メンタルヘルスケアサービス「Unlace」。チャット型のオンラインカウンセリングを軸に、無料の心理診断やジャーナリングの機能などを提供している
メンタルヘルスケアサービス「Unlace」。オンラインカウンセリング機能を軸に、無料の心理診断やジャーナリングの機能なども提供している
  • 気軽に相談できる定額制のテキストチャット型カウンセリング
  • ユーザーは20〜30代が中心、約半数は通院経験なし
  • 日常の延長線で使ってもらえるメンタルヘルスケアサービスへ

わざわざ通院しなくても、必要な時にオンライン上で気軽にカウンセラーへ悩みを相談できる──。 これまで敷居が高かったメンタルヘルスケアの在り方を変える「オンラインカウンセリング」サービスが国内でも広がってきている。

2020年創業のUnlaceもこの領域で事業を展開する1社だ。相談者とカウンセラーをマッチングするチャット形式のオンラインカウンセリングサービス「Unlace」を2020年12月から展開してきた。

自分自身の心理状態や悩みの原因を知ることができる無料の診断機能に加えて、直近では認知行動療法に基づいたセルフケア機能を実装。“生活に馴染むメンタルヘルスケアサービス”への進化を目指して機能拡張を進めている。

そのUnlaceがプロダクト開発やマーケティング活動、人材採用へのさらなる投資に向けてZ Venture Capital、デライト・ベンチャーズ、Scrum Venturesから2.1億円を調達した。

気軽に相談できる定額制のテキストチャット型カウンセリング

Unlaceは月額2万2000円(2週間のトライアルは8800円)で使えるサブスクリプション型のオンラインカウンセリングサービスとしてスタートした。

Unlaceのイメージ

特徴はビデオ通話だけでなく、テキストチャットベースでカウンセラーに相談できること。顔を出さなくてもカウンセラーとやり取りできるため、ユーザーにはテキストチャットが好評で、基本的にはテキストベースでのコミュニケーションが用いられているという。

カウンセラーは運営が紹介する形式ではなく、不安や悩みなどの相談内容を基に最適なカウンセラーがマッチングされる。

Unlaceがこの領域で事業を立ち上げるきっかけとなったのが、代表取締役の前田康太氏自身が起業後に鬱に悩まされたことだ。前田氏は「Pairs」を運営するエウレカでサービスの事業開発の責任者や、新規事業の事業責任者を経験。2020年1月に起業の道を選択した。

Unlace代表取締役の前田康太氏
Unlace代表取締役の前田康太氏

不調の原因となったのは、起業後に挑戦した新規事業がうまくいかなかったことが大きい。開発費用を賄うための仕事に多くの時間を費やす中で、前職時代とは異なり身近に相談できる人もおらず、次第に体調を崩していった。

最終的には精神科を受診し、抑うつ型の自律神経失調症と診断されたが、実は病院に行くことを検討し始めてから、実際に行動するまでには1カ月ほどの期間を要した。

背景にあったのが「心の病気は弱い人がなるもの」という考えだ。その考えから病気であることを誰かに相談することもなく、病院に行くことにも抵抗を感じていたと前田氏は当時を振り返る。

前田氏が自らの原体験も踏まえて行き着いたのが、日本ではメンタルヘルスケアの敷居が高く、「心の病気というものにスティグマ(負のイメージ)」があるということ。心の病気を抱えていることが会社や周囲の人に知られると不利益を被るかもしれない──。そういった社会的なスティグマをなくしたいと考えるようになった。

ユーザーは20〜30代が中心、約半数は通院経験なし

「スティグマをなくす」挑戦は、前職でPairsに携わっていた際にも経験したものだ。今でこそ社会的な認知度が高まってきたマッチングサービスも、数年前までは“出会い系の危ないサービス”ととらえられることの方が多かった。

Pairsが少しずつマッチングサービスのイメージを変えたように、Unlaceでもメンタルヘルスに対するイメージを変えていきたい。その思いから、“気軽に相談ができる社会”を目指してオンラインカウンセリングサービスを立ち上げた。

匿名で顔を出す必要もなく、チャットを通じて好きなタイミングで連絡ができる。その特性もあって、Unlaceのユーザーはチャットでのコミュニケーションに慣れている20〜30代が中心だ。

家族と一緒に暮らしていると、ビデオ通話や音声通話によるカウンセリングには抵抗があるがテキストチャットなら使いやすい、という理由でUnlaceを活用するユーザーもいる。実際に課金して利用しているユーザーの約半数はこれまで通院経験がなかった人たちで、相談内容の多くはプライベートに関するものだという。

しばらくサービスを運営していると、「漠然と相談したいという思いは持っているものの、具体的にどのようなかたちで相談をすればいいのかが分からず一歩踏み出せないでいる人たち」が一定数存在することがわかった。

そこで新機能として取り入れたのが、学術論文を基に心理状態を無料で診断できる仕組みだ。オンライン上の診断コンテンツを通じて眠りの状態やストレスの状態、認知の歪みなど自分自身を客観的に分析できるのが特徴。今では毎月約1万件の利用があるという。

心理診断などの無料サービスも含めると、サービスの登録者数は2021年6月から2022年6月にかけて約500%増加しており、「オンラインカウンセリングの需要は確実にある」と前田氏は話す。

日常の延長線で使ってもらえるメンタルヘルスケアサービスへ

Unlaceではこの6月にサービスデザインのリニューアルを実施した。オンラインカウンセリングや診断機能は残しつつも、“セルフケア”を後押しする仕組みの第一弾として「ジャーナリング」機能を新たに組み込んだ。

これは日記の延長のようなかたちで日々の出来事や感情を記録していくことで、結果として認知行動療法の効果を得られるというもの。メンタルヘルスケアのために認知行動療法を新しく始めるのではなく、「日々の生活で既に行っていることに少し取り入れるだけで症状の改善につながる」ことを目指している。

ジャーナリング機能のイメージ
ジャーナリング機能のイメージ

「オンラインカウンセリング自体の需要を感じている一方で、依然としてまだまだ敷居が高いとも感じています。いろいろな角度から試行錯誤する中で気づいたのが、(カウンセリングの)非日常性が課題の本質なのではないかということ。ただでさえ精神的に辛いと感じている時に、オンラインカウンセリングで相談するという新しいことに取り組むのは大変です。(解決しなければならない課題は)スティグマだけではないと気付きました」(前田氏)

Unlaceとしては今後「シンプルなオンラインカウンセリングサービス」から「日常の延長線で使ってもらえるメンタルヘルスケアサービス」へと拡張する方向で機能の拡充を進めていく計画。今回の資金調達もそれに向けたものだという。

冒頭で触れた通り、メンタルヘルスケア領域のサービスが国内でも増えてきた。オンラインカウンセリング関連では2014年からサービスを展開する「cotree」やアバターを介して心理士に相談できる「メンケア」がある。7月にサービスを開始した「mentally」は同じ悩みや経験を乗り越えた当事者(メンター)に相談できるサービスだ。

別のアプローチとしては「emol」や「PATONA」のように“AIとの会話”を通じて感情の整理や心のケアができるサービスも出てきている。