エアークローゼットのプレスリリースより
エアークローゼットのプレスリリースより
  • ビジネスの強みは「オペレーションの磨き込み」
  • 営業利益は出ており、顧客獲得コストは1.8カ月で回収
  • ZOZO、メルカリに近いマルチプル
  • 今後のエアークローゼットの展開を読み解く「3つのポイント」

IT業界を中心にM&Aの仲介やアドバイザリーを展開しているM&A BASE代表取締役の廣川航氏が直近のM&Aや新規上場承認された企業のビジネスを分析していきます。今回は明日、東証グロース市場に上場するエアークローゼットについての分析です。

新規上場した注目企業の分析の第3回目は、サブスクリプション型のファッションレンタルサービス「airCloset」を展開するエアークローゼットです。

エアークローゼットの上場を分析する際のポイント!

  • レンタルとしてのオペレーションが“磨き込まれている”こと
  • コスト構造が特徴的で、中でも倉庫検品料の比率が高いこと
  • サブスクリプション型であること
  • 顧客獲得コストを1.8カ月で回収できること

ビジネスの強みは「オペレーションの磨き込み」

airClosetはサブスクリプション型のファッションレンタルサービスで、収入の大半は月額の会員費です。ライトプランが6800円、レギュラープランが9800円、ライトプラスプランが1万2800円(ともに税抜)となっています。

また、月額会費以外にもレンタル中の商品を現状のままで買い取る際の販売収入、レンタル終了後にアイテムを販売する「エコセール」、顧客に洋服を配送する際に行う試供品等のサンプリングや梱包資材へのデザイン広告などを請け負う広告収入などもあります。

基本的なビジネスモデルはブランドから調達した商品をスタイリストが選定し、それを会員に届けるというもの。レンタルのため貸し出した商品は返送されますが、それをクリーニングし、メンテナンスをした上で再度他の会員に貸し出す、という仕組みになっています。

エアークローゼットのオペレーションの図(目論見書より)
エアークローゼットのオペレーションの図(目論見書より)

モノをインターネットで販売するビジネスモデルにおいて、重要な要素のひとつとなるのがオペレーションの“磨き込み”です。レンタル事業は、通常のEC事業よりも複雑で個品管理・返品のロジスティクスにはじまり、クリーニング、メンテナンスまで高いオペレーション力が求められます。

エアークローゼットはオペレーション力を磨くために、個品管理においてバーコードからRFID(ICタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術)を導入しているほか、配送手段も大手配送業者のヤマト運輸や佐川急便を使うだけでなく、三菱商事の手がける返品サービス「SMARI(スマリ)」やソフトバンクグループの子会社・MagicalMoveが手がける早朝・深夜配送サービス「Scatch(スキャッチ)」を導入したりしています。倉庫管理システムも独自開発しています。

また、パートナーとなる企業を株主として巻き込んでいるのも特徴です。物流領域では寺田倉庫や日本GLPの子会社・Monoful、クリーニング領域では「ホワイト急便」を展開する中園化学などです。

以前は、大和ハウス工業とも資本業務提携をしていたようですが、ほぼすべての株式と新株予約権を他の株主に譲渡しています。エアークローゼットの目論見書を見てみると、直近では倉庫・クリーニング・メンテナンスを同一拠点にすることも目指しているようです。

エアークローゼットのオペレーションの図(目論見書より)
エアークローゼットのオペレーションの図(目論見書より)
1配送あたりオペレーションコストの推移(目論見書より、単位:円)
1配送あたりオペレーションコストの推移(目論見書より、単位:円)

営業利益は出ており、顧客獲得コストは1.8カ月で回収

エアークローゼットの業績は広告宣伝費などの投入により会員数も増えたことで、売上も伸びており、直近では広告宣伝費を積み増しても営業利益が出ています。目論見書によると、顧客獲得コストは、限界利益をもとにした月次回収額ベースで見ると1.8カ月で回収できています。

会員数の推移(目論見書より、単位:人)
会員数の推移(目論見書より、単位:人)
業績の推移(目論見書より、単位:千円)
業績の推移(目論見書より、単位:千円)

「レンタル」というビジネスモデルの特徴が分かりやすく出ているのは、原価構造です。対売上比率において、最も割合が大きいのが倉庫検品料であり、20年度比でかなり圧縮されています。また、商品を調達する費用は、1年間の定額法で減価償却費として処理されており、かなり圧縮されています。

原価構造(目論見書より、単位:千円)
原価構造(目論見書より、単位:千円)
販管費の構造(目論見書より、単位:千円)
販管費の構造(目論見書より、単位:千円)

ZOZO、メルカリに近いマルチプル

これまで順調に資金調達のラウンドを積み上げていますが、初期については一度の調達における希薄化率が少しだけ高いように見えます。これは、レンタルというビジネスモデル上、初期の立ち上げコストがかなりかかったのではないか、と推測しています。

評価額の推移(登記簿及び目論見書より、単位:百万円)
評価額の推移(登記簿及び目論見書より、単位:百万円)
評価額の推移(登記簿及び目論見書より、単位:百万円)
評価額の推移(登記簿及び目論見書より、単位:百万円)

続いて株主構成です。Monofulや寺田倉庫などの物流系の会社や、住友商事や中園化学のような事業会社、経営陣で約65%以上となっています。一方、今回売り出すのは、VCのSamurai IncubateとD4Vがメインとなっており、ジャフコやSIGが売り出さないため、今後の資本政策は注目です。

大株主(目論見書より)
大株主(目論見書より) (拡大画像)
売出しと公募(目論見書より)
売出しと公募(目論見書より)

上場時のマルチプルも見ていきます。個人的にはどこを比較対象とするべきか、かなり悩みました。今回は比較的近しいアパレルECやシェアリングサービスを展開する企業を対象に、粗利に対するマルチプルを見てみると、ZOZOやメルカリに近いのかなと思いました。

上場時のマルチプル(目論見書より)
上場時のマルチプル(目論見書より)
想定競合のマルチプル(各社決算と時価総額より)
想定競合のマルチプル(各社決算と時価総額より)

今後のエアークローゼットの展開を読み解く「3つのポイント」

最後に今後の展開について見ていきましょう。目論見書には、レディースのさらなる強化、メンズやブランド指名等の横展開、物流プラットフォームの強化、アジア展開という4つの大きな方向が書かれていますが、個人的に注目しているポイントは3つあります。

今後の方向性(目論見書より)
今後の方向性(目論見書より)

1つ目がオペレーションの磨き込みです。事業規模が大きくなるにつれて固定費も下がっていくと思うので、どこまで粗利率が上昇するのかは注目すべきポイントです。

2つ目は、物流プラットフォームのOEM提供の可能性です。返品してから再利用というロジスティクスを作り込んでいる企業は日本でも珍しいのではないかと思います。ESGという観点からも再利用を促進することができる物流プラットフォームをOEMで提供することは、今後ニーズも高まっていく可能性があるのではないかと思っています。

最後がVC持ち分の行方です。経営陣と事業会社の株式保有比率を足すと、65%程度になりますが、一方で投資ファンドの保有率が30%以上となっています。これらの投資ファンドは今回あまり売り出せないので、どのように保有比率を下げていくのか。今後の動向に注目しています。