
日本でもカーボンニュートラルの実現に向けて脱炭素経営を表明する企業が増えてきている。さまざまな企業がCO2排出量の削減を目指した取り組みを始めているが、製造業やエネルギー産業をはじめ、排出量を減らすことが難しい業界も少なくない。
そのような企業にとって有力な選択肢になるのが、CO2の削減活動に投資をすることなどによって、自社では減らすことのできない排出量を埋め合わせる(相殺する)「カーボンオフセット」だ。
近年はこのオフセットの手段として、特に森林由来のカーボンクレジットのニーズが高まってきている。 企業は森林保全プロジェクトや植林事業を展開する事業者の創出したクレジットを購入することになるが、この取り組みを推進していく上では「創出されるクレジットを正しく評価すること」が欠かせない。
2021年創業のサステナクラフトは、まさに独自の森林評価技術を武器にこの領域で挑戦をしている日本発の気候テック(クライメートテック)スタートアップだ。
現在同社では自然保全プロジェクトの実行者や投資機関向けに2つのソリューションを展開している。1つが衛星リモートセンシング技術を用いて、広範囲の森林の炭素蓄積量をモニタリングするもの。もう1つが因果推論技術を軸に、森林プロジェクト特有のコンセプトに沿ったかたちでクレジットを算出するものだ。


サステナクラフトで代表取締役を務める末次浩詩氏によると、従来は人力やドローンで森林のモニタリングをすることが主流となっていたが、その際のコストが課題になっていた。たとえばドローンを活用する場合「カーボンクレジットのレベニューとモニタリングコストがほぼ同等になってしまうこともある」という。
その点、衛星リモートセンシング技術を有効活用できれば、モニタリングのコストを10分の1程度まで抑えることができる。ドローンに比べてモニタリングの精度がネックになるが、サステナクラフトではデータサイエンス技術を活かして推定結果を補正する仕組みを開発することで、低コストかつ高精度のモニタリング手段の実現に挑んでいる。
実際に顧客の1社はリモートセンシング技術を用いたサービスをいくつか比較した上で、唯一、実運用できるレベルにあることからサステナクラフトを選んだという。
また森林クレジットの透明性を評価していく上では、モニタリングの課題に加えて「クレジットの算出方法の複雑さ」という課題も解決していかなければならない。
森林保全プロジェクトのCO2削減量を算出する際には、過去の森林減少や劣化などに伴うCO2排出量の推移をもとに将来のベースライン(FREL : 森林排出参照レベル)を割り出し、その数値と実際の排出量の差分を計算する必要がある。実際の森林プロジェクトによるCO2吸収量や排出削減量よりもはるかに大きなクレジットが創出されているケースは「ジャンクカーボンクレジット」とも言われ、批判の対象にもなりかねない。
プロジェクトを通じてある地域の森林伐採を抑制したとしても、乱伐が周辺地域に移行して近隣の排出量が増加してしまう(Leakage)可能性もあり、その点も加味して評価することが求められる。
サステナクラフトには野村総研などでデータアナリストとして働いた後、東京大学の博士課程でデータサイエンスの研究をしていた末次氏を始め、経済学や工学の博士号を持つ複数のデータサイエンティストが在籍。ほかにもコンサルティングファームで事業開発経験があるメンバーや、JICA・米州開発銀行など国際開発領域での経験があるメンバーが集まり事業を進めてきた。
中南米からスタートし、現在はブラジルやインドネシア 、日本の森林をモニタリングするサービスを手がけている。
今後はブラジル、インドネシア、フランスなどで現地の実証パートナーとともにコア技術の研究開発に取り組んでいく計画。それに向けた資金として、三菱UFJイノベーション・パートナーズなどから累計で1.2億円の資金も調達した。
現時点では森林クレジットを創出するプロジェクトの実行者や提案者が主な顧客となっているが、これからは「ネイチャーファンド」を通じてそれらのプロジェクトに資金を提供する金融機関への展開にも力を入れていく方針だという。
テクノロジーを活用して森林データの分析やカーボンクレジットの算出に取り組むスタートアップは海外で増えてきており、ビル・ゲイツ氏が設立した脱炭素ファンドのBreakthrough Energyが出資している米国のPachamaや、累計で78億ドル以上の資金を集めている米NCXなどが代表格だ。