「前橋るなぱあく」の園長を務める原澤宏治氏
「前橋るなぱあく」の園長を務める原澤宏治氏
  • 10円、50円で遊具を楽しめる「前橋るなぱあく」
  • 「公園なら誰が来てもいいはずだ」
  • 遊園地を「カフェテラス化」
  • 誕生日イベントで入園者をデータ化
  • いくつものリピーターを作る仕掛け
  • 話題を集めた、日清とのコラボの舞台裏
  • 公式アプリで入園者数の把握以外にも拡がる可能性
  • アイデアの源泉は現場、園長が最後に目指すもの

“日本一安い遊園地”として知られる、「前橋るなぱあく(前橋市中央児童遊園)以下、るなぱあく」。昭和の雰囲気満載のレトロな遊園地がここ数年、大胆な改革によって入園者数を伸ばしている。

その改革の仕掛け人が、元銀行員、経営コンサルタントの原澤宏治氏だ。もともと、前橋るなぱあくは前橋市が直接運営しており、2004年から民間に運営を委託するようになったものの、年間入園者数は約120万人前後で推移、赤字が続いていた。

そこから、原澤氏は常識破りのアイデアを続々と実行に移し、多い時には1日の利用者数が1万5000人を超えるまでに、るなぱあくを生まれ変わらせた。年間の利用者数は最大171万人にまで増えており、今も大胆な改革は進行中だ。

10円、50円で遊具を楽しめる「前橋るなぱあく」

るなぱあくは1954年(昭和29年)に開園した遊園地。入園料無料で、国の登録有形文化財に指定されている電動木馬やそのほかの小型遊具は1回10円、8つある大型遊具も1回50円で乗ることができる。回数券は500円で11枚(550円分)ついてくるから、さらにお得だ。

るなぱあくの広さは約8800平方メートルで、サッカーコート2面分ほど。子どもが迷子になりようがないほど小さくて、乗り物も園内の雰囲気もレトロ感あふれる遊園地はかつて、閑古鳥が鳴いていた。

「私がここに来て一番感じたのは、この施設の持ってるポテンシャルなんです。このポテンシャルの高さをうまく表に出してあげれば、お客さんは来るだろうと思いました」

原澤氏はどのようにして、るなぱあくを生まれ変わらせたのか。日清の「どん兵衛」や会員制スーパー・コストコとコラボするなど、企業からも注目を集める原澤氏の発想力と行動力について掘り下げよう。

「公園なら誰が来てもいいはずだ」

原澤氏は群馬県の沼田市出身。高校卒業後、県内の銀行に勤めた。その頃に町から若者が減り、企業も衰え、活気が失われていくのを肌で感じ、「若者が働き、生活したくなるような地域にしたい」と2002年、経営コンサルタントとして独立した。地域の活性化を目指し、中小企業の経営改善に携わっていた過程で、まちづくりを手掛ける企業・オリエンタル群馬と知り合った。

前橋市から、るなぱあくの指定管理業務の募集が出ると聞きつけ、オリエンタル群馬に手を挙げるように勧めたのも原澤氏だ。事業案が採択されたオリエンタル群馬は、同社は地域の活性化に携わり、銀行員としてサービス業の経験もあった原澤氏に「園長をやってもらえませんか?」と声をかけた。原澤氏がそれに応えたことで、るなぱあくの躍進が始まる。

こうして2015年、園長に就いた原澤氏が最初に目を付けたのは、前橋市中央児童遊園という正式名称を持つ、るなぱあくの位置づけだ。「公園なら誰が来てもいいはずだ。大人も楽しめる施設にしよう」と考えた。

「群馬県も少子化が進んでるから、子どもだけを楽しませていたら衰退の一途ですよね。ここに来た時はどんよりした空気もありましたけど、中学生、高校生、小さなお子さんを連れてくる大人が楽しめる施設にすれば、限りない可能性があるなと思いました」

園長に就任した年の夏にスタートしたのが、「るなぱDEないと」。普段は17時(冬季は16時)に閉園する園内を夏休み期間中、18時から21時までの夜間開園し(編集注:2022年の開催は未定)、アルコールも提供。園内の遊具を活用した謎解きゲーム「るなくえすと」や大道芸人のパフォーマンスも用意した。

18時から21時までの間、園内を楽しめる「るなぱDEないと」
18時から21時までの間、園内を楽しめる「るなぱDEないと」

るなぱあくの遊具は年齢制限がなく、大人も乗ることができる。「るなぱDEないと」を始めると、スーツ姿の会社員やカップル、若者のグループらが遊具に乗って遊ぶ姿を見られるようになった。

