写真中央がPETOKOTO代表取締役の大久保泰介氏
写真中央がPETOKOTO代表取締役の大久保泰介氏

7月7日〜8日の2日間、沖縄・那覇で開催されたIVS主催の招待制のスタートアップカンファレンス「IVS2022 NAHA」。8日には次世代の起業家の登竜門ともいわれるピッチイベント「LAUNCHPAD」の決勝戦が開催された。

今回は、過去最多の約250社(例年は150社前後)の応募中から、予選を勝ち抜いた計14社が登壇。優勝したのはペット向けビジネスを展開するPETOKOTOだった。決勝戦に進出した全14社の概要は以下のとおり(紹介はピッチ順)。

Web3時代のバーチャルワールドを目指すナナメウエ

同世代で共通の趣味・趣向を持ったユーザー同士が匿名でつながり、グループ通話やテキストチャットを通じて交流できる音声SNS「Yay!(イェイ)」を展開する。利用者の85%が24歳以下となっている。この1年間でDAU(デイリーアクティブユーザー)が約2倍になり、数十万人が活用するサービスになっているという。

同社は今後、トークンを用いてユーザーがサービス運営に関与したり、報酬を受け取ったりできるようなWeb3時代の新たなバーチャルワールドを作ることを目指す。NFTやVR、アバターなども含めたコンテンツを充実させるほか、今冬を目処にIEO(Initial Exchange Offering)での上場も目指していく。

なお、ナナメウエは2022年4月には、投資家および金融機関からの融資により約16億円の資金調達を実施したほか、6月にはカヤックからオンラインゲームコミュニティ「Lobi」事業を譲受している。

電力のGXとDXを加速させるTensor Energy

カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2を排出しない再生可能エネルギーの導入など、世界各国でエネルギー産業が大きく変化し始めている。日本でも2022年4月に売電価格に対して一定のプレミアム(補助額)を上乗せする「FIP(フィード・イン・プレミアム)制度」が開始された。

Tensor Enegyは、再生可能エネルギー開発業者と発電事業者向けに、FITやFIP、その他の相対契約に対応したアセットポートフォリオのマネジメント、AIによる発電予測と電力取引市場の予測、オペレーションの自動化、経済性と環境価値の可視化を行う、オーケストレーションプラットフォームの開発を手がける。

2022年3月、ジェネシア・ベンチャーズから7000万円の資金調達を実施している。2022年末にベータ版の公開を目指すという。

CO2の見える化をするアスエネ

2021年6月に東京証券取引所から公表された「コーポレートガバナンス・コード」の改訂版では、サステナビリティに関する取り組みについての内容が追加。プライム市場やスタンダード市場に上場する企業はESG情報の開示が求められるようになっている。

ステークホルダーに対して、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報を開示する動きが高まっている中、CO2の見える化・削減クラウドサービス「アスゼロ」を展開するのがアスエネだ。アスゼロは領収書やレシートなどの画像をスキャンしてアップロードしたり、会計システムや経理システムとAPI連携したりするだけでCO2排出量が算出できるのが特徴。現在、上場から中小企業まで約200社が導入している。

2022年4月には、投資家からの第三者割当増資と商工組合中央金庫からの融資によって総額18億円の資金調達を実施している。

未利用の農産資源を天然繊維に変えるフードリボン

パイナップルやバナナの主要産地である沖縄県。そんな沖縄県で収穫された、パイナップルの葉やバナナの茎は「価値がないもの」として、9割以上が捨てられているという。そのパイナップルの葉やバナナの茎から衣料向けの天然繊維を抽出し、アパレル企業に販売しているのがフードリボンだ。同社は沖縄発のスタートアップ。

フードリボンは、パイナップルの葉やバナナの茎から抽出した天然繊維を“ファーマーズテキスタイル”と名付ける。離島も含めた沖縄全土の生産農家との連携をし、協力農家から葉を買い取る仕組みを構築し、沖縄の新たな産業にする計画を進めていく。また、この繊維原料から作られたアパレル製品は「生産農家の顔が見える服」として展開し、使い終わった後循環する仕組みに乗せ、最終的に土に還すことができるという。

