
- 危険な状態をAIで検知、マシンの利用率やリアルタイムの混雑状況も可視化
- 将来的には「Amazon Goのような世界観のフィットネス施設」の実現へ
専用カメラと危険察知AIを軸に“フィットネスジムのAI化”をサポートし、運営コストの削減と会員の満足度向上を後押しする──。フィットネスジムにテクノロジーを持ち込むことで、業界に新しい風を吹き込もうとしているのが名古屋発スタートアップのOpt Fitだ。
現在同社の主力サービスとなっているのが、AI監視ソリューションを中心とした「GYMDX」。ジム内に設置したカメラで取得したデータをAIが解析し、会員の危険な状態をいち早く察知することで、安全面を担保しながら監視業務のコストを抑える。
特に近年増加している24時間型のジムでは夜間の安全面が課題になりやすい。既存の警備会社やセキュリティシステムとは異なる選択肢としても注目を集め、RIZAPを始め累計で100施設以上への導入が進んでいる。
GYMDXでは会員へリアルタイムでマシンの混雑状況を配信する機能や、マシンの利用状況を可視化することでデータに基づいたジム経営ができる機能なども提供している。今後はシンプルな“AI監視サービス”を超えた「ジムのDXソリューション」として、さらなる機能拡張を目指していく計画だ。
そのための資金として、Opt Fitはディープコア、STATION Ai Central Japan 1号ファンド、ゼロイチキャピタルを引受先とした資金調達を実施した。金融機関からの融資を合わせた調達額は1億9500万円になるという。
危険な状態をAIで検知、マシンの利用率やリアルタイムの混雑状況も可視化

Opt Fitではジム内に設置した複数のカメラで取得した映像を用いて、利用者の危険な状況を自動で検知する技術を保有している。
ジムにおける実際の危険検知の流れはこうだ。システムが危険を検知すると有人の施設であれば施設内のスタッフに、無人施設であればOpt Fitの監視センターに通知が届く。危険を検知したシーンに関する10秒間の映像が自動で生成されるため、まずはそれを見て会員の状態を確かめる。10秒間の映像だけではわからない場合は、リアルタイムの映像に切り替えることも可能だ。
最終的に危険な状態だと判断した場合にはジムのスタッフが直接確認するか、監視代行を請け負っているOpt Fitのスタッフが遠隔から救急車などを手配する。
上述した通り、近年は夜間などにスタッフがいない24時間型のジムも増えてきている。Opt Fit代表取締役CEOの渡邉昂希氏によると通常は警備システムやセキュリティシステムを導入している施設が多いものの、誰かがボタンを押すことで通報される仕組みになっているため「1人でトレーニングをしている際などは、危険な状態に陥っても気づいてもらえない可能性がある」という。
実際に2021年には24時間型のジムでスタッフがいない時間帯に利用者がバーベルに首を挟まれ、意識不明になるような事態も発生した。「ジムの効率的な運営と安全面の担保の両立」は大きな課題の1つだ。
「Opt Fitのシステムの場合は(利用者が)自分でボタンを押さなくても、AIが危険な状態を検知します。フィットネス施設だからこそ発生しうる危険から利用者を守っていく仕組みが1番のストロングポイント。まずは安全安心なジムライフを送れる支援をすることが最初のミッションです」(渡邉氏)
Opt Fitのシステムは24時間型のジムに加えて有人型の施設でも導入が進んでいる。従来、専門の監視スタッフを雇っていた施設ではコスト削減を見込めるほか、会員のサポートなどにスタッフの時間を使えるようになるというメリットもあるそうだ。

またカメラから取得した映像データは危険察知以外の手段にも活かせる。たとえばOpt Fitではマシンごとの利用率を細かく分析できる仕組みをジム向けに提供。「実際にニーズのあるエリアやマシンが何かをロジカルに判断できる」(渡邉氏)ことで、新規出店の際などもデータに基づいた意思決定ができる。
人の動向をAIで検知する技術を活用し、ジムの利用者向けに「エリアやマシンごとの混雑状況」をリアルタイムで可視化する仕組みも作った。
将来的には「Amazon Goのような世界観のフィットネス施設」の実現へ

スタートアップを立ち上げるという観点では、Opt Fitは渡邉氏にとって2度目の挑戦になる。
渡邉氏は4歳から大学4年生まで続けた水泳競技を引退後、新卒で入社したベーシックでメディア事業やSaaS事業に携わってきた。最初の起業はその経験を掛け合わせた「スイミングスクール向けのメディア事業」。その後同事業を上場企業へ売却し、2020年3月にOpt Fitを立ち上げた。
「(メディア事業では)スイミングスクール施設を運営する方々のお話をよく伺っていたのですが、その施設の多くが複合型でフィットネス施設も運営していたため、間接的にフィットネスジムに関する議論を頻繁にしていたんです。そこで監視業務の課題や何十年も同じ運営方法のままでデータを有効活用できていないといった課題を聞き、『フィットネスジムをより革新的な施設へとリメイクできるような事業ができないか』と考えるようになりました」(渡邉氏)
約30施設にヒアリングをしていた中で課題が大きく、これといった代替手段も見つからなかったのが監視の領域だ。愛知県のスタートアップコミュニティをきっかけに出会ったトヨタシステムズ出身のエンジニア・荒川準也氏(取締役CTO)や森田尚也氏(取締役)と共同創業するかたちで、監視領域の課題解決につながるサービス作りを始めた。
今後は国内のフィットネス施設への導入を増やしていきながら、並行してプロダクトの機能拡張も進めていく方針。利用者がジムに通うきっかけになるような機能の開発にも力を入れていきたいという。
「専用のアプリを登録してジムでトレーニングをするだけで、自動でその日のトレーニング内容がアプリに蓄積され、自分の理想に合わせた提案をしてもらえる。将来的には『Amazon Goのような世界観のフィットネス施設』を後付けでも実現できるような仕組みを作れないかと考えています。まずは今回調達した資金も活用しながら研究開発に取り組み、そこにつながるような機能を模索していきたいです」(渡邉氏)