GMO VenturePartnersの取締役兼ファウンディングパートナーの村松竜氏
GMO VenturePartnersの取締役兼ファウンディングパートナーの村松竜氏。シンガポール在住
  • FinTech×クロスボーダーを軸に投資を拡大、14社のユニコーンが誕生
  • グループの強み活かした「エクイティ+デット」の支援が大きな強みに
  • 投資先の7〜8割は海外を予定、インドは今が千載一遇のチャンス

2005年から6本のファンドを立ち上げ、総額約170億円を運用してきたGMO VenturePartners。過去の投資先からはFinTech(フィンテック)分野を中心に14社のユニコーンが生まれており、そのうち11社が国外企業を占めることからも分かるように、国をまたいだクロスボーダー投資にも力を入れてきた。

「FinTech×クロスボーダー」。GMO VenturePartnersではこの強みを軸に投資活動を加速させるべく、新たにGMO FinTech Fund 7(以下7号ファンド)を設立した。同ファンドでは中間クローズの段階で、GMOインターネットグループ企業や大手金融機関などから113億円を集めている。

GMO VenturePartnersの取締役兼ファウンディングパートナーの村松竜氏によると、7号ファンドのキーワードは「FinTech」「クロスボーダー 」「Debt(デット、融資の提供も可能)」の3つだ。

投資対象をFinTechや脱炭素テック関連スタートアップに絞り込み、“インド太平洋”エリアで投資を進めていく計画。GMO ペイメントゲートウェイが有するFinTech融資の仕組みと連携することで、投資のみならず融資を用いた支援にも力を入れるという。

新ファンドの概要は以下の通りだ。

  • 投資対象国 : インド太平洋エリア(インド・東南アジア・日本・北米)
  • 投資ステージ : シリーズA、B前後を中心にシード期からグロース期まで
  • 投資金額 : 1社あたり1〜3億円中心(状況とステージに応じて500万円から5億円まで対応)
  • 投資社数 : 目安は30〜50社
  • 投資テーマ : FinTech分野、GX(脱炭素/ESG テック)中心にインパクト投資、DX領域など

FinTech×クロスボーダーを軸に投資を拡大、14社のユニコーンが誕生

シンガポール最大のBNPL(後払い決済サービス)企業FinAccel、インドネシア版StripeのXendit、インドの急成長決済スタートアップRazorpay──。

GMO VenturePartnersが投資を実行し、未上場段階で評価額が10億ドルを超えたユニコーン企業は14社にのぼる。その中の9社はシードやシリーズAラウンドといった早い段階から事業の可能性に注目し、投資をしてきた会社だ。

  • Coda Payments(シンガポール / ゲーム特化決済)
  • FinAccel(シンガポール / BNPL)
  • Trusty Cars(シンガポール / マーケットプレイス)
  • Carousell(シンガポール / マーケットプレイス)
  • Xendit(インドネシア / 決済)
  • Razorpay(インド / 決済)
  • Side(アメリカ / 不動産FinTech)
  • Fundbox(アメリカ / インボイスファイナンス)
  • DailyPay(アメリカ / 給与早期払い)
  • Qihoo 360 Technology (中国 / セキュリティ)
  • メルカリ (日本 / マーケットプレイス)
  • Sansan (日本 / SaaS)
  • スマートニュース(日本 / メディア)
  • 社名非公開のアメリカ企業(分野特化型BNPL)

冒頭で触れた通り同社では、これまで6本のファンドを通じて総額約170億円を運用してきた。上記のユニコーンを代表するように大きな成長を遂げる投資先が生まれたことで、回収期に入っている合計約100億円相当分についてはすでに250億円以上を現金で回収済み。さらに300億円以上の含み益がある状況だという。

特に目立つのがFinTech関連の投資先の成長だ。「通常VCファンドはテクノロジーやインターネットという大きな枠は設定しても、FinTechのように具体的な領域まで対象を絞ることはあまりしない」(村松氏)中で、GMO VenturePartnersでは領域を絞り込むことで成果を残してきた。

たとえば現在ユニコーンに成長しているFinAccelやRazorpayは評価額が数億円の頃に出資をしたスタートアップだ。GMO VenturePartnersが約10年前に立ち上げたアジアの決済領域特化のGlobal Payment Fund(約20億円規模)からも、このファンドのみでユニコーンが数社誕生。投資時に比べて時価総額が約300倍に拡大した投資先も存在する。

背景にあるのは「領域特化」「クロスボーダー」といった、従来は「タブーとされることもあり、比較的珍しかった」(村松氏)ファンドの戦略だ。

「同じ領域の場合、(国を超えて)成功パターンや法則が似通ってくる側面があります。たとえばアメリカでBNPLの市場が盛り上がってくると、その次に同じような事業がインドや東南アジアにも広がっていく。タイムマシンモデルとも言われるような構造です。FinTechの領域を横串で見ていくことで、成長するための重要なポイントがわかった状態からスタートできます。そのためデューデリジェンスをショートカットできますし、各社の事業についてもより深く理解しやすいです」(村松氏)

法規制や既存のインフラなど国ごとに違いはあれど、“お金”や“金融”自体はグローバルで共通する概念だ。「与信(クレジットギャップ)」を始めとしたFinTechスタートアップが解決しようとしている大きな課題も「万国共通のもの」(村松氏)だという。

海外の急成長企業に初期段階から投資ができている要因としては、もともとGMO ペイメントゲートウェイなどのグループ会社を通じてFinTech領域の知見があったことも大きい。