「人から買う」体験をつくるEC-GAIN

3500人を超える幅広いジャンルの専門家や有識者がおすすめ商品を通じて専門知識の情報発信、販売を行うソーシャルコマースプラットフォーム「pippin(ピッピン)」を展開する。運営元のEC-GAINも沖縄発のスタートアップ。

pippinは商品を販売するクリエイターが在庫を抱えることなく、無料で自分だけのセレクトECショップを作ることができ、ユーザーよる購入によって収益を得られる。一方のユーザーはクリエイター自身がセレクトし、レビューした製品を、自分で探す手間なく購入できる。リリースから約1年で単月の流通総額は6倍以上の成長を遂げており。月間2000万円以上売り上げるクリエイターも誕生しているという。

2021年8月には、Coral Capital、GxPartnersを引受先とした第三者割当増資により、6500万円の資金調達を実施している。

返品体験のアップデートに取り組むRecustomer

ECの普及に伴い、新たなビジネスチャンスとなっているのが「商品の返品業務・返品体験」のアップデートだ。Amazonでは2016年より出品者に対して返品無料を義務付けており、ZARAのようなファッションチェーンやAllbirdsを始めとする勢いのあるD2C企業などもこぞって返品無料ポリシーを掲げている。

そうした中、日本で返品体験のアップデートに取り組むのがRecustomer(リカスタマー)だ。2021年6月に返品・返金業務を自動化するSaaSのベータ版をローンチ。現在、複数のアパレル事業者にサービスを提供している。2021年9月には、J-KISS型新株予約権の発行によって、Coral Capital、ALL STAR SAAS FUND、G-STARTUPを新規引受先とした総額約1.5億円の資金調達を実施している。

おトクな情報を自動で発見するSTRACT

デーティングアプリ「dately(デートリー)」を提供していた(2019年3月にパートナーエージェントへの事業譲渡に伴い、サービスを終了)STRACTが、新たに開発したアプリが「PLUG(プラグ)」。PLUGはあらゆるECサイトのクーポンやキャッシュバック、最安値情報を自動で発見することができるiPhone Safari向けのブラウザ拡張機能。現在、アプリ自体は5万ダウンロードを突破しているという。DAUは1万7000人ほどとなっており、今後、Andoroid版やブラウザ版の提供も予定しているとのこと。

不動産業務を支援するリース

家賃債務保証会社向けに家賃債務保証に特化した、業務効率化と生産性向上を支えるクラウドサービス「smetaクラウド」を展開する。審査・契約・入出金管理・滞納督促業務のペーパーレス化や効率化に加え、代理店・顧客・契約情報の一元管理をすべてクラウド上で行うことができる点が特徴となっている。smetaクラウド以外にも家賃保証付きお部屋探しアプリ「smeta/スメタ」、属人的な入居審査業務の効率化と審査精度を向上させるAI業務支援ツール「smeta入居審査AI」の開発・運営も手がけている。

セキュリティ診断を展開するBoostIO

自社サービスのセキュリティ対策を行う有効手段として、海外で浸透し始めているのが「バグバウンティ(脆弱性報奨金制度)」だ。バグバウンティは、企業が自社の製品やサービスに対する脆弱性診断プログラムを公開し、セキュリティリサーチャーが脆弱性を発見・報告することで企業から報奨金を受け取ることが出来る仕組み。

BoostIOは、数千円からセキュリティリサーチャーに成果報酬型で脆弱性診断を依頼でき、エンジニア採用まで対応したクラウドソーシングサービス「IssueHunt(イシューハント)」を展開する。7月8日にサービスをリリースした。

