹介したFlamingo DAOは共同保有の意味合いもあるため、Collector DAOのカテゴリーにも分類されることがある。

中でもPleasrDAOと呼ばれるDAOでは、ドージコインのキャラクターの元となっている柴犬カボスちゃんのチャリティーNFTオークションの購入をDAOで行ったことでも知られている(編集部注:暗号資産ドージコインのシンボルにもなったネットミームのモデルは日本で保護された柴犬「かぼす」である)。

この際、カボスちゃんの有名なポーズの写真がオークションにかけられ、2021年6月に4.6億円もの額でその写真NFTを購入したことが明かされている。

ちなみにこのPleasr DAOでは、DAOで所有しているこの一枚の写真を分割することを決めており、オリジナル画像のNFTそのものをスマートコントラクトに送付して、コードの制御化でロックさせることを前提に、このアクセス権を169万ピースに分割した。

これにより執筆時点で7000人ものカボスちゃん分割NFTホルダーが登場することになっている。

このような共同所有というアイデアは、アート作家の世間の評価をコレクター同士で上げていく手法と近く、DAOベースのコミュニティが、ともにアートを保持していく未来に必要な理由になっているのだろう。

5. Protocol DAOs

Protocol DAOは、プロトコルそのものを維持、運用、改良していくためのDAOである。これはプロトコル毎に存在しているDAOであり、例えばDeFi領域でレンディングサービスを提供するAaveのプロトコルを支えるAave DAOなど、直接プロトコルが行うサービス(金融サービスなど)と紐づいたDAOが立ち上げられている。

ガバナンストークンといったイノベーションもこのProtocol DAOの進化の過程で可視化されてきた歴史があり、Protocol DAOはWeb3革命の本丸とも言えるだろう。

6. Service DAOs

Service DAOはソリューションを提供するProtocol DAOに比べて、より明確なサービス全般を提供するDAOといったものであるが、実は明確な定義のある分野ではない。

例えば、DXDAOというDAOでは、DAO主体型のホールディングス企業のようなことを展開している。DXDAOの中で新規事業として、3〜4つの新規のプロトコルを立ち上げて、そのメンテナンスや運営、今後の意思決定をDXDAOというホールディングス側で判断している構図である。

7. Social DAOs

Social DAOはソーシャルトークン(編集部注:コミュニティへの参加権として用いられるトークン)などとも呼ばれる、プロトコルよりコミュニティベースなテーマ設定からDAOとして成長してきた分野である。

例えばFWBというDAOは、有名アーティストや有名クリエイター、著名ファッションブランドの取締役などハイグレードな人脈を共有するオンライングループとして、世界規模のネットワークを提供している。

FWBへの参加は指定のトークン数をマーケットで購入することで誰でも可能であるが、人気に応じてそのトークン価格が向上してしまうことから、参加ハードルが右肩上がりに上昇してしまう可能性がある点は要注意である。

しかしながら初期のDAO参加者は、DAOのコミュニティが人気になっていくに従って、より多くのアートや音楽、マーケティングなど世界トップ級の人材が後からDAOに参加してくるといった後付けの無形資産の価値を味わえるのが面白いところだろう。

8. Media DAOs

Media DAOは、通常はメディアが担当する記事執筆・公開などの作業を、DAOのコミュニティベースで行っている。

特徴は大きく2つある。ジャーナリストといった特定の主体者がいないほうが公開しやすい類の記事執筆に最適なこと、及び各記事が、メディアの垣根を越えて世界中のトークンホルダーにより、コミュニティドリブンで翻訳されて各ローカルへ広がっていくことが挙げられる。

コミュニティによる圧倒的なスピードで、各地域に情報が伝搬するその様子は、Bankless DAOというDAOなどで見ることができるが、そのスピード感もさることながら、各地域で協力した関係者にも報酬をトークンで分配できるようなシステムが備わっていることが特徴である。

DAOエコシステムの歴史

DAOのエコシステムを語るうえで、DAOの歴史についての記述が不可欠だ。イーリアムブロックチェーンにおけるDAOの先祖として、「The DAO」がある。The DAOはその名の通り、DAOをブロックチェーン分野に知らしめたことで有名だ。

亀井聡彦・鈴木雄大・赤澤直樹共著『Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」』(発行:かんき出版)
亀井聡彦・鈴木雄大・赤澤直樹共著『Web3とDAO 誰もが主役になれる「新しい経済」』(発行:かんき出版)

The DAOは、ベンチャーキャピタルのような役割をDAOの運営で行うことを目的に作られた、イーサリアム上の最初の大きなDAOである。

この立ち上げ後、2016年にThe DAOは当時の時価で160億円に上る金額のイーサリアムを個人投資家から集めることに成功した。

しかしこの後スマートコントラクトにバグがあることがわかり、その3分の1程度の資金が流出するという悲劇を招く。

この際に、初めて「ハードフォーク」と呼ばれるイーサリアムネットワークの分岐が行われた。

ここで新しく生まれた(ブロックチェーンを資金流出前まで巻き戻すことを選択し、その巻き戻した世界のみを唯一存在する正しい世界と扱った)ほうのブロックチェーンが今のイーサリアムになり、巻き戻すことを一切拒否したブロックチェーンが今のイーサリアムクラシックになるというコミュニティの一部分裂を引き起こした。

このような悲劇の後、2019年からようやく初期のThe DAOコンセプトを彷彿とさせるようにInvestment DAOの属種である、MetaCartel Ventures DAOやThe LAOが立ち上がり、DAOによるDAOへの投資が始まった。

2021年からはFlamingo DAOやPleasr DAOなどのようなNFTを集める、共同所有するDAOが登場するに至った。

そう、DAOの進化の歴史とはイーサリアムを軸としたブロックチェーンの進化の歴史そのものなのである。

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