
- 火星コロニーの成功確率は
- AI技術の可能性と脅威
- AIと人間の“共生体”とは
- 多種多様な領域に挑むマスク氏の「時間の過ごし方」
電気自動車大手・TeslaのCEOを務める傍ら、宇宙開発ベンチャーのSpaceXや脳に埋め込むデバイスを開発するNeuralink、加えてAIを研究する非営利団体であるOpenAIなどの共同創業者としての顔も併せ持つ、イーロン・マスク氏。
マスク氏は2016年、米名門アクセラレーター・Y Combinatorの元プレジデント、サム・アルトマン氏のインタビューで、自身の原点を振り返った。ビジネスとテクノロジー、その両方に精通するマスク氏による最新技術の考察からは、6年近くたった今でも多くの学びを得られる。
前編ではマスク氏が、多種多様な事業領域に挑戦する理由や、注力する領域を選ぶ方法について話した。後編では、火星コロニーの実現やAI技術の可能性と脅威、自身の時間の過ごし方などについて語る。
火星コロニーの成功確率は
サム・アルトマン氏(以下、サム):現時点で、火星コロニーの成功確率はどれくらいだと思いますか。
イーロン・マスク氏(以下、イーロン):まあ、不思議なことに、実際にはかなり良い確率だと思います。
サム:それで、いつ行けるんですか。
イーロン:今のところ、自立した火星コロニーを成功させる方法はあると確信しています。数年前までは、成功する可能性があるかどうかすら分からなかったのですが、今は可能だと確信しています。火星にある程度の人数を送るということは、10年程度で達成できる可能性があると思います。ひょっとすると、もっと早いかもしれません。その間にSpaceXが死なないように、そして私が死なないように、あるいは私が死んでもそれを継続する人が引き継げるようにしなければなりません。
サム:最初の打ち上げに行くべきではないですね。
イーロン:その通りです。どうせ最初の打ち上げはロボットによるものとなるでしょう。
サム:インターネットの遅延がなければ行きたいですね。
イーロン:遅延はかなり大きいでしょうね。火星は太陽からおよそ12光分、地球は8光分です。ですから、火星に最も近づくと4光分、最も遠いと20光分の距離になります。太陽越しには通信できないので、もう少し遠くなるでしょう。
AI技術の可能性と脅威
サム:本当に重要な課題といえば、AIです。あなたはAIについて発言してきましたが、AIのポジティブな未来はどのようなもので、どうすればそこにたどり着けるのでしょうか。
イーロン:私が強調したいのは、これは私の主張ではなく、あくまでも予測です。他の誰かがより良いアプローチや結果を思いつくかもしれませんが、私が思いつく最善の選択肢は、AIの民主化を達成すること。つまり、1つの企業や少数の個人グループが高度なAI技術を支配することがないようにすることです
邪悪な独裁者などにAIが奪われてしまう可能性もあります。ある国は諜報機関を送り込み、AIを盗んで支配権を得るかもしれません。邪悪な独裁者が強力なAIを手に入れた場合、世界は非常に不安定な状況になると思います。
AIが自分の意志を持つようになることが危険なのではなく、誰かがそれを悪用したり、悪用するつもりがなくても、誰かがそのAIを奪って悪い方向に利用したりすることが懸念されるのです。これはかなり危険です。
AIと人間の“共生体”とは
イーロン:私はAI技術を民主化し、広く利用できるようにしなければならないと考えています。私や他のチームメンバーがOpenAI(人工知能について研究する非営利団体)を作ったのは、AI技術が一部の人の手に集中しないよう、普及させるためなのです。しかし、もちろんそれは、大脳皮質への広帯域インターフェースの解決と組み合わされる必要があります。
サム:人間は遅い。
イーロン:人間が遅いのはその通りですが、私たちの脳にはすでに大脳皮質と大脳辺縁系がある状態なのです。大脳辺縁系は原始脳で、本能のようなものをつかさどります。そして大脳皮質は、脳の上部にある思考する部分です。この2つは非常によく連動しているように見えます。意見が合わない時もありますが。