WEBサイト上で商談を実現するジェイタマズ

リモートワークやオンラインを使った営業が普及したことで、ウェブサイト経由での新規顧客獲得の重要性が高まっている。そうした中、ワンクリックするだけで、既存のウェブサイト上で顧客と音声通話ができるウェブ接客ツール「OPTEMO(オプテモ)」を展開するのがジェイタマズだ。

OPTEMOは個人情報や特定のツール、専用URLなどが不要。いま見ているウェブサイト上でそのままオンライン商談を行うことができる。2022年1月には、SBIインベストメント、千葉道場ファンド、Headline Asia、Skyland Venturesを引受先とする第三者割当増資により、総額8500万円の資金調達を実施している。

電話応答を自動化するIVRy

音声やSMSなどによる自動応答機能によって電話業務の一部を自動化するサービス「IVRy」を提供する。3000円の月額利用料に、550円の電話番号維持代や通話代が加算される仕組み。ミニマムで月額数千円から使えるため、コスト面のハードルが低いのが特徴となっている。

2020年7月にベータ版として提供を開始し、同年11月に正式版をリリース。サービスを利用するアカウント数は1300件を超え、主に病院・クリニック、企業の代表電話・部署電話、飲食店、美容院、ECなどの業界・業種で利用されている。IVRyを活用することで営業電話への対応の工数を80%削減、1日数万件を超えるワクチン予約の電話を自動応答の実現などの事例も生まれているという。

2021年12月には、フェムトパートナーズとプレイドを引受先とする第三者割当増資により、約3億円の資金調達を実施している。

ベンダーとパートナーの連携を自動化するパートナーサクセス

ベンダー(製造元)のパートナー(代理店)が行っている煩雑な業務フローの大部分を自動化・分析。代理店の案件進捗や行動を可視化し、データベース化するPRM(パートナーリレーションシップマネジメント)ツール「PartnerSuccess」を展開している。

PartnerSuccessは商品登録をすれば、販売代理店の取り扱い商品を一元管理できるほか、日次の販売代理店活動を自動でレポート化してくれる。また、PartnerSuccess以外にも「代理店戦略コンサルティングサービス」を展開しており、導入企業の中には、3カ月で代理店社数が4倍、案件数が10倍に拡大した企業もいるという。

フリーランスを支援するSollective

新たに正社員を獲得するよりも、採用の期間を一気に短縮できるほか、企業の状況に応じてすぐにチームを構築できることから、欧米などではフリーランスをプロジェクト単位で採用することが一般的になっている。一方、日本ではフリーランスの活用は一部の企業にとどまってしまっているのが現状だ。

そうした課題を解決すべく、Sollectiveは即戦力となるフリーランスと企業を繋ぐ完全審査制のプラットフォーム「Sollective(ソレクティブ)」を展開している。審査制のため、企業はサービス上で求めるスキル・経験を検索すれば、すぐに適切なフリーランスを見つけるのが特徴だという。2021年7月には、千葉道場ファンドほか複数の投資家を引受先とした第三者割当増により6100万円の資金調達を実施している。

ペットウェルネスの実現を目指すPETOKOTO

ペットの“家族化”が進む日本だが、大量繁殖や飼育放棄といった背景から、数多くの犬猫が殺処分されているのが現実だ。そうした課題を解決すべく、審査制の保護犬猫マッチングサイト「OMUSUBI」の展開をするのがPETOKOTOだ。年々、事業領域を拡大しており、2020年2月からフレッシュペットフードのD2Cブランド「PETOKOTO FOODS」の展開も始めている。約2年で1000万食以上が売れたという。

2021年12月には、ベガコーポレーション、楽天グループ、ABCドリームベンチャーズ、DGベンチャーズ、Headline Asia、15th Rock Ventures、既存株主のニッセイキャピタル、西川順氏、鈴木修氏を引受先とした第三者割当増資と融資を合わせ総額約5億円の資金調達を実施している。

なお、PETOKOTOは4月に開催した、スタートアップやビジネスの変革に取り組む“挑戦者”を表彰する「SIGNAL AWARD 2022」でも一次審査を通過していた。