夜の時間帯の営業に手応えを得た原澤氏はその後、子どもを主役にした夜間開園「るなぱ DE HALLOWEENないと」を10月末のハロウィンの時期に合わせて開催。群馬県内で活動しているダンスチームを集めたダンスバトル「夜のダンス選手権」では、自分の子どもが踊っている姿をカメラに収めようと家族総出での来園が増え、夜間だけでも多い時には1日2000人弱が来園した。

夜間開園の効果は、昼間にも表れた。夜に訪れて「るなぱあくって面白い」と感じた大人たちが、休日の昼間に子どもを連れて来るようになり、昼間の利用者数も増えていったのだ。

遊園地を「カフェテラス化」

原澤氏は、るなぱあくの「カフェテラス化」にも手を付けた。

「ここでコーヒーを飲みながらちょっと仕事をするっていうのもアリだなって思うんですよね。豆汽車が走ってる横で、サラリーマンが真剣な顔して打ち合わせしていたら、面白くないですか? 普段と違う雰囲気のなかで打ち合わせすることでプラスアルファの効果もあるでしょう」

カフェテラス化の第一歩として導入を決めたのは、キッチンカー。日常的に通ってもらう場所にするためには「味が大切だ」と、原澤氏自身が味見をして出店の採否を決めた。ホームページでも出店者を紹介しており、今ではドーナツやクレープ、フライドポテトといった軽食から窯焼きピザ、ナポリタン、ドネルケバブなどの食事まで21組が集う。これだけバラエティに富んだキッチンカーが日替わりで楽しめる場所も、珍しいだろう。


さらに、もともとバラが植えられていた、豆汽車が走る線路の内側スペースには、オリエンタル群馬直営のおむすび屋「マム」を作った。今、この店の名物はから揚げ。群馬県民なら知らない人がいないという鳥めしが名物のお店でかつて板長をしていた知り合いから「俺のから揚げ、おいしいんだよ」と原澤氏が聞いたのがきっかけだ。

「成績の上がらない支店に行っては立て直してきた伝説の板長でね。そこはタレをかけた鳥めしが有名なんだけど、から揚げを作ってもらったらすごくおいしかったから、これをやろうよって言ったんです。それで5個350円で売り始めたら、めちゃくちゃ人気になりました」

板長は、ただ者ではなかった。これまでの1日の最高売り上げは、から揚げ5個入りが約480セット売れて、16万円超。遊園地の飲食店というより、から揚げ専門店並みの人気だ。から揚げの販売を始めてから、学校帰りの高校生たちがから揚げを買いに来て、園内で食べる姿も見られるようになったという。もちろん、から揚げと相性抜群のおむすびを合わせて買う人も多く、自分が取材に行った日にはおむすびも残り少なかった。

誕生日イベントで入園者をデータ化

夜間開園や食を充実させることで来場者の多様化に成功した原澤氏は、メインターゲットである親子の集客にもぬかりがない。女性スタッフの「誕生日ごとに何かイベントをやったらどうか」という提案から発展した企画「ばぁすでぃ」は、2016年1月から始まった。

4歳の誕生日から1カ月間、それぞれ1日1回無料で遊具に乗ることができる企画「ばぁすでぃ」
4歳の誕生日から1カ月間、それぞれ1日1回無料で遊具に乗ることができる企画「ばぁすでぃ」

るなぱあくでは、4歳になると8台ある大型遊具すべてにひとりで乗ることができるようになる。そこで、4歳の誕生日から1カ月間、それぞれ1日1回、無料で乗ることができるようにした。利用する4歳児には「ばぁすでぃカード」を配り、遊具に乗るたびにシールをもらって、コレクションできるようになっている。

4歳児にも、その親にも嬉しいこの企画、実はマーケティングとして大きな意味を持っている。「ばぁすでぃカード」をもらうためには、子どもの誕生月であることを証明しなくてはならない。その際に、子どもの氏名と住んでいる地域、連絡先などを記入してもらっている。それを、データとして蓄積しているのだ。

「都道府県、県内の市町村、どこからどれぐらいの人がきているか、わかるんです。このデータを使うと、例えば広告を打つ時にどこに出せば効果的かどうかもわかりますよね。こういうデータを持っていることで将来的にも考えられる展開は大幅に変わってきます。入園者をデータ化するのは難しいので、このデータを持っている遊園地は少ないでしょう」