サム:だいたい、うまく機能していますね。
イーロン:大脳皮質をなくしたい、大脳辺縁系をなくしたいと思う人は、めったにいませんね。
サム:その通り。
イーロン:大脳皮質とデジタル拡張の神経接続を改善することで 、AIと効果的に融合することができます。これはすでに存在していますが、帯域幅の問題があるだけです。そして、AIと人間の共生体が普及すれば、欲しい人は誰でも手に入れることができ、制御の問題も解決します。私たちは、邪悪な独裁者やAIの暴走を心配する必要がありません。なぜなら、私たちが集合的にAIになるからです。それが、私が考えるベストな結果です。
OpenAIは非営利団体として構成されていますが、多くの非営利団体は、危機感を持ちません。OpenAIは、みんながミッションを信じているので、危機感を持つ必要がないのです。それは重要なことであり、将来的な実害のリスクを最小化することだと思います。私は、みんながやっていることと才能のレベルにとても感銘を受けています。そして私たちは常に、このミッションを信じる素晴らしい仲間を探しています。
多種多様な領域に挑むマスク氏の「時間の過ごし方」
サム:では最後にもう少しだけ質問を。毎日をどのように過ごしていますか。何に一番時間を割いていますか。
イーロン:SpaceXとTeslaの間でほとんど分割されていて、毎週の一部をOpenAIで過ごすようにしています。ですから、基本的にほとんどの週は半日をOpenAIで過ごし、平日もOpenAIの用事が入っています。でもそれ以外は、SpaceXとTeslaです。
サム:SpaceXやTeslaにいるときは何をしているのですか。そこでの時間はどのようなものですか。
イーロン:いい質問ですね。多くの人は、私がメディアやビジネスのことに多くの時間を費やしているに違いないと思っているようですが、実は私の時間のほとんどすべて、8割はエンジニアリングとデザインに費やされています。つまり、次世代製品の開発ですね。
サム:覚えていないかもしれませんが、何年も前に、あなたは私をSpaceXのツアーに連れて行ってくれましたね。最も印象的だったのは、あなたがロケットの細部やそこに投入されるエンジニアリングの一つひとつを知り尽くしていたことです。そのことを理解している人はあまりいないと思います。
イーロン:多くの人が、私のことをビジネスパーソンか何かだと思っているようです。それはそれでいいんです。SpaceXでは、グウィン・ショットウェルが最高執行責任者(COO)を務めています。私は、宇宙船のFalcon 9とDragonの改良、そして火星植民地アーキテクチャの開発に取り組んでいるエンジニアリング・チームと一緒にいます。
Teslaでは、Model 3の開発と、デザインスタジオで週に半日ほどデザインやルック&フィールに関わる仕事をしています。そして、残りの週のほとんどは、車自体のエンジニアリングと、工場のエンジニアリングを進めています。今年私が得た最大の啓示は、本当に重要なのは、自動車を作るための工場の機械であり、それは少なくとも自動車そのものよりも一段と難しいということです。
サム:ここ(編集部注:インタビューは米国・カリフォルニア州にあるTeslaの工場で実施された)で車を作るロボットを見て驚きました。
イーロン:この設備は、Model 3を作るギガファクトリーに搭載されるものと比べると自動化のレベルは比較的低いですね。
サム:このラインのスピードはどのくらいですか?
イーロン:ラインの平均速度は信じられないほど遅いです。おそらく、Model XとSの両方を含めると、1秒間に5センチメートルくらいでしょう。これはとても遅いです。
サム:この先、どうなりますか。
イーロン:少なくとも秒速1メートルは出せると思います。20倍ですね。
サム:それはとても速くなりますね。
イーロン:そうですね。秒速1メートルはゆっくり歩く速度だと思います。早歩きは秒速1.5メートルで、最も速い人は1秒で10メートル走れます。もし私たちが秒速0.5メートルしか出せないとしたら、それはとても遅いです。秒速1メートルでも生産ラインより速く歩けるでしょう。