Ubie共同代表取締役・エンジニアの久保恒太氏(左)と共同代表取締役・医師の阿部吉倫氏(右)
Ubie代表取締役・エンジニアの久保恒太氏(左)と代表取締役・医師の阿部吉倫氏(右)。同社は阿部氏、久保氏の共同代表となっている
  • 3つのサービスで生活者と医療機関に適切な医療を提案
  • 製薬企業との協業で患者と治療法をつなぐ
  • ビジネスの「きも」はSaaSではなく、製薬会社のマーケティング

医療のひっ迫──この表現が、最近、とみに聞こえてくるようになった。新型コロナウイルス感染症に罹患してしまった、またはそうかもしれないという人たちで発熱外来があふれ、検査の多さや病床使用率の高まりから、医療従事者たちが休む間もなく対応に追われていることに起因する。

患者となり得る人(以下、生活者)は、元来、自分の症状からどの病気なのかを判断することが難しいし、そのため病院を選ぶのも難しい。特に最近では、感染症対策のため、受診には予約を必須とする病院が増えたこともあり、病院へ足を運ぶのが、より難しくなっている。それは、重症化へとつながるおそれがある。

これらの課題を解決するためにスタートアップのUbie(ユビー)が提供しているのが、医療機関向け「ユビーAI問診」と生活者向け症状検索エンジン「ユビー」だ。

そのUbieが第三者割当増資で35億円の資金調達を実施した。既存株主のスズケンに加えて、新規に農林中金キャピタル、NVenture Capital、第一生命保険、エッグフォワードが投資に加わった。これにより、累計調達額は79.8億円となった。同社にとってシリーズCとなる今回の資金調達だが、現時点ではファーストクローズとしており、今後のファイナンスも視野に入れている。

では、なぜこのタイミングで資金調達を実施したのだろうか。既存のユビーAI問診やユビーは、どのように医療従事者や生活者が抱える悩みを解決するのだろうか。Ubie共同代表取締役で医師の阿部吉倫氏に聞いた。

3つのサービスで生活者と医療機関に適切な医療を提案

現在、Ubieが提供しているサービスは3つある。医療機関向けの「ユビーAI問診」、生活者向けの症状検索エンジン「ユビー」、そして医療機関と生活者向けのサービスである「ユビーリンク」だ。

ユビーAI問診は、紙の問診票に変わるものとなる。来院予定のある患者に、手持ちのスマートフォンでウェブ問診をしてもらうことで待ち時間を減らすことができ、コロナ感染拡大防止にもつながる。来院前にウェブ問診を行えなかった場合でも、院内にタブレットを備えれば同様のウェブ問診を受けてもらえる。

問診結果はそのまま医師に共有されるため、イチから患者に聴取する必要がない。その結果、問診時間の削減につながるうえ、問診内容が文章に変換されるため、電子カルテへの記載にかかっていた時間を短縮させることができる。日本頭痛学会抄録によれば、初診問診の時間が約10.2分から3分の1の約3.5分に短縮された。これにより、医師1人あたり年間約1000時間の業務削減が可能になる。

症状検索のユビーは、生活者が体に違和感を覚えた際、ウェブブラウザまたはアプリを使って、自分の症状を選択していくだけで(途中、不具合のある箇所を入力することで症状を絞り込む箇所もある)、関連する病名や適切な受診先情報を調べられ、それにより受診を促すサービスだ。MAUは現在500万人。選べる症状はウェブブラウザなら3つ、アプリなら5つになる。最も関連があると思われる病名から順に表示され、病名詳細をタップまたはクリックして開くと、生活者が選択した以外の症状も表示される。これにより、自分に当てはまっているかどうかの参考にしやすくなる。

ユビーが地域のクリニック、かかりつけ医の中から適切な医療機関情報を提供するため、生活者は、かかりつけ医や地域のクリニックなどからどこを選べばよいのか判断したり悩んだりする手間を省くことができる。加えて、#7119などの救急相談センターや厚生労働省といった公的な電話相談窓口への案内も行う。

ユビーリンクは、医療機関の詳細情報を生活者向けサービスであるユビーで表示し、予約しやすくする、あるいは症状チェック結果を医療機関へ事前に共有するなど、裏方のサービスとなる。医療機関の導入は無料で、全国47都道府県にある医療機関の15%が導入する。

阿部氏は、Ubieを起業した理由について「自覚症状があっても病気だと認識できず放置されたままの病気を治してもらいたかった」と言う。そんな病気の1つが「HAE(遺伝性血管性浮腫)」だ。

「全国に2500人の患者がいるはずなのに、治療しているのはわずか450人。しかも、自覚症状が出始めてから受診までに平均で13.8年もかかっています。患者が受診しようとしないのか、患者数が少ないため医者がその病気を知らないのか、はたまた知っていても知識をアップデートしておらず古い治療を施しているのかもしれません」