このデータから浮かび上がったのは、地元の前橋市、人口が多い高崎市に続いて、伊勢崎市と渋川市からの来園者が多いこと。興味深いのは、どちらにも遊園地があることだ(伊勢崎市には華蔵寺公園遊園地、渋川市には渋川スカイランドパークがある)。

0歳児でも乗ることができる遊具があり、「子どもの遊園地デビューにピッタリ」という評判が自然と広まったるなぱあくは、実際、遊びに来るのも未就学児が多い。原澤氏によると、その子どもたちは小学生になると東京ディズニーランドに行ってしまいがちだという。そこで、もっと群馬県で遊んでもらおうと、華蔵寺公園遊園地と提携して互いにリーフレットを置いた。

「それぞれ利用の世代層が違うから、うちに来た子どもが大きくなったら華蔵寺に遊びに行ってくれたらいいし、華蔵寺に行った人が小さい子向けの遊園地もあるんだねってるなぱあくに来てくれたらいいですよね」

いくつものリピーターを作る仕掛け

2017年の夏休みにスタートした、るなぱあくで働くスタッフの仕事を学ぶイベント「るなぱ DE ohhh!しごと」は、おそらく全国の遊園地で唯一の企画。夏休み期間中の平日限定で開催されたこのイベントの目玉は、子どもたちがアナウンスをして遊具の始動ボタンを実際に押せること。るなぱあくでの仕事を体験した子どもたちのなかには、毎年参加する子もいるという。その思い出が、リピーターを生み出す。

「全国どこに行っても、子どもが遊具のボタンを押せる施設ってないですよね。でも、自分が子どもだったら押したいじゃないですか(笑)。最近、ここでお仕事体験をした子が高校生になって、『学校の課題で前橋の紹介のムービーを作りたいんですけど撮らせてください』って来ましたよ」

同年10月に始動した「るなぽけ(るなぱあく子育て支援プロジェクト『ぽっけ』)」は、地域の子育て支援団体と連携し、親子で楽しめるイベントを開催しながらママ友を作ってもらおうという企画だ。

初回から大勢の参加者が集まり、コロナで中止になるまで、毎回60〜70人のママが集まるようになった。全員子どもを連れてくるので、かなりの大所帯。参加者には会員証を発行し、来園のたびに会員証を掲示すると遊具の利用券を1枚プレゼントしている。コストコとのコラボは、「るなぽけ」から始まった。

「初めてコストコさんが営業に来た時に、『るなぽけに協賛できない?』って聞いたら、面白いかもしれないっていうところから始まりました。どういう会なのか知ってもらうために1回目は見学に来てもらって、それからは参加者が喜ぶような食べ物と飲み物を提供してもらっています」

遊具が少ないるなぱあくは、混雑していなければ半日で楽しめる。原澤氏は、さまざまな策を講じて、その小さな遊園地に何度も通いたくなるきっかけを作ってきた。

それが功を奏し、2017年には過去最高となる171万人の利用者を記録した。それが一過性のブームではないのは、コロナ禍で休園と入場制限を余儀なくされた2020年も、143万人が利用していることからもわかるだろう。

話題を集めた、日清とのコラボの舞台裏

入園者の急増を背景に、企業とのコラボも活発になっている。サーキット風のコースを走る「豆自動車(小型電動自動車)」のなかにはバスを模したデザインのものがある。前橋市に拠点を置き、市内バスを運営する日本中央バスの車体と同じデザインだ。原澤氏が同社にはたらきかけ、寄贈された。

「うちの課題は駐車場が少ないこともあり、車社会の群馬県では公共バスの利用者が減少していることも踏まえて、公共バスを使って欲しいんですよね。子どもはバスが好きですから、うちで乗った豆自動車と同じデザインの路線バスが町なかを走っているのを見て、バスに乗るきっかけになればいいなと思っています」

「保護者にもバスを選んでもらうために、日本中央バスに乗る時、るなぱあくに行きますと伝えたら、チケット引換券をもらえるようにしました」

2020年2月に開催した、「日本一安い遊園地で日本一高いどん兵衛を」と掲げた日清のどん兵衛とのコラボは、先方からのオファーだった。群馬県の食材をたっぷりトッピングした一杯1000円の「日本一お高いどん兵衛」と、ミニサイズで1杯10円の「日本一お安いどん兵衛」を販売したこのイベントは、さまざまなメディアに取り上げられ、どちらもすぐに完売する大盛況となった。

