Photo: RedVector / Getty Images
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  • 「本音が言えない」「本音が聞けない」問題をテクノロジーで解決
  • 今後はスモールチーム版のプロダクトも開発予定

リモートワークの普及や従業員の価値観の多様化──こうした理由を背景に、近年1on1(上司と部下で行う定期的な1対1のミーティング)に取り組む企業は増加傾向にある。リクルートマネジメントソリューションズが実施した「1on1ミーティング導入の実態調査」によれば、7割近くの企業が1on1を施策として導入しているという。

一方で、1on1での課題も生じている。同調査によれば、回答者の47.2%が「上司の面談スキルの不足」、44.6%が「上司負荷の高まり」を課題として挙げた。

1on1支援クラウド「Kakeai」
1on1クラウド「Kakeai」

1on1に取り組む企業が抱えがちな課題を解決するツールとして、ニーズが高まっているのが1on1クラウド「Kakeai(カケアイ)」だ。コロナ禍をきっかけに、アサヒグループホールディングス、伊藤忠商事、NTTコミュニケーションズ、日本郵船、富士通などの大企業がKakeaiを導入。現在、合計100社にツールが導入されている。価格は5名までが月額5万円、6〜100名までが月額10万円(ともに税込)、100名以上は個別の見積もりとなっている。

運営元であるKAKEAIは7月13日、モバイル・インターネットキャピタル、DBJキャピタル、博報堂DYベンチャーズ、SMBCベンチャーキャピタルなどを引受先とした第三者割当増資によって、総額11億円の資金調達を実施したことを発表した。今回、調達した資金はプロダクト強化とマーケティング活動に充てる予定だという。

「本音が言えない」「本音が聞けない」問題をテクノロジーで解決

KAKEAIの設立は2018年4月。代表取締役社長兼CEOの本田英貴氏は、リクルートを経て、複数のベンチャー企業の役員を務めた人物だ。リクルート時代にマネージャーとして、メンバーのマネジメントに苦しみ、失敗した経験から「属人性があるがゆえに起こりがちなマネジメントの失敗をテクノロジーでなくす」と考え、KAKEAIを立ち上げた。

同社が提供するKakeaiは、立場や経験の違いによって生じる「本音が言えない・聞けな い」という問題や、継続的な1on1を実行するにあたって生じる「スケジュール調整や事前準備の負担」、部下とのコミュニ ケーション改善へ向けた「具体的なアクションがわからない」という問題を解決する仕組みを備えたツールだ。

例えば、1on1のスケジュール調整に関してはOutlookやGoogleカレンダーといった既存のカレンダーツールと同期すれば、Kakeai内で手軽に調整することができる。

また、調整をする際、Kakeai独自の仕組みがある。それが1on1の依頼をする側が、話したいトピックを事前に選定するというもの。「今後のキャリア」「人間関係」「心身の状態」といった複数のトピックの中から、1on1で話したいものを選択する。これにより、1on1を設定された側が感じる「何を話すのかわからない」といった悩みを解決できる。

「仕組み自体は非常にシンプルですが、事前に話したいトピックを選ぶようにすることで、相手にはっきり言えない要望を伝えることができ、結果的に1on1の生産性を高めることができます」(本田氏)

そして1on1を実施した後は、部下が悩みが解決したかどうかを5段階で評価する。この評価内容はミーティング相手やシステム管理者にも見られない仕組みとなっているが、Kakeai内にデータとして溜まっていき、それによって上司側の苦手なトピックが何かも分かるという。こうしたデータをもとに、Kakeaiでは部下全体の1on1の傾向や、上司の得意や苦手を表すグラフを表示し、上司側が部下との関わり方のズレにいち早く気づき、素早く関わり方の調整に取り組むことができるとのこと。

「また1on1に関するナレッジを投稿する場所も用意されており、苦手なトピックに対しては他社のマネジャーが投稿したナレッジがレコメンドされます」(本田氏)。

Kakeaiを利用したユーザーの8割が「対話の質の向上」を感じているほか、「1on1における心理的・物理的な負担が減った」ことを感じているという。

今後はスモールチーム版のプロダクトも開発予定

当初、Kakeaiは「ピープルマネジメントツール」と銘打ってサービスを展開していたが、コロナ禍で上司と部下のコミュニケーションの難易度がそれまで以上に増したことをきっかけに、2020年春から「1on1」に特化した形でツールを提供することにした。

リモートワークの普及などに伴い、1on1の必要性を感じる企業が増えたことから、問い合わせ数も増えたほか、導入企業数も右肩上がりで増えていったという。

1on1支援に特化したツールとしては、国内には「Teamup(チームアップ)」や「Wistant(ウィスタント)」といったプレーヤーがいるほか、タレントマネジメントシステムの「Talent Palette(タレントパレット)」や「HR Brain」が1on1向け機能を提供している。そういったツールと比較した際、Kakeaiの強みになっているのが「使いやすさ」だという。

KAKEAI代表取締役社長兼CEOの本田英貴氏
KAKEAI代表取締役社長兼CEOの本田英貴氏

「Kakeaiは話したいトピックを事前に選択する仕組みに加え、上司の得意・不得意を表示したり、マネジャーが持つ部下への関わり方のコツをデータベースにストックしたりする仕組みなどは特許を取得しており、それが独自の使いやすさになっています」(本田氏)

そうした点が大きな強みとなっており、他ツールと比較・検討された際も「(今のところ)Kakeaiが100%選ばれている」(本田氏)という。

これまではエンタープライズ向けにプロダクトの機能開発に取り組んできたKAKEAIだが、最近では地方の中小企業や数人のスモールチームからのニーズも増えているとのこと。そうしたニーズの多様化も踏まえ、今後はスモールチーム版のプロダクトの開発に取り組んでいくほか、1on1自体を社会全体に浸透させていくため、マーケティングにも注力していく。

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1on1クラウド「Kakeai」
KAKEAI代表取締役社長兼CEOの本田英貴氏