Yper代表取締役の内山智晴氏 提供:Yper 楽天ロゴ入りの置き配専用バッグを持つYper代表取締役の内山智晴氏 提供:Yper 
  • 楽天の独自物流サービスと組む “置き配スタートアップ”
  • 伊藤忠出身の起業家が狙うのは 「再配達」の撲滅
  • 政府も注目する置き配 気になる「盗難」への対策
  • コロナで見えた意外なメリット バッグ販売数は前月比で2倍に

ECの急成長によって広がる宅配の需要。その一方で、問題になっているのが、度重なる再配達などによる配達員の不足や過労だ。そこで近年少しずつ増えているのが、不在時に玄関や宅配ボックスに荷物を入れておく「置き配」だ。3月からアマゾンジャパンでも標準の配達手段として置き配を導入している。そんな置き配のためのバッグとアプリを組み合わせたサービス「OKIPPA(オキッパ)」を提供するスタートアップのYper(イーパー)が、楽天と提携を発表した。同社が考える置き配の未来、そして新型コロナウイルスの影響を聞いた。(編集・ライター 野口直希)

楽天の独自物流サービスと組む
“置き配スタートアップ”

 OKIPPAは宅配バッグとスマートフォンアプリを使った置き配サービスだ。ECでの注文時、住所欄や備考欄に「OKIPPAへの配達希望」と追記して、不在時に荷物が届いた際、あらかじめドアの取手に吊り下げた専用のバッグに入れておいてもらうというものだ。

 バッグの容量は57L(2Lペットボトル18本分)で、使用しない時にはそのままドアに吊り下げておくことも可能だ。盗難防止用にシリンダー式南京錠とワイヤーが付属している。税別価格は3980円で、公式オンラインストアやAmazonなどで購入できる。

 専用アプリでは、ネット通販サイトで購入した商品を自動で取得し、配送状況をいつでも確認可能。荷物が配送されると配送完了通知が届く。

 今回決まった楽天との提携では、4月22日から楽天の運営する配送サービス「Rakuten EXPRESS」の配送手段にOKIPPAが追加された。また、これを記念して楽天のロゴが入ったOKIPPAバッグを1万名にプレゼントするキャンペーンも開始している。

 Rakuten EXPRESSは楽天の配達員が直接配送を行うサービスで、生活用品や日用品を取り扱う「楽天24」などの直販店舗や「楽天ブックス」、ファッションEC「Rakuten Fashion」、家電EC「楽天ビック」などの配送で利用できる。24時まで時間指定ができる再配達なども実施していたが、新たな配送手段として、置き配を追加した形だ。

 EC事業者が配送の選択肢としてOKIPPAを採用したのは、今回が初めて。その意義を、Yper代表取締役の内山智晴氏は次のように説明する。

「これまでOKIPPAを利用するためには、受取人が住所欄にOKIPPAでの受け取りを希望する旨を書いておく、つまりは受取人が配達員に配達ボックスに荷物を入れてもらうように頼む必要がありました。しかし、今回の提携により、直接の依頼主であるEC事業者が配達員に置き配を依頼することになります。そのため配達員が指示を見落とす、内容を把握できないといった伝達ミスが大幅に減少するはずです」(内山氏)

 また、これまでも置き配の効果を図るため実証実験を行ってきたYperだが、今後は楽天の利用者を対象に、より正確な利用データを取っていく。「(これまでの実証実験で)OKIPPAの導入によってECの利用頻度が高まることは分かっていますが、楽天さんと提携することで年間利用額がどの程度増えるのかなどの具体的な数値がわかれば、さらにOKIPPAの普及に役立てることができます」(内山氏)

Rakuten EXPRESSとの提携を記念してつくられた楽天仕様のOKIPPAバッグ。容量は、使用頻度の高い日用品の受け取りに使ってもすぐには満杯にならない57L 提供:YperRakuten EXPRESSとの提携を記念してつくられた楽天仕様のOKIPPAバッグ。容量は、使用頻度の高い日用品の受け取りに使ってもすぐには満杯にならない57L 提供:Yper

