
ONE PIECE(ワンピース)やNARUTO(ナルト)、新世紀エヴァンゲリオン、鬼滅の刃などを筆頭に、海外で高い人気を誇る「日本のアニメ」。2021年11月に日本動画協会が発表した「アニメ産業レポート2021」によれば、2020年のアニメ産業の海外市場は1兆2394億円を記録するなど、1兆1867億円だった国内市場の規模を初めて上回った。
NetflixやAmazon Prime Videoといった動画配信サービスの普及も相まって、ますます日本のアニメは海外の人たちに届きやすくなり、新たなヒットも生まれている。
一方で、アニメを制作する現場はいまだ旧態依然とした構造となっている。具体的には、アニメ制作会社ではアニメの制作費用を捻出できないため、出版社などの大企業が「製作委員会」として出資し、制作に関わる。作品の権利は製作委員会が持ち、利益は製作委員会に参画する企業に分配される。アニメ制作会社は著作権を持つことができないため、版権ビジネスなどによる二次利用収入を得ることができない現状にある。
その結果、アニメーターが働く環境も厳しい状況にある。日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が実施した「アニメーション制作者実態調査 報告書2019」によれば、アニメーターの半数がフリーランスとして働いており、平均年収は440.8万円。また、月の平均作業時間は230時間、月の平均休日は5.4日となっている。
旧態依然としたアニメ制作のかたちを変えるべく、アニメ業界出身でポケモンや新世紀エヴァンゲリオン、PSYCHO-PASS(サイコパス)などに携わったクリエーターが“Web3時代のアニメスタジオ”を標榜するプロジェクトを立ち上げた。それが「ANIM」だ。
NFTのホルダーと共にアニメを制作する
ANIMは6500体の動くジェネラティブNFT(プログラムやアプリによってランダム生成されたもの)である「ANIM PFP」(編集部注:PFPとはソーシャルメディア上のプロフィール写真としてよく使われるデジタルアート作品のこと)のホルダー(所有者)と一緒に、アニメを制作していくというプロジェクト。
従来のアニメ制作は製作委員会を起点に、アニメ制作会社が仕事を受け、アニメーターが制作する構造だが、ANIMはファンの声を起点にプロジェクトの運営元であるANIMがアニメーターと一緒にアニメを制作していくDAO(分散型自律組織)の概念を取り入れたコミュニティだ。
収益に関しては、ANIM PFPの売上の一部や原画をNFTにして販売した際の売上、版権の二次利用による売上が還元される予定となっている。

ANIMファウンダー兼メインデザイナーの"LEG”こと足尾暖氏によれば、同プロジェクトを立ち上げたきっかけは、前述したアニメ産業が抱える課題に加えて、日本のアニメをモチーフにしたデザインが特徴的なロサンゼルス発のNFT「Azuki」などを筆頭にアニメ系のNFTプロジェクトが海外で盛り上がりを見せていたことへの危機感だという。
「Azukiなどのプロジェクトは素晴らしいものではありますが、あれを見たときに日本のアニメ産業が培ってきた文化や技術などを、表面のキラキラした部分だけ持っていかれてしまったように感じたんです」
「また、大きな資金を得た海外のプロジェクトは将来的に、日本のアニメスタジオを買収するアクションもとるのではないか。そんなことを考えるようになりました。実際、海外のプロジェクトから『日本のアニメスタジオを紹介してほしい』という依頼も受けたこともあります。このままでは、日本が海外発のIPをもとにしたアニメを制作するだけの“工場”になってしまうという危機感がありました」
その危機感をもとに、立ち上げられたプロジェクトがANIMだ。2022年7月末にNFTをリリースしたところ、8月15日時点でNFTの総ホルダー数は1726人となった。コミュニケーションツールのDiscord上にあるコミュニティ内でアニメ制作に関するディスカッションが行われており、11月ごろに制作したアニメが公開される予定だという。
ANIMではまず「1話数分の短尺アニメを制作していく」(LEG氏)とのことで、それをTikTokやYouTubeなどで配信する計画。さらに、長尺アニメの制作も手がけていく。年内公開予定のオープニングムービーでは、ロックバンド・MAGIC OF LiFE(マジック オブ ライフ)がANIMの主題歌を担当することも発表された。
そのほか、SNSで人気のNFTプロジェクト「TheMafiaAnimals」や「VeryLongAnimals」などとコラボしたアニメの制作も決まっているとのこと。スマートコントラクトを活用し、アニメ制作工程のプロジェクト管理サービスを開発する計画もあるという。
ANIM以外にも「Web3×エンタメ」という切り口では、ブロックチェーン技術を利用したクラウドファンディング「FiNANCiE」を活用し、堤幸彦氏、本広克行氏、佐藤祐市氏の3人の映像監督が共同で制作指揮をとるかたちで、サポーターと一緒に映画を制作する「SUPER SAPIENSS(スーパーサピエンス)」というプロジェクトも生まれている。
製作委員会が起点となり映画やドラマ、アニメを制作していた従来の構造とは対称的な仕組みとして、Web3の考え方をもとにした新しいコンテンツづくりのあり方が盛り上がっていく可能性は高い。LEG氏は、「ANIMをきっかけに、日本のコンテンツを世界に発信する新しい潮流をつくっていけたら」と抱負を語った。