「日本一安い遊園地で日本一高いどん兵衛を」と掲げた日清とのコラボ企画も実現した
「日本一安い遊園地で日本一高いどん兵衛を」と掲げた日清とのコラボ企画も実現した

原澤氏の発案で、毎年クリスマスの時期に開催して人気を博している、園内に掲示されたキャラクター・月うさぎを探すビンゴ形式のイベント「月うさぎサンタを探せ」のどん兵衛ロゴを探すバージョンも、このイベントに合わせて実施。こちらも600人以上が参加し、用意した景品が足りなくなるほどの賑わいになった。

今年5月には、前橋市を中心に店舗を構えるみそ漬け製造販売のたむらやの売店「るなしょっぷ」が開店。園内の空きスペースに置いたプレハブのショップで、子ども向けの駄菓子や地元産朝どり野菜を売り始めた。将来的には自社の漬物の販売を計画しているという(園内のほかの場所に移転が決まり、現在は休業中)。これも先方から出店の相談があり、売り上げの10%を収めてもらう契約を結んだ。

収益増に貢献しているのは、企業だけではない。おむすび屋の横には、ハンドメイド雑貨を売っているスペースがある。この場所は雑貨を作る女性グループに親子向けのワークショップを開催してもらう前提で、売り上げの10%を収めてもらう契約で提供している。この雑貨が意外なほど売れるという。出品している女性たちが友人、知人に声をかけて集客してくれるので、リピーターの増加にもつながっている。

さらに、るなぱあくの入園者が市内を回遊するような取り組みも始めている。

「うちは地域のハブになり得ると思っていて、地元のお店ともタイアップを始めました。7月から開催しているイベントの景品として『焼きまんじゅうマフィン』を売っている地元のカフェとおむすび屋で利用している海苔屋さんが、うちのお客さん向けにそれぞれ100枚ずつ、引換券を出してくれたんです。その券を受け取ったお客さんがたくさんお店に来たと連絡がありました。DMの成約率は1%、テレマーケティングで2%とされているので、すでにそれを上回る効果を上げています」

公式アプリで入園者数の把握以外にも拡がる可能性

急増する来園者に対応するために原澤氏が活用しているのは、LINE。登録すれば遊具利用券3枚がついてくることもあり、公式アカウントにはフォロワーが約1万3500人いる。

「2017年頃からLINEを始めましたが、驚いたのは登録者の反応です。コロナで入場制限をかけていることもあり、昨夏から予約システムを導入していて、だいたい毎月15日前後に翌月の予約を開始するのですが、LINEで告知をすると土日はすぐに予約で埋まります。その予約状況を見て平日に来る人も増えているので、平日の集客はコロナ前の120%ほどに伸びているんです」

LINEはイベントの告知にも使用されていて、そのイベント目当てで開催期間中に県外から来園するフォロワーも少なくないという。

LINEとの相性の良さに気づいた原澤氏は今、公式アプリの開発を急いでいる。アプリは、情報の告知だけが目的ではない。GPS機能で入園時に「入園しますか?」と表示され、「はい」を押すと入園者としてカウントされるシステムを組み込んだ。

退園時も同様の仕組みにすることで、園内に何人いるかが瞬時にわかるようになる。コロナになってから「入園票」を書いてもらうことで把握していた1日の入園者数が、自動で算出できるというメリットもある。

アプリをダウンロードしてもらうハードルは、LINEで友だち登録するよりも高いが、それを乗り越えるためのアイデアを温めている。

「アプリには地域情報のページを作ります。そこには、このお店に行けばこういう割引をしてもらえるという情報を掲載する。地域情報ページに掲載してもらいたいという企業からは、登録料をもらうことも検討しています。これが成功したら、るなぱあくのお客さんが前橋市を歩き回るようになって、地域の活性化にもつながるでしょう」

アイデアの源泉は現場、園長が最後に目指すもの

なにをしたら喜ばれるのか。どうやったら課題を解決できるのか。さまざまな手立てを講じて集客、収益の増加を実現してきた原澤氏の頭のなかには、まだいくつもアイデアがある。

その源泉になっているのは、るなぱあくの「現場」。手が空くと現場に出て、お客さんの様子を見て、会話に耳を澄ます。時には、「こういうことを考えてるんだけど、どう思います?」とお客さんに尋ねる。そうすることでニーズを探り、反応がよければすぐ実行に移してきた。

「そこまでしないと、自分がいる意味がない」と語る園長が最終的に目指しているのは、地域への還元。なんとかして地元を盛り上げようという想いは、銀行員時代から変わらない。

そのために、今日も現場に足を運ぶ。