
- 相談や問合せが殺到する “700人完全リモート”のスタートアップ
- 遠隔での仕事の見える化 カギは「3種の会話」をオンラインで実現すること
- リモートでもコミュニケーションするコツ チャットを「メール」扱いしないこと
- 心理的安全性を確保する チャットツール上での“雑談”
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、企業のテレワーク(リモートワーク)化が急速に進んでいる。今月16日には緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大されたこともあり、今後この流れが各地で加速していく可能性が高い。リモートワークへ移行することになった企業も多い中で、在宅勤務でも上手く事業を継続するためには何に気をつけるべきなのか。創業期からリモートワークを実践し、現在は約700人のメンバーがフルリモートで働くキャスターのCOO・石倉秀明氏にそのポイントを聞いた。(ライター 大崎真澄)
相談や問合せが殺到する
“700人完全リモート”のスタートアップ
キャスターは「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、オンラインアシスタントサービス「CASTER BIZ」や在宅派遣事業など、リモートワーカーを軸とした複数の事業を手がけるスタートアップだ。
同社のユニークな点は自分たち自身が完全リモートワークを体現していること。チャットサービスやビデオ通話サービスなどを徹底的に活用しながら、約700人のメンバーがオンライン環境で共に働く。昨年からは自社のナレッジを活用して企業のリモートワーク導入を支援する新事業も始めた。
そんな背景もあり、同社にはここ数カ月ほどでリモートワークに関する相談や問い合わせが急増しているという。オフィス勤務から在宅勤務へ移行することを決めた企業が、リモート環境の中でどのように業務を進めていけばいいのかアドバイスを求めているのだ。
キャスターではリモートワークをこれから導入する企業に対して、導入時に押さえておきたいポイントをホワイトペーパーにまとめて公開している。まず最低限の準備事項として「労務管理/人事制度」「コミュニケーションツール」「システム/セキュリティ」についての解説があり、次により良い形で運用するための環境整備に関するノウハウが整理されている。
遠隔での仕事の見える化
カギは「3種の会話」をオンラインで実現すること
石倉氏はリモートワークを上手く回していくためには「コミュニケーションの量と情報の透明性」が不可欠だと話す。石倉氏自身、いろいろな企業の相談を受ける中で「在宅勤務にすることで社員がサボらないか」「どのように業務のマネジメントをすればいいか」といったマネジメントに関する不安を頻繁に聞かれるという。
「姿が見えないことでマネジメントができなくなると考える人は多いですが、それは必ずしも正しくありません。たとえばオフィスにいても自分が1日会議をしていれば、その間に部下がどんな仕事をしていたかはわからない。
実は姿が見えているだけで仕事が見えていたわけではなかった、ということが往々にしてあるんです。まずはその前提を正しく認識することが大切。仕事の見える化はコミュニケーションや情報のオープン化がしっかりされていることが重要で、それは離れた場所にいても十分に実現可能です」(石倉氏)
石倉氏の考えによれば、仕事は大きく「タスク(作業)」と「コミュニケーション」から構成されている。タスクはリモートかどうかにかかわらず、オフィスで働く時と同じようにタスク管理ツールを用いて管理し遂行するだけだという。
リモートでもコミュニケーションするコツ
チャットを「メール」扱いしないこと
一方でリモートの場合に工夫が必要なのがコミュニケーションだ。石倉氏はオフィス内で普段交わされる会話を「業務連絡・報告」「アイデア出しなども含めた相談事」「雑談」の3つに分類した上で、これらの会話をチャットツールやビデオ会議ツールを使いながらいかにオンラインで実現するかがキモになると話す。
「さまざまな企業の方と話をしていると、チャットツールをメール感覚で使っている人が多いことに気づきました。あくまで業務連絡用の手段として使っているため、ちょっとした相談事や雑談をする場所がなくなってしまうんです。それではリモートに移行した途端、一気にコミュニケーションが減り、お互いの状況が見えなくなってしまいます」(石倉氏)
心理的安全性を確保する
チャットツール上での“雑談”
それではチャット上で「オフィスにいるように相談事項や雑談が交わされるような空気」を作るにはどうすればいいのか。キャスターではチャットツールのChatworkやSlackで雑談用のチャンネルをいくつも設けることで、その環境を整えている。
たとえば石倉氏が代表を務めるbosyu(キャスターの子会社)では10人程度のメンバーに対して、雑談用のものだけで数十個のチャンネルをSlack上に作成。パパママチャンネルやサウナチャンネルなどライフスタイルに関するものから、各メンバーが日報よりも細かい粒度で独り言をつぶやく「分報」チャンネルまで幅広い。
「何かあったら一人で溜め込まずに、とりあえず外に吐き出せる環境を用意するようにしています。重要なのは何を言っても大丈夫な雰囲気、いわゆる『心理的安全性』を感じられる空間をチャット上に作ることです。それが定着すると相談事も自然とチャット上で交わされるようになり、会話も増える。何か困ったことがあってもすぐにチャットで共有されれば、早い段階で対応することもできます」(石倉氏)
雑談しやすい雰囲気が根付くと雑談の流れから業務の相談が始まったり、新しいアイデアが生まれることもある。初めから厳密にチャンネルごとでトピックを分けるわけではなく、本格的に業務として話を詰める段階でトピック専用のチャンネルを作成するようにしているそうだ。
キャスターやbosyuでは個人情報などを除き、これらのやりとりを原則としてオープンなチャットグループを通じて行う。チャットベースでのコミュニケーションが活発になると各自の様子が把握しやすくなるので、オフィスで働いていた時よりもむしろ仕事の見える化が進むという。
「リモートになることでその組織の根本的な課題が可視化されるイメージです。姿が見えていただけで十分なコミュニケーションが取れていなかった、誰が何をやっているのか全くわかっていなかったなど実態が見えるようになる。オフィスで勤務していた時は何となくできているという前提で考えがちですが、実はそうじゃないことも多いんです」(石倉氏)
もちろんチャットツールを初めて導入するような場合、慣れるまで多少の時間はかかるだろう。ただ、普段からオフィス内で上述した3種類の会話を気軽に交わしている組織であれば、チャットを上手く使いこなせさえすればリモート環境でもチームをうまくマネジメントしながら事業を進められるという。
リモート環境では「行動ではなく結果をマネジメントする」のが1つのコツ。キャスターでは個々人のミッションと求める結果を予め整理した上で、後はチャットツールを介したコミュニケーションを大事にする以外は基本的にメンバーにやり方を任せているそう。過度に干渉したり、邪魔をしないことでお互いにとって適切な距離感で仕事を進められる環境を意識している。
姿が見えない不安から過度にメンバーを監視するような方向に行ってしまうと、ストレスを感じて働きづらくなるメンバーが出てくる可能性もある。リモートワークを進める上で何かしらの課題が出てきた場合には、マネジメントに対する考え方やコミュニケーションの取り方をアップデートする機会と捉え、思いきったチャレンジをしてみるのがよさそうだ。