伊藤忠出身の起業家が狙うのは
「再配達」の撲滅

 Yperは、伊藤忠商事に務めていた内山氏が2017年に創業。2019年4月にはシリーズAラウンドとしてニッセイ・キャピタルとみずほキャピタルを引受先とした3.5億円の資金調達を実施している。これまでに販売したバッグは約15万個。現在の主な収益源はバッグの販売益だが、今後はEC事業者の配送オプションとして提供することで、収益化など、インフラとして側面を強くしたいという。

 内山氏がYperを立ち上げたのは、日本の物流業界の問題点である再配達問題を解決するためだ。宅配便の取り扱い個数は2018年までの5年間で約6.7億個も増加しており(経済産業省調べ)、宅配の再配達率は約15%にものぼる(国土交通省調べ)。

「指定した時間に荷物が届き、再配達にも対応してくれる日本の物流は、間違いなく世界でも最高水準です。しかし、そんな日本の物流に時間・資金の面で大きな打撃を与えているのが、再配達です。大手でもなかなか解決できていない問題ですが、フットワークの軽いスタートアップだからこそできることがあると考え、OKIPPAを始めました」(内山氏)

政府も注目する置き配
気になる「盗難」への対策

 実は、Yperが掲げる「再配達削減を目的とした置き配の促進」には政府も注目している。経済産業省と国土交通省が中心になって2019年から「置き配検討会」を開催。この会にはYperと楽天も参加しており、今回の提携はここでの出会いがきっかけになったという。

 置き配検討会では、置き配の効果や、普及させるための課題などが議論されている。2020年3月31日に開催された第5回検討会では、これまで消防法によって集合住宅の共有部に宅配物をおくことは原則禁止されていたが、避難などの支障にならなければ問題にならないことが明文化されるなど、法的にも置き配を利用しやすくなる動きがあった。

 一方で、大きな課題に挙げられたのが、置かれた荷物の盗難リスクだ。特に2020年3月からアマゾンジャパンで置き配が標準の配達手段になっており、設定を変更しなければ再配達は行われない。置き配で配達されることになった際には、突然玄関前に荷物を置かれたことを不安に感じた人も少なくないはずだ。

 検討会では、盗難リスクを低減のための施策として、アマゾンジャパンのような被害状況に応じて商品の再送や返金に応じる対応や、OKIPPAのワイヤー付きバッグとアプリでの配送状況確認などを挙げている。加えてOKIPPAでは東京海上日動火災保険と合同でプレミアム会員のサービス(100円/30日)を提供している。サービスの加入者には最大3万円の補償を用意している。

「もちろん、OKIPPAのバッグが100%安全というわけではありませんが、今のところバッグに入れた荷物が盗難されたという報告は1件も入っていません。まだ正解はわかっておらず、引き続きより安全な運用方法を検討しなければなりません」(内山氏)

コロナで見えた意外なメリット
バッグ販売数は前月比で2倍に

 新型コロナウィルスの影響で、在宅機会が大きく増えた昨今。荷物を受け取りやすくなったので置き配の需要も減少しているかと思いきや、むしろOKIPPAの注文数は増加。3月に入ってバッグの販売数は前月の約2倍になり、3月9日から受付開始したバッグの無償配布には、110個の配布数に対して3日間で約4000の応募があったという。

 実は、外出機会が減ったことで、置き配の新たなメリットが発見されつつある。在宅ワーク中は荷物を受け取ることも可能だが、オンライン会議などインターフォンを鳴らしてほしくない機会も多い。そのため置き配で配達してもらい、会議終了後に荷物を回収する人が増えているのだという。

 今後は、引き続き楽天のようにEC事業者との提携を進めて「OKIPPA便」を普及させていくとともに、バッグの新たな利用手段も模索していく。例えば、4月にはストライプインターナショナルのファッションサブスクリプションサービス「メチャカリ」と合同で実証実験を開始。衣服の返却時にOKIPPAのバッグを利用することで、アイテムの返送作業を楽にできないか検証するという。

「今年度中に、バッグの利用世帯数100万突破を目指しています。日本のコンビニ店舗数は約55万店なので、この頃には数字の上ではコンビニ以上の規模を誇るプラットフォームになります。

 さらに長期的には、存在するのが当たり前な玄関前のインフラになりたいですね。フリマサービスであるメルカリが経済圏を生み出しているように、宅配をより便利にして労働負荷も低減してくれる、玄関前から生まれる経済圏を実現できれば」(内山氏)