Photo: Boris Zhitkov/ Getty Images
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  • HRBPとは、組織における“ミニCHRO”
  • HRBPに求められる「事業への理解」という素養
  • 外部からHRBPを迎える際に重視すべき「2つの視点」
  • LayerXにおけるHRBP事情
  • HRBPに必要なのは”人事以外の経験”

本連載は元メルカリ・現LayerXでHRを担い、スタートアップにおける人事採用経験が豊富な石黒卓弥氏が自身の“採用論”について語っていきます。第4回目は、人事部門におけるHRBP(HRビジネスパートナー)というロール、働き方についてです。

日本では組織人事、戦略人事といった形で紹介されるケースが多い「HRBP」。最近、耳にする機会が増えていると感じる人も多いのではないでしょうか。その理由としては、HRの観点から「事業成長のために」組織に対して異動や評価のオペレーションをプロアクティブに提言し、実行していく役割が必要になってきているからだと考えます。(事業部内にHRBPを設置するケースもありますが、今回はわかりやすくHRと事業の部門を分けるかたちで書き進めます)

「サービスを成長させるためのHR」という考え方が少しずつ定着し、たとえば「あの人はマネージャーよりもプレーヤーの方が貢献できるのではないか」「外からこういう人を採用した方がいいのではないか」といった提案・支援がHRに求められていることが背景にあります。そこで今回は、スタートアップにおけるHRBPについて考えていきたいと思います。

HRBPとは、組織における“ミニCHRO”

まず、HRBPにはどのような役割が期待されているのでしょうか。

簡単にいうと、CEOにとってのCHRO(最高人事責任者)のような役割が、各事業部におけるHRBPです。プロダクトやマーケティングなどを統括する事業部長やプロダクトマネージャーを“ミニCEO”とするのなら、採用、配置、教育、評価、労務対応などを担うHRBPは“ミニCHRO”とも言えるかもしれません。事業成長をHRの側面から推進していく存在です。

つまり、HRBPはHRに関する領域について全般的に把握しておくことが求められます。事業責任者やマネージャーから人事関連の相談を最初に受けるポジションですから、そのタイミングで「これは労務の対応です」「これは研修を組みましょう」「これはアサインメントを見直しましょう」と提案・判断することが求められます。

従業員からネクストキャリアの相談を受けたときの対応も同様です。ときには「新しい環境で頑張ってください」と背中を押すことも求められますが、HRBPとしては「別の事業部にチャンスがあるので、そちらでマネジメントをやってみませんか?」等と提案できることが重要です。各事業部のHRBPと連携をとり、それぞれの組織課題や伸びしろを把握しておく必要があります。

HRBPに求められる「事業への理解」という素養

では、誰をHRBPにアサインするのか。経験者であれば望ましいですが、まだまだ概念として新しいことを考慮すると一般的な考え方は、リクルーターからのキャリアパスを用意することになります。社内には自身がリクルーターとして採用したメンバーがいるわけですから、彼らの得意分野や志向性についても理解しています。

事業の変化に伴い経営陣から「このポジションを採用したい」と言われた際に「採用するのもいいけど、社内のあの人が適任ですよ」というコミュニケーションもとれる。彼ら彼女らのキャリアに責任を持つという意味でも、リクルーターがHRBPに挑戦することは理にかなっていると言えます。

リクルーター以外にもHRBPを任せられる人材は考えられます。

組織が成熟しつつあるメガベンチャーなどでうまくいっているケースを紹介します。事業部で活躍しているメンバーをHRに異動する方法です。HRのスキルはインストールしていく必要がありますが、事業への理解度が高いことはHRBPとして大きなアドバンテージになります。

事業への関わり方としては「プロダクトやマーケティングで事業を成長させる」ということから、「HRサイドから事業を成長させる」ことにシフトチェンジすることになりますが、事業成長という方向性自体は変わりません。現場の最前線でやってきたキーパーソンでもあるので、規模の大小はあれど何かしらの組織課題にはすでに向き合っている場合がほとんどのはずです。伝え方次第で「専門的にHRの部分に携わってみないか」と声をかけたときに受け入れられる可能性は高いでしょう。

