
- 専用のペアカードとアプリでパートナーとの家計管理をサポート
- ヒアリングを重ねて見えてきた「パートナーとの家計管理」の課題
- 「3ヶ月間利用したユーザーのほぼ100%が継続」高い継続率と決済単価に手応え
- ペアカードに拡大に注力、今後は親子カードの展開も
フリマアプリの草分け的な存在「Fril(フリル)」の生みの親であるFablicの創業メンバーが、次なる挑戦に向けて2019年に立ち上げたスマートバンク。同社の運営する“家計簿プリカ”型の支出管理サービス「B/43(ビーヨンサン)」が、パートナーと家計を共同で管理できる手段として利用者を広げている。
B/43はVisaプリペイドカードと家計簿アプリがセットになった支出管理サービスだ。
毎月の予算をプリペイドカードにチャージして決済をするだけで、アプリ上にリアルタイムで支出の明細が反映される仕組み。事前に毎月の予算を設定できる機能や目的ごとにお金を分けて管理できるポケット機能など支出管理をサポートする機能に加えて、後払いチャージなどの機能も提供している。
2021年4月のローンチからユーザー規模を拡大し続け、2021年12月時点で累計10万ダウンロードを突破。決済取扱高の詳細は非公開ながら、月間で数億円規模にのぼるという。

B/43の大きな特徴となっているのが、共働きの夫婦や同棲中のカップルなどが共同で家計を管理するための「B/43ペアカード」だ。
B/43では通常の個人カード(B/43マイカード)とペアカードの2種類を発行しているが、2021年7月からスタートしたペアカードが好調で、パートナーとの生活費支出のメインカードとして使われるケースが増えている。スマートバンク代表取締役の堀井翔太氏も「ペアカードにおいて力強いPMF(プロダクトマーケットフィット)を感じており、さらなるスケールも見込める」と話す。
スマートバンクとしては今後ペアカードの拡大により注力していく計画。そのための資金としてグロービス・キャピタル・パートナーズ、グローバル・ブレイン、Z Venture Capital 、ANRI、三井住友海上キャピタル、DBJキャピタルを引受先とした第三者割当増資によりシリーズAラウンドで総額20億円を調達した。
専用のペアカードとアプリでパートナーとの家計管理をサポート
B/43のペアカードではアプリ上から共同口座を作り、それに紐づいた専用のカードがパートナーそれぞれに発行される仕様になっている。個人用と共同の口座は独立しており、カードもそれぞれの用途に応じて2種類のものを使い分けるかたちだ。

ユーザーはTwitterのメインアカウントとサブアカウントを使うような感覚で、B/43のアプリから個人用とペア用をスムーズに切り替えること可能。たとえば個人用に毎月10万円を入金し、そのうちの7万円をペア用に振り替えるといったことも簡単だ。
アプリからはパートナー双方の支払い履歴をいつでも確認でき、相手が決済をした際にもリアルタイムで通知される。決済金額は共同口座から引き落とされるため、立替精算などの手間とも無縁だ。

冒頭で触れたポケット機能を用いれば、特定の目的のための資金をパートナーと一緒に蓄えていくツールにもなりうる。実際に夫婦で旅行用の資金を蓄えたり、カップルで結婚準備金を蓄えたりといったかたちで使われているという。
「(ペアカードを通じて)解決しているのは、共働きの夫婦や同棲してるカップルが抱えているお金の共有に関する課題です。そのような方々は基本的に同じ家で一緒に暮らしていて、どちらか一方が家計を負担するのではなく、双方でお金を出し合いながら生活していることが多い。そこでパートナーと一緒に家計の管理や支払いをするための方法が必要になります」
「2人で家計を管理する手段としてメジャーなのはクレジットカードの家族カードですが、法的な婚姻関係がないと作れないという制約があります。一方でキャッシュレス系の決済サービスの多くは、主に1人で使うことを見越して設計されている。そこで(アナログな手段も含めて)既存の方法を駆使しながら対応しているのですが、面倒な立替精算や支出状況の確認の手間など、何かしらの課題が発生しているような状況でした」(堀井氏)
堀井氏によると米国や英国などでは銀行口座を夫婦が共同名義で作れる「ジョイントアカウント」が存在し、それぞれがデビッドカードを受け取ることができる。一方で日本の銀行法ではざっくり言うと「1名義人に対して1口座(名義人に対して発行できるカードも1枚のみ)」というルールがあり、同様の仕組みを実現できなかった。
スマートバンクの場合は自社で資金移動業のライセンスを取得することで、ペアカードのようなサービスを構築できているという。

