SoVa代表取締役CEOの山本健太郎氏
SoVa代表取締役CEOの山本健太郎氏
  • バックオフィスで多かった“同じ悩み”
  • 既存の士業と競合しないプロダクト
  • 対応業務のタスク化でサポートを強化
  • 目指すのは国内最大のアカウンティングファーム

事業を進める中で欠かすことのできない、税務・労務・登記など行政への手続き書類の作成。専門家に依頼すればコストがかかる一方、自力で対応するには負荷が大きい──。そうした書類作成のトータルサポートを、月9800円(税込)から受けられるのが「バーチャル会計事務所SoVa(ソバ)」だ。

書類作成を難しくしているのは、専門的な知識の不足だけでなく、記入例や説明文の難解さが大きな要因の1つ。このプロダクトでは、対応したい手続きや作成に困っている書類名、手続きなどを検索すると、手続き書類作成に必要な要素をわかりやすく整理して手順やフォーマットをウェブブラウザ上で表示してくれる。その手順に従うことで、専門知識がない人の書類作成を支援する。

一般的な書類作成の記入例
一般的な書類作成の記入例
「バーチャル会計事務所SoVa」が提供する記入フォーマット
「バーチャル会計事務所SoVa」が提供する記入フォーマット

2022年7月末時点で、IT系スタートアップをはじめ、農業や飲食店、製造業など150社が導入し、毎月100~200件の問い合わせがあるという。

サービスを提供するSoVa代表取締役CEOの山本健太郎氏は、「特定の手続きに関して書類作成をするためのプロダクトはありますが、税務・労務・登記トータルでの行政書類作成サポートという面では、競合がいないオンリーワンのプロダクトです。提供を開始して、こういったソリューションを必要とする方たちが、非常に多いと感じています」と話す。

バックオフィスで多かった“同じ悩み”

大学3年で会計士資格を取得した山本氏は、卒業後、不動産系スタートアップで取締役CFOを務め、バックオフィスやファイナンス業務を担当。当時、業務上の手続きに関して、社内や取引先など多くの人から、同じような相談を受けた。

例えば、本社を移転する場合、法務局や税務署をはじめとして、提出しなければならない書類が18種類もある。これらの書類は自治体などで書式が異なる場合があり、そのパターンは1000以上もある。スタートアップでは、起業家自身や数少ないバックオフィス担当者が、すべての手続きを担う必要があるため、書類作成の負担は大きな課題だったという。

会計士であると同時に、自身もバックオフィスを担った経験から、デジタル化によるソリューション提供が可能と考えた山本氏は、2019年9月にSoVaを創業。2年の開発期間を経て、2021年10月に「バーチャル会計事務所SoVa」をリリースする。

その背景には、起業のきっかけとなった多くの人たちの悩みに加え、会計士や税理士、社労士といった士業側の課題もあった。

既存の士業と競合しないプロダクト

低価格で行政書類の作成をサポートする──。一見、既存の士業から仕事を奪うビジネスと思われそうだが、実態は異なるという。

現在、国内の税理士の平均年齢は60代、社労士の平均年齢は50代。高齢化に加えて人口減少もあり、不足が懸念される。決算などで業務が集中する時期を鑑みると、一般的に税理士1人が安定的に対応できる顧客は20社ほどで、受託できる案件数に限界がある。また、従来型の書類作成を続けている士業の事務所などは、デジタル対応が難しいケースも多いのだ。

依頼者にとっても、地域によっては士業の人数が少なく、対応に適した人と出会えるとは限らない。税理・労務・登記では専門領域が異なるため、それぞれの専門家と契約する場合、コスト面の負担も大きい。

そこで士業が対応する業務を、書類作成といった「答えが1つに絞られるもの」と、融資や節税対策など「正解が複数存在するもの」の2種類に分け、DXと親和性の高い前者の「答えが1つ」の領域に特化して「バーチャル会計事務所SoVa」を開発した。

「機械と人間では得意分野が違いますから、デジタルに優位性のある部分に関しては、デジタルで解決すればいいと思います。逆に、融資戦略やストックオプションの設計など、専門知識や得意分野が活かせる……『士業魂』がくすぐられる領域に、人が集中できる環境を提供したいと考えました。実際に、士業の人たちからも、『こういうサービスを待っていた』という声をいただいています」(山本氏)

SoVaでは、さまざまな得意分野を有する士業と提携しており、現在は導入企業に対して要望に合った専門家を無償で紹介もしている。既存の士業と競合するのではなく、協業するスタンスでビジネスを展開しているのだ。

山本氏は「すでに活躍している士業に加え、起業を考える有資格者にとって、SoVaとの提携は顧客開拓になる上、得意分野に注力できる環境につながると考えています」と主張する。

対応業務のタスク化でサポートを強化

サービスの提供開始から約10カ月で導入社数を増やしてきたが、7月15日には、業務サポートを強化する新たなUIも実装した。

「入社・退社」や「会社情報の変更」など、対応したい手続きを画面上から選択すると、チャット画面が起動。ガイダンスに従って質問に答えると、手続き完了までのタスクが表示され、「いつまでに、どの書類を、どこへ提出するのか」までをカレンダーで表示する。

手続きのテーマとともに、カレンダーに反映されたタスクやスケジュールが表示される
手続きのテーマとともに、カレンダーに反映されたタスクやスケジュールが表示される
実行したい手続きを選択すると、チャット画面が開きガイダンスを行う
実行したい手続きを選択すると、チャット画面が開き、ガイダンスを行う
完了までに必要なタスクが一覧になり、カレンダーに反映される
完了までに必要なタスクが一覧になり、カレンダーに反映される

新UIでは「チャットによるガイダンス」「タスク化」「タスクのカレンダー表示」で、特許を取得した。

サービスを導入している企業のほとんどが、正社員5名以下の小規模事業者とのことで、限られた人員で多くの業務をこなすケースが想定される。タスク化やスケジュールのアフターフォローなど、現在の顧客へのサポート強化を図る一方、導入企業の成長段階を想定し、事業規模に比例して広がるニーズへの対応も検討している。具体的には、顧客が行った手続き情報を分析し、直近あるいは近い将来に発生する手続きや、必要になりそうな対応について、提案するサービスの提供だ。

「事業を拡大しても使い続けていただけるよう、プロダクト自体の成長・拡大も必要だと考えています。ただそれだけじゃなく、御用聞きに回る“三河屋さん”のように先手先手で、士業の方と協業しながら、導入企業へ必要な提案ができるようにしたいですね」(山本氏)

目指すのは国内最大のアカウンティングファーム

SoVaはシードラウンドで、イーストベンチャーズや個人投資家から5000万円を調達。現在はシリーズAの資金調達を準備中だという。

同社は2026年までに契約数1万5000社を目指す。山本氏は「国内最大の、アカウンティングファームになることを目標にしています」と話す。

税理士・会計士の業界では、国内最大手の事務所が契約している企業数が、約1万~1万5000社といわれている。税理士1人が対応できる顧客数が限られる中、単純計算であれば、これを超える規模を実現するのは難しい。

しかし、SoVaが提供しているのはDXされたプロダクトで労働制約がなく、個人の力量による対応力やクオリティに差が出ることもない。既に導入顧客は全国におり、小規模事業者にマッチしている点から、潜在顧客の母数が非常に多いともいえる。こうした強みを背景に、今後はより顧客数の拡大にも力を入れる予定だ。​