また、別の観点になりますが「いずれ経営に関わっていきたい」と考えているのであれば、一度はHRを経験しておくことの重要性を理解しているはずです。会社として大きな意味のある仕事をアサインしていることは伝わると思いますし、ポジティブに受け入れてもらえるのではないでしょうか。

外部からHRBPを迎える際に重視すべき「2つの視点」

外部から迎え入れるケースも考えておきましょう。

ただ、前提として採用自体の難易度も、外部から来たばかりのHRBPが組織でワークするまで導いていくことの難易度は高いです。そもそもHRBPの総人口は少なく、事業理解が必要であるにも関わらずそう簡単ではありません。ですから、HRBPの募集をかけたところで、要件を満たす人材からの応募はなかなか期待できないでしょう。

それでも採用したいのであれば、注視するポイントは2つです。1つは、繰り返しになりますがビジネスモデル、事業への理解があること。あわせて、経験してきた会社の組織サイズや成長フェーズに再現性がありそうかということです。たとえば、従業員数100人規模の会社しか経験していないのに、急に1万人規模の会社を任せることは難しい。組織の規模、特にどのフェーズを経験してきたか、などは見ておきたいポイントです。

もうひとつは、HRBPのプロフェッショナルを探すこと。最近では組織人事の概念が一般化し、研修や集まるイベント等も増えてきているので、これまでと比較して接点がつくりやすくなってきています。

“何をもってプロフェッショナルとするか”は判断の分かれるところですが、たとえば「事業がうまくいかなかったときにリストラクチャリングしたことある」などもHRBPの経験としては大きいです。もう少し具体的にいうと、従業員数100人未満のスタートアップでCHROとして働いている人を、メガベンチャーのHRBPとして迎える方法などもケースによっては有効だと考えます。

LayerXにおけるHRBP事情

ちなみに、LayerXではHRBP相当のポジションとして組織担当HRを配置しています。

構成としては、SaaS事業のバクラク事業部のビジネスサイドに女性メンバー1人、ディベロッパーサイドに元エンジニアメンバー1人、それ以外の部分を私が担当しています。入社初日、つまり「Day1」の入社オリエンテーションのタイミングでアナウンスしています。

相談事は上司やメンターにするのが基本ですが、たとえば「妊娠してつわりがひどく、未婚男性の上長に言いづらい」や「育休はどのタイミングで取得するのがいいですか?」といった相談に個別に対応しています。上長が答えられればベストなのですが、経験豊富で労務知識もあるようなスーパーマネージャーはなかなかいませんからね。同時に、Slackなどのコミュニケーションサービスにおいて、個別ダイレクトメッセージ(DM)は非推奨としているのですが、こういった相談事に関しては「OKだよ」と伝えています。

「この人に相談したら何か解決の糸口が見つかるかも。そうでなくてもまず聞いてほしい」という安心感が必要です。「相談しても、配慮がなく結局自分の上長に話が行って終わるんだよな」というのは避けたいパターン。そうならないように、日々のコミュニケーションを意識しています。

HRBPに必要なのは”人事以外の経験”

私が思う「HRBPとして活躍するために大切なこと」は、“人事以外の経験”です。営業やマーケティングの経験でも、コードを書いた経験でも、極端な話、事業が失敗してしまった経験でもいい。オーナーシップを持って事業牽引に向き合った経験があれば、たとえば事業を成長させるとき、採用が難航することによってもたらされる影響の大きさを認識できますよね。両方の視点を行き来できることで立体的な見方ができるようになります。

ですから、私は組織担当HRの2人には週次の事業部定例会議に参加してもらっていますし、経営会議資料なども行間含め共有するようにしています。事業は常に進化していますから、細かい情報のチューニングは欠かせません。そうしたインプットから「先日キャッチアップしたんですけど、〇〇さんは今後のアサインでこういう方向に興味あるようですが、どう思いますか?」と事業部長に提案型のコミュニケーションが取れるHRBPは、すごく頼もしいと思います。

HRBPは事業成長のためであれば遠慮をしてはいけません。経営陣と同じ目線で戦えるよう、HR関連はもちろんのこと、事業についても自ら積極的にキャッチアップできていることが大切なのではないでしょうか。こうした動きや考え方が増えていくことで、人事と事業がより一体的になり、スタートアップの成功確率を高めていきたいですね。