ヒアリングを重ねて見えてきた「パートナーとの家計管理」の課題
ペアカードは「同棲がスタートするタイミングや結婚のタイミングなど、一緒に暮らし始める際に手に取ってもらうことが多い」(堀井氏)というが、具体的にはどのような課題を解決する手段として活用されているのか。
スマートバンクでは260件を超えるユーザーインタビューを実施し、パートナーとの家計管理の実情を探りながらサービスの開発を進めてきた。
たとえば共働きの夫婦の間で生活費を管理するために用いられていた手段の1つが、「どちらかの名義で銀行口座を開設する」というものだ。この場合、口座を作らなかったパートナーが残高や支出の状況を把握しづらいことがネックになる。
同棲カップルの場合はそもそも家族カードを作れないため、別の手段で対応するしかない。堀井氏の話では「リアルな財布を用意して現金で管理する」方法を採っているユーザーも一定数存在するそうだが、課題になるのが立替精算だ。外出先など、家計管理用の財布を持っていない時に生活費の支払いが生じると、後から面倒な立替精算の作業が発生する。
B/43のペアカードであればキャッシュレス決済なので現金での支払いや管理が不要で、双方がリアルタイムに残高や支出の状況を知れる。パートナーとの関係性に関わらず各々にカードが発行されるため、立替精算も必要ない。
「3ヶ月間利用したユーザーのほぼ100%が継続」高い継続率と決済単価に手応え
近年はスマートバンクだけでなくKyashやカンム、ナッジなどがそれぞれのアプローチでカードと連動した新たな金融サービスを展開している。スタートアップ以外が手がけるサービスも含めて便利な選択肢が増えてきているが、B/43のペアカードのような仕組みでパートナーとの支出管理にフォーカスしたものはほとんど存在しなかった。
「クレジットカードの家族カードくらいしか代替手段がないような状況であり、だからこそ多くの人に手に取ってもらえるような状態が作れている。(そういった観点では)ユニークなポジションが築けているのではないかと感じています」(堀井氏)
実際にペアカードは継続率が高く、3ヶ月利用したユーザーのほぼ100%がそれ以降も継続して利用している。利用期間が長くなるに従って月額の利用金額も伸びる傾向にあり、利用開始翌月には約1.6倍、10ヶ月後には約2.8倍にまで増加するそうだ。

特にスーパーでの買い物や日用品の購入などに変化が現れやすく、初月と3ヶ月目ではこれらのシーンでの決済額が約2倍に増えるといった結果が出ているという。
「利用状況などを見ていても、パートナーとの生活費支出のメインカードや家計管理の手段として使えてもらえています。現時点でGMV(流通取引総額)の割合としてはマイカードの方が大きいものの、継続率や決済単価においてペアカードの状況が良く、その点に明確なPMFの手応えを感じています」(堀井氏)
ペアカードに拡大に注力、今後は親子カードの展開も
マイカードからスタートしてペアカードにも領域を拡張してきたスマートバンク。今後は特にペアカードの拡大に向けた取り組みを強化していくことに加え、今年度中を目処に「親子カード」のリリースも見据えていると言う。
ペアカードがパートナーとの支出管理を対象としていたように、親子カードでは小中高生や大学生の子供と親の支出管理をサポートしていく方針。現金で渡されることの多かったお小遣いのデジタル化を起点に、子供が使えるカードとして利便性を高めながら支出を管理できる仕組みを用意し、金融教育にもつなげていく狙いだ。

カードとアプリを組み合わせた親子向けの金融サービスはFintechの中でもグローバルで盛り上がっている領域の1つ。海外では米国のGreenlightや英国のGoHenryを筆頭に多くのサービスが生まれており、複数のユニコーンも誕生している。
日本でも先日紹介した「シャトルペイ」や今夏の正式ローンチを予定している「manimo(マニモ)」など、関連するサービスが増えてきた。
複数の選択肢が存在する中で、何が差別化の要素になるのか。堀井氏は「ライセンス」と「カード決済システム」の有無をユーザー体験につながるポイントに挙げる。
「Fintechサービスの難しい点はアプリをローンチして終わりではないということです。ユーザー体験を磨き込んでいく上では、免許を自前で取得しているのか、他社の力を借りているのかによって違いが出てくると考えています。他社の力を借りる場合はその(サービスやシステムの)制約を受ける可能性がある。ユーザー体験を磨ききるためには、自社で免許を取れているかが重要なファクターになると思っています」
「カード決済システムについても同様です。自分たちは約1年半の期間をかけてカード発行のシステムやユーザーの残高を管理する勘定系のシステム、プロセシングの仕組みなどを自社で構築してきました。だからこそユーザーのデータを集めたり、決済周りの仕組みを自前で実行できるんです」(堀井氏)
もっとも、ユーザー体験の面で多少の違いは生じたとしても「基本的な部分については模倣できる」というのが堀井氏の考えだ。
「この領域は完全なWinner takes all(勝者総取り)の市場にはならないとしても、それに近い市場にはなりうると考えています。複数のサービスが出てきたとしても、ほとんどのユーザーは家族や親子で家計を管理するサービスは1つしか使わないはずです。そうなるといかに先に面を抑えた上で、継続して使ってもらえるかが重要になる。今回20億円を調達したのは、資金面でも相手に負けないような体制を作ることが大きな目的でした」(堀井氏)
スマートバンクでは今回調達した資金を活用しながらペアカードを軸に事業を拡大し、2023年末までに100万ダウンロードの突破を目指す方針。「共同でキャッシュレスの家計管理をする新市場」の開拓に向けて取り組んでいくという。