村松氏自身も1999年にカード決済代行スタートアップのペイメント・ワンを創業し、その後同社が別会社と経営統合して誕生したGMOペイメントゲートウェイでは取締役副社長を務める。

「(FinTech領域で)自分たち自身がビジネスをやってきたからこそ、話を聞くとその事業の構造や可能性が大体わかります。スタートアップ側からもその点に価値を感じてもらえることが多いですし、実績が増えていくに伴って同業のVCからも『決済といえば村松』といったかたちで、投資先候補の目利きをして欲しいと相談されることが増えていきました」(村松氏)

グループの強み活かした「エクイティ+デット」の支援が大きな強みに

数年前からはGMOペイメントゲートウェイと連携し、グループとしてエクイティだけでなく「デット(融資)による支援」も始めた。今回の新ファンドの1つの特徴にもなるが、実はデットも絡めた支援スタイルが成果に結びついているのだという。

枠組みはこうだ。GMOペイメントゲートウェイではFinTech領域に特化して、“貸し出し用の資金”を融資している。すでにエクイティで出資しているスタートアップに対して融資をするパターンもあれば、融資をしたスタートアップにその後エクイティで出資するパターンもある。

前者についてはFinAccelがその代表例だ。BNPLを成長させていく上で必要な資金を貸し出すことで事業の成長を支えた。後者については融資から入ることで米国の急成長企業に出資できたケースが2件あるほか、直近ではインドで決済サービス「Slice」を展開するユニコーンのGaragePreneurs Internetにも同様の枠組みで出資をしている。

「FinTechの多くの企業には資金のギャップが存在します。融資型のサービスであれば先に(貸し出し用の)お金が必要になりますし、決済ビジネスも加盟店からお金が支払われるのは1カ月後だったりする。彼らは債権をたくさん保有しているので、それを担保に融資をするような取り組みをやってきました」

「実際にアジアのFinTech系スタートアップからは、投資だけではなく彼らが必要としているグロース用のデットもつけられる点に価値を感じてもらえています。魅力的な案件は複数の投資家の間で競争になりますが、その中に自分たちが入れているのは(デットの選択肢も含めて)戦略的に有用だからという理由も大きいです」(村松氏)

GMOペイメントゲートウェイは約10人の“グローバルフィンテックデット部隊” が海外の融資先の開拓をしている。融資を通じて得られる情報からは「エクイティ調達が必要になる時期」の見通しもつくため、そのタイミングを早めに察知して手を挙げられるのだという。

しかも「デットのデューデリジェンスが終わっているため、その会社のことがわかった状態」(村松氏)であり、融資を通じて一定の信頼関係が構築できている。だからこそ投資のコミュニケーションやプロセスも早められる。

今回のファンドの運用額や別ファンドのユニコーン投資枠、そしてGMOペイメントゲートウェイが有するFinTech融資用の資金などを含めると、投融資の原資は総額で500億円規模になるとのこと。この規模感はFinTech関連としてはアジアでも有数の規模だ。

投資先の7〜8割は海外を予定、インドは今が千載一遇のチャンス

新ファンドでは脱炭素関連など金融領域外のスタートアップにも投資をするが、“広義のFinTech”が主な対象だ。

メルカリにおける「メルペイ」がわかりやすい例だが、近年はさまざまな企業が成長に伴ってFinTech領域へと事業を拡張していく動きが目立つ。GMO VenturePartnersとしても「FinTech企業への投資か、(それ以外の企業の)FinTech化を応援する目的での投資に力を入れていく方針」(村松氏)だ。

すでに新ファンドからはインドのBtoB FinTech企業や農業FinTech企業、インドネシアの決済スタートアップ、日本のアスエネなどに出資が決定している。アスエネは企業のCO2排出量の算出や削減をサポートするサービスを手掛ける脱炭素領域のスタートアップだが、同社については「今後その流れの中で(既存事業に)金融がひもづいていく」ことも見据えた上での投資だ。

地域としては海外に比重を置き、投資先の7〜8割程度は国外スタートアップになる予定。海外中心で投資を進めていくために、今回はケイマン籍のファンドを選んだ。

特にインドは注力ポイントの1つで「(海外のうちの)約半分はインドのスタートアップに投資をしたい」(村松氏)という。直近ではインドも含めて市況が悪化しており、スタートアップへの投資も落ち着いてきている状況だが「今が千載一遇の投資チャンス」だと村松氏は話す。

「インドや東南アジアの急速な経済成長と、デジタルが世界を覆い尽くしている流れの中で『(このような地域での)FinTech』というのは完全に確定している未来であり、外しようがない長期トレンドだと考えています。だからこそ、去年までは恐ろしいくらいの資金がインドや東南アジアに集まり、その結果として自分たちが手をつけられないようなバリュエーションになったり、1チケットが10億円規模じゃなければそもそも投資ができないと言われたりするようなこともありました」

「ただここ数カ月でその状況が変わってきています。多くのファンドが投資をスローダウンした結果、(バリュエーションの観点なども含めて)自分たちがスタートアップと話をしやすくなりました。インドではこのような変化が5年に1回くらいの頻度で起こるのですが、大体は半年ほどすれば元の状況に戻ってしまう。だから投資をするには今がチャンスだと思っています」(村松氏)

GMO VenturePartnersではインドや東南アジアを筆頭に、インド太平洋エリアでの投資を加速させ、2030年までに同地域において10社以上の社会課題解決型のユニコーンの創出を目指す。