「HAEに限らず、患者数の少ない病気では、情報が少ない。このような病気を顕在化させ、テクノロジーで人々に適切な医療を受診してもらいたいという思いから、これらのサービスを開発・提供しているのです」(阿部氏)

病名を知らなければ、症状が出ていても体質や年齢のせいにしてしまう可能性がある。受診しなければ治るはずのものも治らない。もちろん、受診先は適切な医療機関でなければならない。ユビーを通して症状から考えられる病気についての情報を提供し、適切な医療機関を提案することで、症状が出始めたという適切なタイミングでの治療につなげてもらうことができるのだ。

製薬企業との協業で患者と治療法をつなぐ

前述したように、患者数の少ない病気では、医師が知識をアップデートしていない可能性がある。診る機会が少ないこと、医師の時間も限られていることなどが原因として挙げられるだろう。

ここで重要になってくるのが、製薬企業の役割だ。患者数が少ない病気に対しても、治療薬を日々開発しており、その情報を提供できる立場にいるからだ。

とはいえ、情報提供をMR(医薬情報担当者。製薬企業のセールスパーソン)だけに頼るのは難しい。絶対数が少なく、いつ来院するかわからないHAEなど希少な患者を治療する専門性の高い薬についての情報ばかりを医師に提供するわけにはいかないからだ。医師が、“今、多く診ている症状、病気”の治療法についての情報を得たいと考えるのは、想像に難くないだろう。

そこで、Ubieが次に連携先として考えたのが製薬企業だ。「ドクター、機器、薬──これらが、治療を適切なものにするかどうかのカギを握っています」と阿部氏は言う。

「ドクターの手腕がすばらしくても適切な投薬がなされなければ意味をなさない。薬についての最新情報を、必要なときに得られるようにする必要があるんです」

「製薬企業は、年間2.5兆円のコストをかけて薬を開発している。そのぶん知見がたまっている。しかし、そのように開発した薬が患者に届いているかというと、ものによっては届いていないことがある。それが先ほど例に挙げたHAE。治療薬があるのに、2500人のうち、450人しか治療できていないということは、その薬のポテンシャルのうち20%しか発揮できていないということになるんです。患者には、適切な治療法、適切な薬と出会ってほしい。そしてせっかく治せるのだから治してほしい。そのようなことから、製薬会社との協業を進めています」(阿部氏)

ビジネスの「きも」はSaaSではなく、製薬会社のマーケティング

製薬企業との協業とは何を意味するだろうか。ユビーリンクが生活者と医療機関をつなぐように、ユビープラットフォーム上で医療機関と製薬企業がつながることになる。これにより医師は希少性の高い、また専門外の疾患や医薬品に関する情報、科学的知見を得ることができる。生活者や患者も、製薬企業から疾患や医薬品についての情報を必要なタイミングで得られるようになる。医師にとっても患者にとっても、症状から考えられる病名の選択肢が広がり、適切な薬で治療を施せる(受けられる)というメリットにつながるというのが同社の見立てだ。

Ubieが狙うビジネスの本丸もここにある。医療機関向けサービスの料金は「月額数十万円前後」(阿部氏)、診療所であれば月額1万円と低廉な価格設定をしている。だが、製薬会社のデジタルマーケティング費用を獲得していくことで、大きなビジネスにつなげていく計画だ。一例を挙げれば、武田薬品工業は2025年度までに希少疾患を含めた5つの重点疾患領域での新薬(先発薬)を2021年度比3割増の40品強にする計画を発表している。症状から希少疾患の発見を目指すUbieのサービス群が、新薬のマーケティングの場としても成長することこそがUbieのビジネスの「きも」とも言える。

「わたしたちのビジネスはSaaSモデルではありません。テクノロジーで適切な受診に案内することがゴールなので、そこから逆算していくと、スタートは問診エンジンを精度の高いものにする必要があり、そのために医療機関にサービスを提供した。そのエンジンを使って、生活者向けユビーを開発。ここに、製薬企業の持つ知識が加わるというわけです」(阿部氏)。

Ubieでは2021年4月に武田薬品との協業を発表しているが、現在は国内外の大手製薬企業20社以上との取引がある。資金調達を機に、本事業の開発、またグロースを加速させていく。今回の資金調達も、製薬企業向け事業の人員増強が主目的だと説明する。

また、2024年に施行される医師の時間外労働規制に先がけて、医療従事者の働き方改革や業務効率化を支援するための人員増強、生活者向けユビーのシステム開発や認知向上のための施策にも、調達した資金が使われる。

Ubieの目指す「テクノロジーの力で人々を適切な医療機関に案内する」世の中が実現しつつある。